開業してなんだかんだと17年ほどたち、育てた獣医師も(育てたというか勝手に育ったというか)8人になりました。
もちろん卒業していった獣医師もいますので今現在うちの動物病院にいるのは私を含めて5人だったのですが、10年前に卒業した獣医師3号が最近帰ってきてくれました。
私が獣医師1号として、獣医師3号は二番目の弟子ということになります。
今時、師匠、弟子などと徒弟制度じみた表現が動物病院でまかり通っているのもどうかと思いますが、私がそのように師匠に育ててもらったので、やはり上司と部下というよりは、師匠と弟子というイメージが強いのです。
「師匠と言えば親も同然、弟子と言えば子も同然」ということで、新しい弟子を迎えるととてもうれしいですし、弟子が育つ姿を見るのは何にも代えがたい喜びがありますし、弟子が立派に卒業していくのは寂しくもうれしい複雑な気持ちにもなります。
2008年のひとりごと「卒業」に書いた弟子3号は福岡県出身の女性で、うさぎ大好きの獣医さんです。
ウサギ好きが転じて(災いして)うちに就職することになり、頑張って勉強して立派な獣医さんになって巣立っていきました。
自分にとっては初めての弟子卒業だったので、なんとも感慨深かったのをよく覚えています。
あれからなんだかんだあって、結婚もされて、お子さんも生まれて、不思議な縁だか旦那さんの尽力だかで富山に引っ越してこられて、10年ぶりの復帰となったのです。
育児の真っただ中でもありますから、今は午前の診療だけ出てもらっていますが、それでもやっぱりうれしい!!
この人手不足の世の中、動物病院業界も同様で、猫の手も借りたい毎日。
助かる!
ありがたい!
そしてやっぱりなんだかうれしい!
私が大阪で修行していたころは、獣医師と言えば丁稚奉公のようなもので、いずれは自力で独立開業して独り立ちするというのが当たり前でした。
私が勤めていた病院はかなりちゃんとした病院でしたが、当時は低賃金、重労働、超過労働のうえ3Kという、今思うとかなりブラックな労働条件の動物病院がほとんどだった気がします。
雇う側も雇われる側もそれが当然と思っていた時代で、雇っている側は「将来開業する技術を教えてやってるんだから多少の過剰労働は当然だろう」という空気がありましたし、雇われている側も「どうせいつか辞めて独立するんだから今はきつくても辛抱しよう」という気持ちで働いていました。
働いていたというより、やっぱり修行していたという感覚が近いのかもしれませんね。
とはいえ昨今は動物病院も全国いたるところに乱立し、歯医者さんほどではないにしろかなり動物病院過剰な状態になってきています。
そうすると今後は巨大な借金を抱えるまでのリスクは避けて、生涯勤務医として生きていこうという獣医さんも増えてくるでしょうし、何より女性の獣医さんたちは育児に追われて開業どころではないケースも多々あるかと思います。
開業まではできなくても獣医師として生涯を全うしたい。
育児や家庭ももちろん大事だけど、フルタイムではなくても獣医師の仕事をしたい。
そんな思いを持っている獣医さんたちはたくさんいるはずで、動物病院サイドも単なる修業の場ではなく、生涯働ける会社としての動物病院に変わっていかなければいけないのかもしれません。
将来開業を考えなくてよいだけの十分な報酬。
完全週休二日制。
他のスタッフに気兼ねなく取れる有給。
充分な産休や、育休。
労働時間や労働日数の選択。
退職金や当然あるべき社会保障。
そんな一般の会社としてはごくごく当たり前の権利を享受できる動物病院であり続けなければと思います。
一般の企業に勤めてらっしゃる方々からすると何を当たり前のことをと思われるかもしれません。
師匠と弟子という関係の良い部分は残しつつ、会社としての動物病院を成熟させていく。
恥ずかしながらそんな当たり前のことに結構頑張らないといけない業界なのです。
今が多分過渡期で、あと10年くらい経つと、動物病院にもそんな時代があったっけね、みたいな話になっているのかもしれません。
獣医師3号が体調を壊さず、家庭に無理をかけず、もう一度この動物病院に戻ってきて良かったと思えるように、まだまだ取り組まなければいけないことがたくさんあります。
彼女の帰還はそれを再認識するいい機会だった気もします。
いろんな意味でありがとうと言いたいです。
直接伝えるのはこっぱずかしいので、ひとりごとで…
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