11月から2月にかけ,怖いシーズンがやってきております。
うちの病院ではこのシーズンを,椎間板ヘルニアのシーズンと呼んでおります。
今回は犬の病気のお話のあので,退屈な方もいらっしゃるかもしれませんが,後学のためとお付き合い願えればと思います。
椎間板ヘルニアという病気をご存知でしょうか?
人間でよく言うところの「ぎっくり腰」のことです。
ただ怖いのは私も昔一度やったことがあるのですが,あれは痛いです。
腰の病気なのに,振り向くことも手を上げ下げすることも出来なくなる,非常に怖い病気です。
大雑把に言いますと,背骨と背骨の間にある「椎間板」というクッションが,遺伝的な問題だったり,栄養のとりすぎだったり,カルシウムの取りすぎだったり,塩分の取りすぎだったりとさまざまな問題で,かたーい骨のようになってしまい,ソファーから飛び降りたときや,立ち上がったときなどに背骨と背骨に押しつぶされるような形で(本来はゴムのように軟らかく,骨同士が動いても,グニャリとぶつからない様にクッションとして働いてくれるはずなのですが),脊髄(背骨の中の太い神経)のほうへ飛び出してしまい,神経を圧迫して下半身不随になってしまう病気です。
はっきりいって,めちゃめちゃ怖い病気です。
人間だと「痛い!」という段階で病院に飛び込むのですが,犬はこの辺りの症状を我慢し,ある日突然両後ろ足が動かなくなって,初めて気づく飼い主さんがほとんどなのです。
ほんとにある日突然。
昨日まで元気に走り回っていたのに,ある日突然下半身不随になるわけで,飼い主さんの驚きは想像を絶するでしょう。
これが冬になると,やたらと発症するのです。
去年の冬は,12月だけで,50人ものワンちゃんがうちの病院に椎間板ヘルニアで担ぎ込まれてきました。
他の病院からの依頼手術を含めてですので,多少割り増しにはなってますが,それでもやはり多いです。
おととしの冬や,大阪で修行していたときもこんなに大量の椎間板ヘルニアの子は見たことがありませんでした。
おそらくこれには理由があると思うのです。
椎間板ヘルニアになりやすい条件
1.ダックスフンドがとてもとてもなりやすい
2.太っていると,びっくりするくらいなりやすい
3.ジャーキーやにぼし,牛乳,人間の食べ物などを食べていると,もうこれでもかー!!っていうくらいなりやすい
4.5歳あたりから,もう勘弁して;x;ってくらいなりやすい
これらの条件をいくつか満たすと,椎間板ヘルニアになりやすいわけですが,だいたい担ぎ込まれてくる子は,すべての条件を満たしています。
去年の12月に来た50人の椎間板ヘルニア子達のうち,40人がダックスフンドという状態。
おそらくダックスフンドブームから4,5年くらいたち,太った4,5歳のダックスフンドが世にあふれ返っているのだと思うのです。
治療は点滴や飲み薬などの内科療法で治せる場合もありますが(厳密には治っているのではなく,症状をごまかしているだけですが),場合によっては大掛かりな外科手術を必要とする場合もあるのです。
今月の末ごろこの冬最初の椎間板ヘルニアの手術が飛び込んできました。
石川県から担ぎ込まれてきたその患者さんは,やっぱりダックスフンドで,やっぱり太っていました。
名前はピーちゃん。
10歳とは思えないほど,かわいらしい顔で愛想を振りまき,入院中も痛いのをおして遊んでくれとアピールするやさしい子です。
もう後ろ足をつねっても振り向いてくれないくらいまで麻痺し,おしっこも自分では出来ず,前足だけでずるずる動き回る姿に,飼い主さんは涙を流していました。
ここまで来ると,手術を覚悟しなければいけません。
後ろ足が立つ,立たないよりも,おしっこが出来なければ,生きてはいけないからです。
しかし,つねっても分からないところまで来た場合,手術による改善率は極端に下がります。
発症から手術までの時間にもよりますが(早ければ早いほど,改善率は高いです),ひいき目に見ても60〜70%の改善率というところです。
つまりベストのタイミングで手術をしても,30〜40%の子は治らないわけです。
ここで飼い主さんは悩みます。
年齢も年齢ですから,手術にはリスクが伴います。
費用も結構高いです。
手術をすれば100%治ると分かっていれば,みんな手術をするのかもしれませんが,この手術の改善率が飼い主さんの頭をよぎるわけです。
出来ることなら,テレビドラマのように「絶対治します!!」といってあげたいところですが,現実は○い巨塔や,○龍のようには行きません(あーいうドラマチックなものを,私に求めないでください)。
ピーちゃんの飼い主さんは,手術にかけてみることにしました。
きっと家族で悩んで,悩んで,悩みぬいて決めたことなんだと思います。
わたしは「絶対治します!!」とはやはり言えず(だから,無理なんですって),「出来るだけのことはやってみます」とお伝えしました(うあ,頼りなっ!!)。
ピーちゃんはその小さな(太ってるけど)体で,手術を最後まで戦い抜いてくれました。
手術から二日たち,自分でおしっこをしてくれました。
獣医師が,この手術のあと,一番ほっとする瞬間です。
内心小躍りしたいくらいなのですが,他のスタッフの手前,院長っぽく
「おしっこ自分でしたね〜」なんて,軽く言って見せます。
その二日後,後ろ足をつねると,あのやさしいピーちゃんが珍しく怒ってきたのです。
つまり「痛み」が分かるようになったわけです。
内心大踊りしたいくらいなのですが・・・以下略
まだまだピーちゃんと飼い主さんの戦いは始まったばかりで,これから自宅での看護や,これから自宅での看護や,お灸,リハビリなどをやっていかなければいけません。
もちろん楽観視も出来ません。
それでもやっぱりうれしいのです。
あきらめずに手術を選択してくれた飼い主さんがうれしいのです。
おしっこをしてくれたピーちゃんがうれしいのです。
つねったら,怒って吠えたピーちゃんがうれしいのです。
「ありがとうございました」と嬉しそうに帰っていった飼い主さんがうれしいのです。
いつか四本足で歩き始めるピーちゃんを夢見てしまうのです。
そして,あー,この商売はやめられない,と思うわけです。
ただこれだけは言わせてください。
とにかくダックスは太らせないで!!
治療や,手術も何ですが,当たり前ですが,病気にならないのが一番なんです。
うちの子だけはなんとなくならない気がする・・・なんて根拠もない楽観視はしちゃいけません。
一度主治医の先生に,うちの子って太ってない?って聞いてみてください。
もし,太ってますよーといわれたら。
大急ぎでダイエットを始めましょう。
そしてお父さんのお小遣いを減らして,椎間板ヘルニア貯金をしましょう(やな貯金だな)。
甘く見てはいけません。
お父さんのお小遣い,1年分くらいは吹っ飛んでしまいます。
ま,太らせた人が,手術費用を払うべきでしょうね。
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