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アレス動物医療センター

中毒のシーズン

 毎年ゴールデンウィーク前後になると異常に増える病気があります。
 それは「中毒」です。

 年間を通じて、ネギ中毒やチョコレート中毒など、人間の食べ物に関わる中毒がたくさん来院されますが、4,5月の中毒はちょっと内容が違います。

 除草剤、殺鼠剤、殺虫剤など農薬関係の中毒が異常に多いのです。
 
 地域によって時期は違うのでしょうが、富山県は4月中旬あたりから、5月末あたりまで、殺鼠剤や除草剤が多く田畑で使われるのです。
 で、この除草剤が付着した草や、殺鼠剤、あるいは殺鼠剤を食べてぐったりしているネズミを食べた犬や猫が、大量に病院に担ぎ込まれてくるのです。

 特に深夜や、ゴールデンウィーク中などは、他の病院が休みに入ってしまうこともあり、中毒患者のフィーバーがかかってしまいます。

 そしてこれがなかなか助からない。
 
 中毒の場合の一番の治療は、毒物を食べてしまってから1時間以内に、吐かせて胃洗浄をするというのが原則です(ただし、中毒物質によっては、吐かせてはいけないものもあります)。
 ところが、この1時間以内というのがなかなか難しいのです。

 まず、病院に1時間以内に連れてきてくれる飼い主さんが非常に少ないです。
 大体の飼い主さんは半日(あるいは2,3日)経ってから連れてきて「元気も食欲もあったんで・・・」といわれる方が多いです。

 テレビドラマのサスペンスか何かで、毒を口に入れて、1分もたたずに血を吐き出すのを想像されるのでしょうか、食べてすぐに症状がないと、ちょっと様子見ようかな、なんて思う方が多いようです。

 しかし、金田一耕助の映画のように、食べて1,2秒で血を吐く毒物などまれで、普通はいで消化され、腸で吸収されてから症状が出てくるわけで、早くとも30分から1時間は経たないと症状は出ません。
 大体症状が出てしまったら、もう胃腸で吸収されちゃったあとということになりますから、すでに胃洗浄が手遅れということになるのです。

 また、遅いものでは食べてから2,3日経たないと症状が出てこないものもあります。

 「タリウム」というい毒物がこれに当たります。

 毎年うちの病院だけでも3,4人は助けられずに死んでいく、私にとっての天敵とも言える毒物です。
 この間女子高生だか女子中学生がお母さんに飲ませたという毒物と同じもので、これはまったく手に負えません。
 プルシアンブルーとかいう解毒剤のようなものもあるのですが、これを使い、全力投球の治療を試みても、今のところ全敗。
 一度も助けられたためしがないのです。
 しかも厄介なことに飲み込んでから症状が出てくるのに2,3日かかり、そこから徐々に症状が出てきて、飲み込んでから2週間後くらいに皆お亡くなりになって行きます。
 
 症状が徐々に出てくるので、飼い主さんもそんなに深刻には受け止めてくれず、
 「本当に危険な状態なんです。助かる可能性も低いんです。」と力説しても、
 「また獣医さんが大げさなこと言って騒いでるわー」くらいの感覚で、軽く聞き流されてしまうことが多いのです。

 今までゴールデンレトリバーなどの大型犬も何度か、この中毒で病院に来たことがありますが、それでも助かったことはありません。

 皆、この陽気で楽しそうに田畑を走りまわり、見慣れぬ変わったものを見つけて、つい頬張ってしまって、死への道をたどるのです。

 また、何を飲みこんだかわからないけど、なんか飲んじゃったらしい、という漠然とした中毒の証言で連れてこられる方も多いです。

 ネギ、チョコレート、キシリトールガム、殺鼠剤、除草剤、肥料、灯油、乾燥剤、マカデミアンナッツ、アボガド・・・、さまざまな中毒がありますが、原因によっては治療法も異なります。
 同じ殺鼠剤でも、薬品名によっては、治療も全然違うのです。

 で、この袋の中身を食べちゃいました、と毒物がわかっているときは良いのですが、何か中毒らしい、というような漠然とした証言では、根本的な治療に踏み込めないことが多いのです。
 血液検査などでは、必ずしも毒物の特定ができるわけではなく、あるいは毒物の特定に時間がかかっていては、初期治療が出遅れてしまいます。

 この時期極力除草剤や、殺鼠剤が撒いてあるようなところには行かない。
 もし行かざるをえないことがあっても、けしてリードを離さず、飲みこみそうになったらすぐに遠ざける。
 万一飲み込んでしまったら、それが何かわかるものや、わからなければ飲み込んだものを袋に入れて持ってくる。
 元気そうだらからとおうちで勝手に判断してしまわずに、とりあえず病院に電話をする。

 これだけのことを守るだけでも、かなりたくさんの子が助けてあげられるのです。

 20歳近くの犬、猫や12歳近くのうさぎさんが、末期の癌なりで死んでいくのはまだ、納得がいくかもしれません。
 しかしまだ1,2歳の若い動物たちが、中毒で死んでいくのは、獣医師としても堪えられませんし、飼い主さんもきっと大きな心の傷を負ってしまうと思うのです。

 「この子なんでも拾って食べちゃうんです」なんてワンちゃんの頭を小突く飼い主さんがいますが、それは大きな間違いです。

 犬や猫、うさぎさんは落ちているものを口に入れる習慣があるのは当たり前。
 何でも拾って食べられる環境に、動物を放置することが問題なのです。

 はいはいができるようになった赤ちゃんが、床にあるものをとりあえず口の中に運んでみるのと一緒です。
 目を離さなければいけないときは、ベビーベッドに入れ、ベビーベッドから出してあげるときには、周りに何も落ちてないのを確認してから出してあげる。
 育児を経験されたことのある方にとっては当たり前のことかもしれませんが、動物もまったく同じなのです。

 自由に野原を走らせてあげたい、という気持ちはわからないでもないですが、それが許される場所に連れて行ってあげるか、それが許される時期まで待ってあげるか、どちらにせよ飼い主さんの保護があって、初めて動物たちの安全が保たれるのだと思います。

 今月に入ってすでに2匹助けられずに死なせてしまいました。

 飼い主さんの何のお力にもなれず、自分の無力さにため息が多くなるシーズンです。
 あの時こうしていれば、この治療も試していれば、あと1日早く・・・、なんて考えても仕方のないことを、ぐちぐちと引きずっています。
 
 1%でも助かる可能性があげられるよう、もっともっと勉強していきます。

 ですから皆さんも、1%でも助かる可能性があげられるような、環境作りを目指してあげてください。
 後悔のない死を目指す前に、後悔のない飼いかたを。

 なんて、ひとりごとって言うより、愚痴ですね。



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