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アレス動物医療センター

しらなかった

 毎日の診療で,よく飼い主さんの口から出てくる,あまり好きではない言葉があります。
 それは「しらなかった」です。

 今からさかのぼること15,6年前,大学生になったときに,ああこれはたしかに義務教育ではなくなったんだなぁと感じたのが掲示板という存在でした。

 たぶんどこの大学でも一緒だと思うのですが,掲示板というものが大学の入り口付近にあり,ここに授業の教室変更や休講,試験の日程,試験不合格者(追試決定者)など,さまざまな学生への情報が貼り出されます。
 
 小学生や高校生のころは,授業の変更があれば先生がいちいち教えてくれましたし,宿題を忘れれば怒られました。
 試験や授業参観など何らかのイベントがあるとプリントしにして渡され,情報はこちらから出向かなくても,先生のほうから必死に送られてきていました。

 それが大学生になると,ぴたりとなくなるのです。
 自分に必要な情報は,自分で確認しなさい。
 つまり,自己責任が発生する大人の仲間入りということなのでしょう。

 毎日きちんと掲示板を見ていないと,試験がいつどこであるのかさえ分かりません。
 試験当日学校に来ていなくても,別に大学の先生は家に電話などしてくれません。
 宿題を忘れても大して怒られませんが,単位を落とします。
 試験に出席せず,不合格になった挙句,追試試験にも参加しなければ,簡単に落第するのです。

 落第してから大学の教授に「何で試験の日程を教えてくれなかったんですか!?」と責めよっても
 「掲示板に日程のってたでしょ?見てなかったの?」ってなもんです。

 高校生までは比較的手取り足取り情報を渡され,こちらから能動的に動き出さなくても,自然と情報が入ってきていたのが,大学生あたりから自分から動き出さなければ情報が入ってこない自己責任の社会への放り出されるわけです。

 社会に出るとこれはもっと顕著になるでしょう。
 取引先の会社から,会議日程の変更がメールできていたのに気づかず,会議に遅刻してしまった。
 「すみません,メール見てなかったんです」では,言い訳にもならないはずです。
 それで取引がパァになっても文句は言えません。

 動物を飼うときにも同じことが言えるのではないでしょうか。

 先日12歳のワンちゃんがフィラリアという寄生虫に感染して突然死しました。
 生まれてこの方一度もフィラリアの予防はしたことがなかったそうです。
 お父さんは言いました「そんな予防があるなんて,しらなかった」

 7歳で高齢出産を迎えた柴犬が,夜中の3時にぐったりしていると担ぎ込まれてきました。
 お昼に2匹産んでから,ずっとがんばっているが生まれない,と。
 急いで帝王切開をしましたが,おなかの子供たちはすでに死後硬直で冷たく,硬くなっていました。
 「7歳での出産は高齢出産になるので,自力出産は出来ないことが多いです。なぜ半日も放置しておいたのですか?」と聞くと
 お父さんは言いました「そんなこと,しらなかった」
  
 3歳のチワワが,ネギ中毒で死にました。
 原因はドッグフードにかけて与えた,焼肉のタレでした。
 「ネギや玉ねぎ,ニンニクそのものじゃなくても,ネギの成分が入ったものでも中毒になることはあるんですよ」と伝えるとお母さんは言いました。
 「しらなかったんです」と

 6歳のパグがジステンパーという伝染病で死にました。
 「なぜワクチンを毎年打ってあげなかったのですか?」と聞くと
 お兄さんは言いました「毎年打たなければいけないとは,しらなかった」

 3歳のフレンチブルドッグが真夏の深夜に熱中症で死にました。
 3時間もの間,車の中に閉じ込められていたとのことでした。
 「夜とはいえ,夏に車の中で3時間は,人間でも無理ですよ」と伝えると
 お姉さんは言いました「しらなかった」と

 ウサギにあげてはいけない果物,おやつ,年齢に見合わないペレットと牧草を与えられ続けて1週間食欲不振だというウサギが,治療の甲斐なくお亡くなりになりました。
 「うさぎは一日食欲不振になるだけで,もう結構ピンチなんですよ」と伝えると
 お母さんは言いました「しらなかった」

 「しらなかった」「しらなかった」「しらなかった」・・・
 うっきーーーー!!
 って感じです。

 別に獣医師でなければ知らないようなことまで,知っていてくださいとは思わないのです。

 その辺の本屋さんで普通に売っている 犬の飼い方,猫の飼い方,うさぎの飼い方,あたりに書いてある,ごく当たり前のことさえ知っていてもらったら良いのです。

 犬を飼うなら,犬の飼い方のほんの1冊や2冊読んでくれれば良いのです。

 家で犬が生まれるなら,出産,育児の項目を読みなおしてくれれば良いのです。

 それが無理なら,せめて自宅で何でも判断せずに,病院に質問の電話をしてほしいのです。

 もちろん,病院でも色々な情報を発信はしていく努力をし続けなければいけないのでしょうが,すべての飼い方,病気,予防について診療で話しつくすことは出来ません。

 自分や,家族の決断で動物を飼うと決めたのなら,その子のためにほんの少しでも時間を割いて,勉強してあげるのも,飼い主さんが負うべき責任の一つではないでしょうか。

 本も読まず,病院にも行かず,ただボーっとしていても,何の情報も入ってきません。

 「しらなかった」なんて言い訳が通るのは高校生までです。

 予防もせずにフィラリアに感染させて
 「12歳まで良くがんばったなー,これも天寿やなー」なんて,家族みんなで涙を流し,感動的なラストっぽく持っていこうとしている一家を見ると。
 
 「12歳は人間で言うと64歳じゃー!天寿もへったくれもあるかー!!」
 と,心の中でちゃぶ台をひっくり返す私がいます。

 そのこはフィラリアという虫に殺されたんじゃない,飼い主さんの無知に殺されたんだよ。
 お,結構うまいこと言ったんじゃねぇ?

 ・・・山田くーん,座布団全部もってっちゃいなさい。



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