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アレス動物医療センター

命をかけて



 人間の出産ももちろんそうですが,命を生み出すという作業はとても尊く、とても危険な作業です。
 犬や猫やウサギだからと言って,出産が安全と限った話ではなく,命がけの戦いを母親はしいられるとことを,十分理解してあげなければいけないと思うのです。

 最近帝王切開の手術がやたらと多いのですが,単にシーズンだからという理由ではないようです。

 いろいろな原因が考えられますが,主に見かけるのは次のような原因だと思います。
 交配適期を誤って胎児が少なすぎる(胎児が少ないとおなかの中で成長しすぎて自力で出てこれないことがあります),適齢期を過ぎた高齢出産,オスの方が大きすぎて起こる胎児過大,そして一番多いのが母親の肥満です。

 妊娠検査を理由に来院される母親の多くが肥満状態で,ここしばらくベストの体重で妊娠に臨む動物を目にする機会がなくなってしまいました。
 妊娠したから栄養を取らせるためにたくさん食べさせているからではなく,妊娠前から太っている母親がとにかく多いのです。

 太っていると骨盤内などに脂肪がたまり,産道が狭くなってしまいます。
 また,運動不足の子も多く,自力出産が可能な腹筋を持っていない子も多いです。
 動物において(人間もなのかもしれませんが),肥満のお母さんが自力で出産するのはとても大変なことなのです。
 
 妊娠検査のときに,この子の体型では自力出産は難しいかもしれません,と伝えると,飼い主さん達は一様に青ざめます。
 そして,帝王切開は命を落としかねない危険な手術です,と伝えるとさらに青ざめてしまいます。

 手術でもっとも危険な作業は麻酔と考えています。
 帝王切開の手術で出血多量でどうこうなるということは,まず無いでしょうが,母親が麻酔に耐えてくれるかどうかがポイントになります。

 人間もそうですが肥満の人の全身麻酔はそれだけでもリスクをともないます。
 そこへ,陣痛やそれにともなう食欲不振で体力が落ちているという全身状態の悪さ。
 しかもお腹の中には大きな胎児が詰まっていて,横隔膜はうまく動かずに呼吸困難な状態。
 太っている子は,お腹を開ければ大量の内臓脂肪で,それをかきわけつつの手術となれば,手術時間は通常の2割り増し。

 実は太っている子の帝王切開は飼い主さんが思っているよりも,ずっとずっと危険な手術なのです。
 手術で命を落とすこともありうるというのも,単なる脅し文句ではなく,実際起こりうることだと思っていますし,私自身犬の帝王切開で死に直面したこともあります。

 誤解はして欲しくないのですが,別に出産をさせてはいけません,と言っているわけではありません。

 ただ,出産についてきちんと飼い主さんなりに勉強をされましたか?
 出産の危険性について,きちんと理解したうえで,臨んでいますか?
 少しでも安全な出産を迎えられるよう,十分な準備はしていますか?

 ということをいつも考えてしまうのです。

 うちのかわいい○○ちゃんの子供が見てみたいから・・・という安直な理由だけで,きちんと勉強も準備もせず,成り行き任せで出産を迎えることだけは避けてあげて欲しいのです。

 おうちで人間の赤ちゃんを迎えるときも,出産の本を買って,育児の本を買って,にわか勉強でも一生懸命安全な出産を目指すはずです。

 かくいう私も,帝王切開で生まれた親不孝ものです。
 母のお腹には大きな手術跡があります。
 子供のころから母のお腹の傷を見るたびに,自分が生まれるために,母にあんなに大きな傷を残してしまったと思っていました。
 きっと死ぬほど痛かっただろうと思いますし,本当に怖かっただろうと思います。
 出来ることなら,母に傷跡を残すことなく生まれたかったと思います。
 
 もちろん母はそのことに関して恨み言など言ったことはありませんし,私を生んだことを後悔もしてはいないでしょう(してたりして)。

 ただ,子供を生むためにお腹を開くなどという行為は,避けられるならもちろん避けた方が良いでしょう。
 ベストを尽くしても,結果帝王切開になったとしてもそれはしょうがないでしょうが,最善を尽くさず命を危険にさらすことになれば,きっと大きな後悔につながるでしょう。
 
 感情の赴くままに,計画性もなく出産させるのではなく,きちんと準備をし,勉強をし,獣医師に相談し,より安全な出産を目指してあげて欲しいのです。
 大事な我が子のお腹を開く原因を,飼い主さんが作らないように。

 ちなみに,母の名誉のために書いておきますが,別にうちの母は肥満だったから帝王切開になったわけではありません。
 そのころは痩せていたそうです。
 ・・・残念ながら,そのころの記憶は私にはありませんが。



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