続くときには続くもので、何か一つの病気が、まるではやっているかのように連続して起こることがあります。
今月のうちの病院では、やたらとうさぎの骨折の患者さんが舞い込んできました。
子宮蓄膿症という病気や、膀胱結石、皮膚病なんて病気は結構季節の影響を受けることが多く、ひとたびそのシーズンになるとやたらと同じような病状の患者さんが来院されます。
これから寒くなると膀胱結石などの泌尿器系の疾患がやたらと増え、夜間救急に担ぎこまれてくる動物の半分近くはおしっこが出なくなった、なんて症状で来院されます。
しかしうさぎの骨折に関しては、別に季節で起こるわけでもなく、単なる事故なわけで、そんなに続いて起こるはずもないのです。
でも、続くときは続く、もううんざりというほど続く、ブルーになるくらい続くのです。
犬の骨折は散歩中にリードをつけてなかったせいで起こることがほとんど、猫の骨折は発情期になって頻繁に外に出るようになり、車にははねられて起こることがほとんど、しかしうさぎの骨折は本当に誰が悪いわけでもなく、いきなり起きてしまうことがほとんどです。
雷の音にびっくりしてパニックになり折れてしまったり、物干し竿が倒れた音にびっくりして折れてしまったり。
まったく完全な事故なので、いつそんな患者さんが来るかは予想できないのですが、来ないときは何ヶ月も来ないのに、来るときは一月に5件も6件も来てしまう。
そんな不思議なことがあるのです。
「しばらく骨折の手術してないねー」なんて軽々しく口にすると、それを聞いていた神様がたしなめるかのように、これでもかこれでもかと送り込んできます。
うさぎの骨折に関しては、すべてがすべて手術が必要とは限らず、ギブスで治せるもの、何の治療もしなくても良いもの、やはり手術をしなければ大きな後遺症が残りそうなもの、場合によっては断脚せざるを得ないもの、などなど千差万別です。
今月は手術せざるを得ないうさぎさんも何匹か来たのですが、うさぎさんの整形外科の手術は非常に気を使う(他の手術で気を抜いてるわけではないのですが)ものばかりです。
うちの病院は、整形外科に限らず、うさぎの手術がやたらと多い病院ですが、別に私の外科手術の技術が、びっくりするほど優れているかというと、そうではありません。
麻酔管理をするスタッフの技術が優れているのです。
骨折の手術とはいえ、別に犬や猫の手術と変わる部分はほとんどなく(骨が非常にもろいので扱いはかなり丁寧にしなければいけないのでしょうが)、乱暴な言い方に聞こえるかもしれませんが、基本的には犬、猫の手術と一緒です。
しいて犬、猫の手術との違いを上げるなら、長時間の麻酔管理の難しさではないかと思うのです。
うちの病院では犬や猫の手術同様、イソフルレンというガス麻酔で手術をするのですが、安全といわれているガス麻酔ですら、うさぎの長時間の麻酔にはリスクが伴います。
骨折の手術は1時間半から2時間、場合によっては4〜5時間とかなり長いことがあります。
この長時間の麻酔を安全かつ、痛がらない(暴れない)程度に維持し続けるのは非常に難しく、長時間に及ぶ場合は麻酔管理のスタッフが交代で(集中力が途切れないように)行います。
私はもっぱら切る側の人間であり、この麻酔管理というストレスフルな作業にかかわることはあまりないのですが、これをきっちりやり遂げてくれるスタッフには本当に感謝しております。
うちの病院ではスーパー看護師1〜3号とスーパー獣医師2〜3号が麻酔管理を任されますが、皆毎回のんきに執刀している私などよりは、はるかにうさぎの麻酔管理に長け、安心して任せておけるのです。
何の憂いもなくうさぎの手術を受けられるのも、その手術を安心して執刀できるのも麻酔管理のスタッフのおかげであり、手術成功の鍵を握るのは、むしろ麻酔管理をしているスタッフたちなのです。
手術が終わって、元気に帰っていくと、飼い主さんは執刀した私にお礼の言葉を述べて帰られるのですが、本当に感謝の言葉を受ける資格があるのは、麻酔に携わってくれたスタッフたちなのかもしれません。
深夜手術になっても、文句一つ言わず、モスバーガーの一つや二つで一生懸命麻酔管理をしてくれるスタッフたちは、今時の若い人たちとは思えないくらい、よくできたスタッフなのです(表現が年寄り臭い)。
皆元気に帰っていくうさぎさんをみて、本当にうれしそうに笑ってくれます。
うちの病院をうさぎの手術が得意な病院と称してくれる方々がいらっしゃいますが、本当はうさぎの麻酔が得意な病院なのです。
時々、そんなに働きづめで、体を壊さないのかと心配してくれる人たちがいますが(患者さんだったり、近所の先生だったり)、皆さんが思っているよりずっとスタッフに助けられ、ずっと楽をさせてもらっている、非常に恵まれた立場なのです。
スタッフに見捨てられ、うさぎの手術が得意な先生から、単なる先生に呼称が代わらないよう、冬のボーナスくらいは奮発してあげねば、と心に誓うのでした。
・・・あんまり期待しすぎないでね。
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