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アレス動物医療センター

1週間前から・・・

 この病院を始めてもう3年半くらいになりますが、夜間救急診療は相変わらず多く、その需要というか、必要性を感じる毎日です。
 毎晩さまざまな救急疾患の子が担ぎこまれてくるのですが、その中にまぎれて、救急?という患者さんも多いです。

 去年からスーパー獣医師1号に週のうち1日夜中の診療を任せたので、体はかなり楽になったのですが、それでもなかなか大変です。

 夜中の電話は、携帯電話への転送になっているのですが、枕元に携帯をおいて寝ていると、どこかちょっと緊張して寝ている自分に気づきます。
 一日の診療が終わり家に帰ってご飯を食べていると、電話がかかってきて飛んでいく。
 帰って、お風呂に入ろうとお湯を沸かすと、電話がかかってくる。
 もう1回診療に戻り、後片付けをして帰ろうとすると、またかかってくる・・・。
 ようやく最後の診療を終え、家に帰って布団に入ると、気持ちが高ぶっていて、なかなか眠れない。
 あ、朝だ・・・、みたいな。
 
 かかってこない日は全然かかってこないのに、続くときはなぜか続くというのが、夜間救急の不思議なところです。

 それでも夜間救急診療は、本当に困って病院に駆けつけてこられる方が多いので、診療が終わるととても喜んでくれる飼い主さんが多いのです。
 ですから、本当にうれしそうな感謝の言葉も貰えますし、飼い主さんのほっとした顔を見ると、疲れが吹っ飛んでいきます。
 
 ただ、それでも、つらいと感じてしまうときはあるのです。
 それは、何日も前から病気を患っていたのに、ずっと様子をみていて、夜中に急変して連れてこられる患者さんです。

 夜中にはいろんな患者さんがやってきます。

 出産できず帝王切開になる患者さん。
 抱っこの最中に飛び降りて、歩き方がおかしくなってしまった患者さん。
 乾燥剤や消しゴムなど異物を飲み込んでしまった患者さん。
 ネギやチョコレート、殺鼠剤などを食べて中毒を起こした患者さん。
 いろんな患者さんにまぎれて、ちょいちょいいるのです、
 「2,3日前から食欲がなくって・・・」という患者さんが。

 2,3日前って、「急」じゃないじゃない!
 と思わず突っ込んでしまいそうになるのですが、このあたりは序の口で、中には
「1週間前からおしっこが出にくくて・・・」とか、
「1月前から下痢が続いてて・・・」とか、平気で言う飼い主さんが、本当にいるのです。

 なぜ一月もほっといて、しかも診療時間に来ずに、夜中に来るのかは謎ですが、意外なほど、深夜に限りそのような飼い主さんが多いのです。

 夜間救急で病院に飛び込んでくる飼い主さんは大きく二つに分かれます。

 一方は、うちの子が大事で大事で、とても朝まで心配で待ってられない!という心優しい飼い主さん。
 もう一方は、仕事や予定でなかなか病院に行かなくて、様子みてたら治るんじゃないかなー、とか思ってたけど、やっぱり治んなくて、それどころかちょっとヤバクナイ!?なんかぐったりしてるんだけどー、という感じの、かなりズボラーな飼い主さん。

 夜中に携帯の電話で目が覚め、「なんかうちの子ぐったりしてるんですけど、様子診たほうが良いでしょうか?」なんて感じでスタートされて、
 「いつからですか?」と聞くと
 「先週の土曜からー」みたいな返事。
 
 一気に脱力して、再度眠りに落ちてしまいそうになるのを必死にこらえていると、

 「時々食欲なくなることが前からあって、今回も勝手に治るかと思って、様子みてたんですけどー、昨日の昼あたりから、動かなくなっちゃってー」とか、追い討ちをかけてくる。

 心が折れてしまいそうになる瞬間です。

 小言や説教の一つもかましたくなりますが(実際かましてしまうときもありますが)、動物たちに罪があるわけでなくと思うと断る気にもなれず、結局あわてて病院へ飛んでいくのです。

 ええ、戦います。
 2,3日前からだろうが、1週間前からだろうが、1月前からだろうが全力で戦います。
 でもそれは、ぐったりしたまま長期間放置されていたこの子達のために戦うんであって、無責任な飼い主のためなんかに戦うわけじゃないぞー!!と心の中で叫び(小市民)、睡魔ややるせない脱力感とともに闘うのです。

 病院に連れて行くべきか、様子を見るべきかを自宅で判断しないであげて欲しいのです。
 いきなり病院に連れて行くのに抵抗があるのなら、まず電話で聞いてみるだけでも良いと思うのです。
 家族や、近所の人、ペットショップの人に意見を求める前に、主治医の先生に意見を求めて欲しいのです。

 飼い主さんも、獣医師も、ベストを尽くしたにもかかわらず、助けてあげられないときもあります。
 それはそれでもちろん辛いですが、それでも「飼い主さんもこの子も良く頑張ったね」と、ある程度納得のいく終わり方ができるのと思うのです。

 1週間も前から食欲が落ちていて、その挙句治療をしても助けてあげられなかったとき、きっと大きな後悔を後に残してしまうのではないでしょうか。
 以前のひとりごとにも書きましたが、納得のいく死を迎えてあげるための努力も、飼い主さんの義務の一つと思うのです。

 動物だから、仕事が忙しいから、元気はあったから、と恥ずかしい言い訳を自分に与えずに。
 もしそれが自分のおなかを痛めて生んだ子供なら、一週間も食欲が落ちていれば、会社を休んででも病院へ連れて行くでしょう。
 
 飼い主さんによって、治療に注ぐ力を変えてはいけないとはもちろん思っています。
 獣医師は常に全力でなければいけません。
 しかし獣医師も人間、一生懸命の飼い主さんには、持てる力の全力を持って応えたいと思えるのです。
 特に気持ちを奮い立たせなくても、自然と力がわいてくるのです。

 一生懸命な飼い主さんのために夜中の診療をするのは、まったく何の苦もないのです。
 たとえ夜中でも、気持ちよく仕事ができるのです。
 とうちゃん、俺がんばったよ、とまぶたの父(注意:まだ生きてる)に報告して、短いなりにも幸せな睡眠に就けるのです。


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