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アレス動物医療センター

動物を死なせうる仕事



 この獣医師という仕事は、本当にやりがいがある良い仕事だと思っているのですが、それでもやめたいと思うくらいつらいときもあります。
 それは自分の手で動物を死なせてしまったときです。

 真夜中に呼び出されて病院に行ったら、きれいな絵の入った腕をちらつかせてくるがらの悪い患者さんだった。
 一生懸命治療をしたけれど、飼い主さんが、なかなかお金を払ってくれない。
 なんてのも、もちろんつらいですが、そんなことでこの仕事を辞めたいなどと考えたことは一度もありません。
 
 ただ、動物を救うべきこの手で、その動物を死に至らしめることほどつらいことはありません。

 大阪の修行時代、うさぎの眼の診察で、光をうさぎさんの目に当てた瞬間にショック死させてしまったことがあります。
 不正咬合で餓死寸前のうさぎさんを口の中を覗いていて死なせてしまったことがあります。
 富山に来て約500回ほどうさぎの麻酔処置をしてきましたが、合計3人のうさぎさんを麻酔で死なせてしまいました。
 おなかを開く前に、毛を刈っている間に死なせてしまったこともあります。

 手術をお受けするときなどには100に1回くらいの麻酔死のリスクはあります、というお話をしますが、実際その死に直面したときに、例えようもない後悔を感じます。
 そして、この仕事をどうしようもなく怖くなってしまうのです。

 これはウサギに限った話ではないですが、さっきまで元気に動いていた動物たちを麻酔や検査などで死に至らしめるというのは、この手で飼い主さん達の幸せを壊すことであり、獣医師として許されるはずのない行為です。

 動物を助けたくてやっているのに、動物を死なせうる仕事。
 飼い主さんに幸せになって欲しくてやっているのに、飼い主さんを不幸にしうる仕事。

 今まで病院で死なせてしまったうさぎさん達の飼い主さんは、なぜか皆お礼を口にして帰っていかれました。
 
 私の力不足で生命を奪ってしまったのですから、罵られこそすれ、お礼なんか言われる立場ではないのです。
 それでも、涙を流し、冷たくなった家族をしっかり抱きしめながらも、頭をさげて帰っていかれます。
 その後新しく迎え入れた動物たちを、今もつれてきてくれます。
 本当に頭のさがる思いで、そのおかげでかろうじてこの職業に踏みとどまっていられるのでしょうが、それでも何日も寝むれない夜を過ごすことが多いです。

 大きなやりがいとは裏腹に、大きな恐怖を常に持ち続けなければいけない仕事であり、おそらく生涯この恐怖に慣れることはないでしょう。
 もちろん慣れてはいけないとも思います。

 これから30年は続くであろう獣医師人生で、また何人かの命を奪い、飼い主さん達を不幸にしてしまうのかと思います。
 そしてその度に、後悔で眠れない夜を過ごすのかもしれません。
 
 それでもやっぱり、私にはこの仕事しかできないと思いますし、この仕事以上に喜びを感じられる仕事にも出会えそうもないと思います。

 ハイリスクハイリターンというわけではないのでしょうが、大きなやりがいを得られる分、大きなストレスを抱えるのは当然の義務なのかもしれません。

 って、こんなひとりごと載せると、うちの病院への来院患者さんが減っちゃいそうですね。
 この文章だけ読むと、うさぎの避妊手術を考えている方がしりごみしてしまいそうですが、それでもやっぱり避妊手術はした方が良いです。
 手術のリスクより、手術しないリスクの方がはるかに高いので、これは誤解しないでください。
 私のウサギに対する麻酔リスクは今のところ0.6%くらいですが、世の中にはもっと安全に手術ができる先生がいるかもしれません。

 リスクはあるんだよー、というお話と。
 ストレスを溜め込みすぎて私がはげないよう、懺悔まじりのひとりごとが書きたくなっただけなのです。



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