先週から、一人の猫さんが入院しています。
名前はまだありません。
でも、きっと立派な名を貰い、大事にかわいがってもらえるはずの子です。
そうできるように、今必死に病気と闘ってくれています。
一週間前、他院より交通事故の猫の治療受け入れ要請を受けました。
年齢不詳の野良猫で、かなり状態が悪く、右後肢は修復不可能なほど損傷し、断脚の必要もある患者さんでした。
来院時の意識は不明瞭で、立つこともできず、体には虫がたかっていました。
口の中を見るとほとんど歯も残っておらず、事故とは関係のない腎不全を持っているようで、おそらく相当なお年の猫さんと思われました。
そもそもどこまでが事故の症状で、どこまでがもともとの病状なのかもわからない状態。
保護してこられた方は、家ノ前に横たわっていたこの猫を放置できず、病院に連れてきただけの、猫さんとははじめてお会いした方。
いずれにせよ、
長期の入院が必要であること、
治療費の半額を病院が負担したとしても、結構な費用になってしまうこと、
事故の治療が終わってもどの程度元気になるかわからないこと、
そもそもの余命がどれだけあるのかも判らないくらい高齢であること、
もしうまく治療が成功したとしても、その後腎不全なりのケアをし続ければいけないこと
などを保護された方に説明しました。
正直、あまりにハンデがありすぎて、保護された方があきらめてしまうのではと思ったのですが、「出来るだけのことをしてあげてください」と快く治療を了承してくださいました。
このホームページに以前から通ってらっしゃる方の中にはちょっと思い出す方もいるかもしれませんが、去年の2月ごろひとりごとで書いた未来ちゃんのことが頭をよぎりました。
同じように交通事故で足がひどい損傷を受けてしまい、見知らぬ人に保護されて病院に来た猫「未来ちゃん」。
保護された方のご好意で治療をさせてもらったのに、助けてあげることも出来ず、保護された方につらい思いをさせてしまった、苦い思い出です。
年齢はだいぶ違いますが、そのときの症状やシチュエーションとよく似ており、今度こそあのときのような思いは、と身の引き締まる思いでした。
点滴と食道カテーテルからの強制給餌で状態の改善を待ち、3日前の深夜に断脚手術を行いました。
意識もしっかりしてきて、目があうと、にゃーにゃーと鳴いてくれます。
頭を撫でるとごろごろといってくれます(本当にノラなのでしょうか?)。
もちろんまだ安心できませんが、ちょっと期待できるのでは、と思っております。
未来ちゃんの保護をしてくれた方もそうですが、時々出会える本当に動物が好きな方。
そういう人たちと出会えると、大げさでなく、ああこの仕事やっていてよかったと思うのです。
日本もまだまだ捨てたもんじゃないと思うのです(それは大げさ)。
美談としてはありがちと思うかもしれませんが、実際はじめてあったばかりの猫に、何万という治療費を負担して、しかも治ったあとは飼いつづけるというのは、簡単に決断できるものではありません。
私だって、今の獣医師という立場でなく、一般の飼い主さんとして、そのようなシチュエーションに立たされたら、同じような選択が出来るか自信がありません。
こういう人たちが、「ああ、治療を選択してよかった!」「見捨てなくて良かった!」と思えるような、そんな治療をしたいです。
悲しみの涙ではなく、元気になってよかったと、感動の涙を流させてあげたいのです。
私たちに出来ることは、治すためのお手伝いだけかもしれませんが、それでも出来るだけのことをしてあげたいと思うのです。
未来ちゃんのときのように、まだ名前はついてはいませんが、立派な名前をつけてもらえるよう、そしてちょっとでも長くその名前で呼んでもらえるよう、お手伝いをしていきたいと思います。
交通事故という大きな不幸に出会ってしまいましたが、めったにお目にかかれないくらいの、動物好きの飼い主さんに出会えた幸せを実感させてあげたいです。
未来ちゃんのリベンジ、というわけではありませんが(それでは今の猫さんに失礼ですね)、今度こそ!と闘志を燃やしているのです。
夜間手術が連日続いても負けません!
冷凍食品の晩ご飯が続いても大丈夫!!
この年になってニキビができても気にしません(ふきでもの?)!!!
猫さんや保護者の喜ぶさまを見て、私も幸せのおすそ分けを頂くのです。
獣医師としての、最高の報酬です。
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