うちのハニワが最近頑張ってます。
ハニワと言っても、日本の古墳時代に特有の素焼の焼き物。古墳上に並べ立てられ…、というくだりはすでに2年前のひとりごと「ハニワと浮気」でやってしまっているので何ですが、うちの輸血犬ハニワです。
やや純粋なラブか怪しまれるような斑のイエローラブラドールで、とにかく人が大好きで、全くと言っていいほど吠えないですが、けして賢くありません(謙遜でなく)。
時にペットシーツから尿がはみ出、
時にケージの中で糞をして踏み散らかし、
時にそれを食べ、
時に興奮のあまり私を突き飛ばし、
時に興奮のあまり走行する車を突き飛ばそうとし(確実に死ねる)、
時に風に舞う落ち葉をすべて拾って回り、
時に生きたセミをくわえ口の中で暴れてびっくりし、
時に用水にハマる
そんな愛すべきアホ犬です。
アホな子ですが、いい子です。
アホな子ですが、可愛いです。
アホな子ほど可愛いのかもしれません(シーターも愛すべきアホな子でしたし)。
そんなハニワが今月はとても頑張ってくれました。
輸血で2匹のワンちゃんの危機を救ったのです。
どちらも重度の貧血で、一時HCTが9を下回った、まさに瀕死の状態でした。
HCTとは血液中の血球体積の割合で低いほど貧血ということになります。
犬の正常値が37〜55%くらいで、ざっくりと45%くらいが一般的。
これが37を下回ると貧血という評価になるのですが、その2人の患者さんはひと桁台にまで血が減ってしまっていました。
要は本来の血の量の5分の4が失われてしまっていた状態です。
ハニワはアホな子ですが、血はたっぷりあります。
二人のワンちゃんにそれぞれ80ccずつ血を分けてくれました(まあ無理やり私が取ったのですが)。
合わせてもたったの160ccと思われるかもしれませんが、私の体重の3分の1程度しかないハニワにとっては、結構な量です。
それに80ccとはいえ、その量を採血するには結構な時間がかかります。
人間だったら「動かないでくださいねー」といえばよいのでしょうが、犬の場合は血管に針を刺され、長時間じっとしているのはそれなりに苦痛が伴うでしょう。
何しろハニワはじっとしていることが苦手なアホな子です。
針が刺さっているかどうかはともかく、じっとしていることが苦手なのです。
体重も20kg以上ありますから、本気で抵抗すれば、いともたやすく針は抜け、支える看護師を突き飛ばして走り去ることもできるでしょう。
それでもハニワはじっと血を取らせてくれました。
気を紛らわせるように、時々看護師さんがくれるエサを嬉しそうに食べながら、そして珍しくスタッフみんなに囲まれちやほやされて「いい子だねー」「偉いねー」と言われてご満悦になってしっぽを振りながら、最後まで血を取らせてくれました。
血を採るという大事業のご褒美が単なるエサ=ドッグフードです。
可哀想に私なんかに飼われたばっかりに、ハニワはドッグフードと関節のサプリメント以外、口にしたことがないのです。
ジャーキー?何それ?
ボーロ?それって食べ物?
パン?ああ、ご主人さんがたまに食べてるあれね
という感じです。
だからドッグフードごときを一粒ずつ看護師さんからもらいながら、うれしそうに、でも少し不安そうに、それでもやっぱりしっぽを振りながら、血を採らせてくれるのです。
貧血だった2人のワンちゃんは、どちらも長い闘病生活の末、自力で血を作り始めてくれました。
一人の患者さんはもともとうちに来られていた方ですから、今も家で継続治療をしています。
もう一人の患者さんは主治医の先生の紹介で遠方から通ってこられていたので、食欲が戻った今は主治医の先生の元で治療をされています。
アホな子なので、あまり人様に自慢できる機械が少ないのですが、今月は胸を張って言わせていただきたいと思います。
ハニワ偉かったぞー!!
お前がいなかったら、あの2人のワンちゃんはお亡くなりになってたんだぞー!!
お前が2人もの命をつないだんだぞー!!!
と
それともうひとつ忘れてはいけないのが、飼い主さんの諦めない心です。
どちらも一度はHCTが一桁台にまで落ち込み、助かる可能性は30%以下(一方の子には10%もないかも)と飼い主様にはお伝えしました。
大げさな表現ではなく、その時の二人の症状と血液の状態はそれくらい切羽詰まった状態に陥っていたのです。
患者さんによっては「助かる可能性がそんなに低いのであれば・・・」と諦める方が出てきてもおかしくない数字だったと思います。
それでもその両方の飼い主さんはどちらも最後まで諦めず、戦い続けることを選択されたのです。
その10%、30%にかけていなければ、ハニワの血がどうという以前のお話だったでしょう。
あの2人のワンちゃんの生還は、ハニワ(の血)と飼い主さんの思いが両方揃って初めて成し得たことなのだと思います。
最後まで戦い続ける飼い主だけが良い飼い主で、治療を途中でやめる飼い主が悪い飼い主とは言いません。
1%でも改善する可能性があるのなら戦い続けたいと思うのも飼い主の愛情、痛い思いをさせてまで助かる可能性が1%なら、最後は家で一緒にいてあげたいと思うのも飼い主の愛情。
単に価値観の違いであり、どちらが正しいとか間違っているという話ではないと思うのです。
ただ獣医師の価値観は単純で、少しでも改善できる可能性、長生きできる可能性があれば戦いたいと思ってしまうものです。
やはり一緒に戦い続けてくれる飼い主さんがいると、そしてその飼い主さんの思いが実り奇跡的に助かる子を見てしまうと、またその奇跡を見たくなってしまうのです。
最後まで諦めず戦い続けてくれる飼い主さんを尊敬し、嬉しく思ってしまうのです。
飼い主さんから退院の時に「ありがとうございました」という言葉をいただく時、こちらも心のなかで「ありがとうございました」と思っているのです。
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