先日一匹の猫がお亡くなりになりました。
とても不運で、でも少し幸せな小さな猫です。
10日ほど前、まだ若い猫が病院に担ぎ込まれました。
伝染病により鼻から血膿を流し、交通事故により左足が途中で千切れてしまっていました。
駅の前でうずくまっていたその猫は、うちの病院に通っている動物好きの飼い主さんに拾われ、駅からそのまま病院へと連れてこられました。
来院時、明らかに危険な状態だったその猫は、もちろん本当の飼い主もわかりません(というか野良なのかもしれませんが)。
こんなとき、非常に厳しいことを宣告しなければいけません。
「この猫を生かすことができるかはわかりませんが、可能性は0ではありません。
ただ酸素室に入れて安静にし、点滴をし、食道にチューブをつけて食欲が出るまで強制的に栄養を取らせ、伝染病を治し、断脚をするという長い治療の道のりをたどることになり、そのためには多大な費用がかかります。
もし完治した後、この猫を飼ってくれるなり、あるいは飼い主を探すなりを責任もってしていただけるのでしたら、治療費は半額で結構ですが、それでも10万近い費用になるかもしれません。
それでもこの子を治療してもよろしいですか」と。
いやらしい話に聞こえるかもしれませんが、夜間救急で担ぎこまれる交通事故の(飼い主不明の)犬猫は昨年だけで30匹以上。
その子たちすべてを無料で治療し、一生涯にわたって病院で飼いつづける事は、現実問題としては不可能です。
動物病院は無料奉仕のボランティア団体ではなく、またすべての飼い主の見つからない患者さんを保護できるような、ムツゴ○ウ王国でもないのです。
このようなお話をしたときに警察署などの公的機関の方を含めて結構な数の方が「ただじゃないんですか?」といわれますが、その猫を拾ってきたご家族の方たちは
「いくらかかっても良いんで、とにかく助けてあげてください!」と言ってくれました。
年間30匹の交通事故の犬猫のうち、半額とはいえ、拾っただけの見ず知らずの人が治療費を出費してでも治療をしてほしいと、申し出てくれるのは25件程度。
意外と多くの人たちが、治療を希望してくれるとはいえ、この猫にかかるであろう費用は、見知らぬ猫に支払う額としては、飛びぬけたものでした。
治療を開始してからも、毎日のようにその拾い主のご家族は、面会にきて、心配そうに猫の様子を眺めていました。
数日と立たず、猫に名前がつきました。
「未来ちゃん」と言う名前です。
小さい体で、大きな病気と戦うその猫に、幸せな未来があるようにとつけられた名前でした。
名前までつけてもらった以上、死なせるわけには行かないと、ない知恵を絞ってあらん限りの治療を試みましたが、日に日に猫の状態は悪化し、とうとう1週間という短い治療期間を経て、天に召されてしまいました。
このような仕事である以上、一般の人よりも多くの死を見送っていかなければいけないのは当然ですが、それでも今回の死はかなり落ち込みました。
せっかくいい人に拾われ、治療を受けさせてもらい、素敵な名前までつけてもらった未来ちゃんを、私はなすすべなく死なせてしまいました。
未来ちゃんに訪れた(よい飼い主さんと出会うという)最大の幸運を生かすこともできなかったのです。
時々自分の力不足を歯がゆく思いますが、拾い主さんは私を責めるどころか、感謝の言葉を残し、涙を流しながら未来ちゃんを家へ連れ帰り、お葬式まできちんと挙げてくれました。
拾ってからすぐに病院に担ぎ込み、そこからは隔離室に入ったままだった未来ちゃんを、拾い主さんはお亡くなりになってから、初めて顔をじっくり見たとおっしゃいました。
死んでから始めて顔をあわせるくらい、接触のなかった両者ですが、間違いなく未来ちゃんはその家族の一員だったのではないかと思います。
猫がどう思っているか判らないじゃないかと、おっしゃる方もいるかもしれませんが、4歳にもなって名前もつけてもらえず、子宮癌と診断がついても「あんまり動物が好きなわけでもないから」と手術にまったく興味も示さないような、飼い主さんもいるなかで、そのご家族と未来ちゃんとの関係は、短くともとても密接な関係だったのではないかと思うのです。
名前をつけてもらった時点で?それともお父さんに駅で拾われた時点で?
どこからが飼い主と、コンパニオンアニマルの関係なのかはよくわかりませんし、未来ちゃんがはたして幸運だったのか、不運だったのかよくわかりませんが(助けてあげられなかったから、やはり不運なのかな?)。
きっとあのご家族は未来ちゃんのことを一生忘れないであろうことだけは、確かです。
助かってはいないのですが、最後にちょっと「救われた」のかもしれません。
でもやっぱり、助けてあげたかったです。
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