生まれて27年、動物が好きで、気がつくと獣医師になって、しかもこんなホームページをだらだら作っている私ですが、いまだに動物の気持ちというものは理解できません。
診察台の上で柴犬が泣き喚いているのを見ると、さぞ恐い思いをしているのだろう、というくらいには感じます。
しかし、例えば腎不全か何かで、毎週点滴に通っている猫やウサギが、いったいどんな気持ちでおとなしく座っているのかが分かりません。
点滴をすればそのあと食欲が出てきたりして、体調は良くなり、治療によって寿命が2、3年延びるという事実があったとして、ウサギ達はそれを理解し、それもやむなしと思っているのでしょうか。
点滴をすると楽になるから、出来るだけ点滴を受けたいと思っているのでしょうか。
それとも、こんなわけの分からない男に毎週針を刺されるくらいなら、いっそ楽にして欲しいと思っているのでしょうか。
人間は自分の治療なり、手術なりを選択し、それを受けることも受けないことも本人の意志で決めることができますが、動物達の意思は尊重されません。
「このこは今までも痛い思いをしているので、これ以上お腹を開いたりすることはかわいそうで・・・」というのは、うさぎの意思ではなく、飼い主さんの考え方なり、想像なりです。
かといって、いつでも「絶対死にたくない、どんなつらい思いをしてでも、一日でも生きたい」と思っているかというと、実際のところはわからない。これも勝手な想像です。
つまり動物達の意思は、その周囲にいる人間の生に関する考え方で決定づけされるわけです。
これだけ毎日たくさんの動物と接していても、いまだに動物の気持ちというのは理解出来ないのですが、これだけは言えるのではないかと思っています。
それは、獣医師が動物の気持ちが分かったような顔をして(あるいはほんとに分かっているようなつもりになって)、その考えを獣医師が飼い主さん達に押しつけることです。
獣医師はその個人の考え方を出すよりも、一年でも一月でも一日でも、とにかく寿命を延ばすための手段を飼い主さんに示し、あとは飼い主さんに極力任せるべきではないでしょうか。
どうせ獣医師も飼い主も動物の気持ちは分からないのです(たぶん)。
ですから、せめてその動物の家族である、飼い主さんの意思を尊重すべきです。
同じ勘違いなら、その方がまだマシでしょう。
寿命を2年延ばせる手術があったとして、成功率50%で10万円かかるとしましょう。
獣医師はがんがんに手術を勧めるでしょう。
しかし飼い主が手術を受けなくても、それをさげすんだ眼で見るべきではないと考えています。
2年の寿命を長いと感じるか短いと感じるかは飼い主さん次第、50%の確率を高いと感じるか低いと感じるかも飼い主さん次第、10万円を高いと感じるか低いと感じるかも飼い主さん次第です。
獣医師はあくまで生きるための理想論を示すだけであり、価値観を押し売りすべきではないように思います(とまで言うと語弊があるような気もしますが)。
ただ、あまりに異常なことをしている(言っている)飼い主さんがいたら、さすがに止めます。
まだまだ生きられるのに安楽死してくれとか、殴ったら骨折したとか、掃除を月に1度しかしないとか、そういうわけのわからんことを言う人には、価値観というより、常識を押し売りします。
それくらいはいくら獣医師でも(たぶん)許されるでしょう。
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