私は1日2リットルのペットボトルを1本分くらいは飲み干します。
別にお茶が大好きというわけではないのですが(嫌いでもないですが)、こんなに飲むようになったのは、この仕事を始めてからでしょう。
ダイエットのため?
いえいえ違います。
しゃべりすぎて、のどが渇くのです。
私の診療はとにかくしゃべります。
しゃべって、しゃっべって、しゃべり倒します。
時には飼い主さんへの説教、時には予防医学の啓蒙活動、時には世間話、としゃべってないと診療ができない獣医師です。
これは昔からの癖ですが、大阪で修行していたときは、同僚の先生に噺家先生と呼ばれたくらい、しゃべり倒します。
病院が混雑しているときはさすがに30分や1時間も、というわけにはいかないでしょうが、何らかの病気ではじめて訪れた方に関しては、飼い主さんから「もう勘弁してくれ」というオーラが出てない限りは最低でも20分くらいはしゃべっているでしょう。
本人はインフォームドコンセントのつもりでしゃべっているのですが、無駄な部分もたぶんに含んでいるのかもしれません。
しかし、この子の病名は何で(あるいはそれ以外の可能性としてはこれこれがあって)、それはなぜなったか。
そしてどのような検査が必要で、どんな治療法の選択肢があるか。
治療薬の副作用はあるのか、手術の危険性はどうなのか、治療しないとどうなるのか、などなど話さなければいけないことがたくさんあるのです(ここに世間話が混ざるので、より長くなる)。
仕事上、ある資格を維持するために2年に一度、(人間の)病院での健康診断を受けなければいけないのですが、いつも驚かされます。
始めてその病院に行ったときは、3時間待合室で待たされたあげく、ちょっと胸に聴診器を当て、口の中を覗いて、「じゃあ、健康診断書を出しときますね」といわれて3000円。
診療時間としては、1,2分くらいだったでしょう。
2回目は、これでは適わんと事前に予約をし「3時に来てください」といわれたので、そのとおり病院に行ったのに、なぜか待合室は患者さんがいっぱいで、やっぱり2時間待たされて、2分の診療。
へー、予約すると、1時間も短縮されるんだー、なんて思えるほど人間はできていません。
まあ、健康診断だから、他にやることもないんだろーなー、とか思いながらも、それでも2時間や3時間待ちはいくらなんでもないでしょう。
と思ってしまいます。
私がこんな風に思うのですから、動物病院に来られている患者さんも、そんなことを考えているのではないでしょうか。
来てもらったからには、しっかり話を聞き、話をして、満足と納得のいく診療をしたい。
そう思うのです。
治すだけなら当たり前。
飼い主さんを満足させてこそ獣医師、と思うのです。
まあ、実際すべての患者さんを満足させられているかというと、そうではないでしょうが、せめてそれを目標にはしたいところです。
ですからちょっとでも病院内の効率化を図り、待ち時間を減らせるようにする。
スタッフを育成し、診療で戦える獣医師を増やし、また看護師さんのできる仕事も増やしていく。
地道な作業ですが、これをひたすら進めていくしかないのかもしれません。
前にも一度ひとりごとで書きましたが、私が一日に満足のいく(飼い主さんも私も)診療をしようと思うと、どう考えても1日35件までが良いところなのです。
これ以上診療数を増やすと、おそらく診療の質が落ちていってしまうでしょう。
もっと熟練した獣医さんは、質を落とさずに診療件数を増やせるようですが、どうも不器用な私には無理なようです。
ですから1日35件を越えるようなら、獣医さんを一人増やす。
1日70件を越えるようなら、さらに獣医さんをもう一人増やす。
これを繰り返していくしかないのです。
先日うちのスーパー獣医さん1号が、犬の初めてのワクチンに来られた患者さんに、予防の話しで熱弁を振るっていました。
予防の話から始まり、飼い方の注意や、気がつくとしつけの話しにまで発展して、本人が知ってか知らずか、40分以上も診察していました。
ああ、血は争えない。
というか、かわいそうに黙っていても、師匠に似た診療スタイルになるんだなと、なんだかうれしくなってしまいました。
彼は師匠を私に選んでしまったせいで、おしゃべり獣医さんへの道を同時に選んでしまったことになるのです。
今はそのスーパー獣医さん1号が大活躍してくれて、患者さんが多くてもそんなに診療の質を落とさずにやっていけています。
この文章を読んで、「え?そんなに質の高い診察してる?」と思われた飼い主さんがいたら、それは質が落ちたのではありません。
もともと質が悪かったのです(だめじゃん)。
来年はスーパー獣医さん2号も大活躍して(予定)、今の診療レベルを維持できると信じています(あくまで予定)。
で、今はスーパー獣医さん3号を募集中です。
こんなしゃべってばっかりで、水分補給がやたらと必要な獣医師でも良いから、目指してみたいという奇特な方がいたら、ぜひご一報ください。
立派な獣医さんになれるかどうかはともかく、立派なおしゃべり(獣医さん)にはきっとなれます。
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