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アレス動物医療センター

甘言と諫言

 同じ質問に対して,まったく別の二つの意見が返ってきたとき,あなたはどちらの意見を取り入れますか?
 私の経験でいうと,だいたい自分に都合の良い意見の方を採用することが多いと思います。

 先日5歳くらいのうさぎさんで,糖尿病になってしまった子がいました。
 残念ながら治療の甲斐なく(というほど改善もしてあげられなかったのですが),すぐにお亡くなりになってしまったのですが,かなりの太った子でした。
 
 牧草やペレット以外に何かあげてました?と聞くと
 牧草はほとんど食べない,うさぎのビスケットが大好物,そのほかリンゴ,いちごなど果物が好きで,ドライフルーツもよく食べる,というお話でした。
 
 2年前にも一度お会いしたことのある患者さんだったのですが,その時点ですでにかなり太っていて,そのときも
 「ビスケットや果物はもうやめた方が良いですよ。このままじゃ糖尿病や毛球症,関節疾患などになっちゃいますよ」
 と,くどくどとお話させてもらったのですが,どうも聞き入れてもらえてなかったようで,体重はさらに増加していました。

 どうしてビスケットやめなかったの?と聞くと
 近所のウサギに詳しい人が「うさぎはこれくらいがかわいい,ちょうど良い。うちのウサギもビスケットを毎日食べてたけど8歳まで生きた」と言ってたので・・・とのこと。

 「といったので・・・」の後何もおっしゃらなかったのですが,当然「ビスケットをあげることにしたんです」という意味がつながるのだと思います。

 そこでまぁ思うわけです。
 んな,あほな〜,と。

 ぼへ〜としているとはいえ曲がりなりにも獣医師をやっている人間の意見と,ウサギに詳しい近所のおっさんの意見,その選択肢でなぜおっさんを選ぶ!!

 でも,実はこういうことはウサギに限らず本当によくあるんです。

 「生後2ヶ月までは水を与えちゃいけないって,ペットショップの人が言ってたんです」
 「ささみなら与えて良いって,ブリーダーさんが言ってたんです」
 「便秘のときはサツマイモをあげると良いって,犬をたくさん飼っている人が言ったんです」
 「キャベツなら与えていんじゃない?ってお母さんが言ったんです」
 ・・・

 ペットショップの人やブリーダーさんは百歩譲ってわからないでもないのですが,俺の意見ってお母さんの意見以下!?
 いくらなんでもそれは切ない,そんなに私の説明って説得力に欠けますか;;。
 
 ただ,これは多分お母さんの方が獣医師よりも信用できるとか,ペットショップさんの方が信用できるとかという問題ではおそらく無いのだと思うのです。

 おそらく,飼い主さんにとって,より自分の意見に近い意見,あるいはより自分にとって都合の良い意見,いわゆる甘言がその名のとおり甘く聞こえるのではないでしょうか。
 冷静に考えれば,お母さんより獣医師の意見の方がおおむね合っているのは当たり前。
 ただ,あえて冷静に考えないようにしたくなるのです。

 もちろん,獣医師に言われたことをきちんと守る心のしっかりした飼い主さんもいるのですが,どうしても耳に痛い諫言よりも,自分にとって都合の良い甘言を選びたくなる気持ちは,正直わからないでもないです。

 「この子太ったねー」という意見と,「いやいや普通だよー」という意見
 「おやつなんかあげちゃいけないよー」という意見と,「ちょっとくらいは大丈夫だよー」という意見
 「きちんとしつけをするのも飼い主さんの義務ですよ」という意見と,「うちの子しつけなんかしなくても良い子ざますから,そちらもしつけなんかしなくても良いんじゃないですの?」という意見

 二つの異なった意見を耳にしたときに,どちらの方が自分に都合の良い意見なのかではなく,どちらの方が理にかなった意見なのかを,冷静に見る眼が必要なのかもしれません。

 「出会いなんて縁だから,いつか良い人見つかるよ」という甘言と,「仕事ばっかりして,せっかくの休みも家に引きこもってたら,彼女なんてできるはずないよ」という諫言が耳に届いたら,迷わず後者を採択する鋼の精神が必要なんですね。

 ・・・むずかしいですね。  



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