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アレス動物医療センター

一歩でも先へ

 日進月歩というと、ちょっと大げさかもしれませんが、獣医学は今も進歩し続けています。

 3年経つと、眼科、外科、内科関わらず新しい治療法、手術法、検査法が台頭し、持っている知識が型遅れになってしまい、そのまま放置しておくと、だんだん自分の獣医学の知識が遅れていってしまいます。
 知識が遅れるということは、ひょっとしたら治せるかもしれない病気を治せなかったり、あるいは見つけられるかもしれない病気を見逃したりという可能性が高くなってくるということです。

 修行時代は毎年何回か学会や勉強会に参加させてもらい、あるいは勉強会に行って来た先生の報告会を受け、どうにか遅れないよう必死に喰らいついていくことができていた、かはわかりませんが、少なくとも喰らいついて行く努力はしていました。
 しかし病院を開業して約2年、まったくと言っていいほど学会や勉強会に参加できなくなってしまいました。
 
 開業する前もこれが心配だったのですが、病院を閉めることもできず、興味のある勉強会があるたびにうずうずしていました。
 師匠にも開業前に「どうにか3年以内に勉強会に参加できる体制を整えないと、獣医学の進歩においていかれるぞ」といわれていました。
 
 勉強会に出れば、今まで治せなかった病気が治せるようになるかもしれない。
 今まで治すのに2ヶ月かかっていた病気が1月で治せるようになるかもしれない。
 今まで発見できなかった病気が診断できるようになるかもしれない。
 自分の不勉強でそれらの知識を得られるチャンスを失っているのかもしれない。
 
 そういう不安がずっとありました。

 それが今年の春から来てくれている獣医さんのおかげで、大きく解消されてきたのです。
 
 4月に病院に来てもらうようになってから、毎月大阪や東京、名古屋の勉強会に飛んでもらえるようになりました。
 ひとつの勉強会で、2,3日の泊りがけということも多く、また勉強会に出るたびに勉強会の内容をまとめた書類を提出してもらっているので、先生には大変な思いをさせてしまっていますが、どうにか新しい情報が病院に入ってくるようになりました。
 あと2、3年位して、彼に一日くらい病院を任せられるようになれば、私も勉強会に参加できるようになるでしょう。

 たしかに分野によってはもう大分研究され尽くしていて、勉強会に出てもあまり変化がないことも確かにあります。

 この間先生に出席してもらった眼科の勉強会は、以前修行時代に同期の先生が参加して報告会で発表した内容とほぼ同じ内容で、目新しい内容はほんの1、2点だけでした。
 一度の勉強会参加費が6万円で、宿泊費、移動費などもろもろの出費を含めると10万円近く。
 この10万円に意味があると感じるかどうかは人それぞれかもしれませんが、私はやはり大きな意味があると思うのです。

 たとえ目新しい点が1,2点だとしても、この点に関しては、より良い診療を患者さんに提供できるわけで、それで一人でも助けられる子が増えるというのなら、それはやはり大きな意味があると思うのです。

 それに何より、新人獣医師の成長には欠かせない、大きなステップアップになるのです。
 たった3日間程度の勉強会ですが、その間に得られる情報は、非常に密度の濃いものです。

 思えば私が始めてウサギやハムスターなどの診療に興味を持ち始めたのも、修行時代の勉強会がきっかけでした。

 それまでも心臓病の勉強会に出ると、心臓病に興味を持ったり、皮膚病の勉強会に出席したあと、皮膚病に興味を持ったりと、私の中で大きな影響を与えてくれました。
 勉強会は新しい知識を得る機会であると同時に、成長期の獣医師にとって、興味ある分野を作るきっかけを与えてくれます。

 新人の先生には大変な思いをさせてしまいますが、きっと将来につながる大きな財産となってくれるでしょう。
 いつか先生は病院を巣立っていく日が来るでしょうが、先生のレベルアップは在院中の診療や、後輩獣医師の育成によって、この病院全体のレベルの底上げにもきっとつながるでしょう。 

 彼がうちの病院を卒業するころには、開業により勉強会に参加できないことに不安を抱き、3年以内に勉強会に参加できるような体制作りを目指すような獣医師になっていてほしいのです。

 私が獣医師として満足に手が動くのがあと何年くらいあるのかわかりませんが、引退するまでに運がよければ10人くらいの獣医さんは育てられるのかもしれません。
 その10人の弟子たちがまたそれぞれ10人の獣医師を育てれば100人の勉強熱心な獣医師が生まれるのかもしれません。
 そんなにうまくいくかはわかりませんが、100人も勉強熱心な獣医師が増えれば、結構たくさんの患者さんの役に立てるのではないでしょうか。

 ひょっとしたら勉強会がきっかけで、何らかの専門分野で開花する獣医師の一人や二人出てくるかもしれません。

 そうなったら、「彼(彼女)を育てたのは私なんですよー」と自慢できる、とひそかに野望を抱くのでした。
 私が「大先生」になるのはちょっと無理かもしれませんが、「大先生の師匠」になるのは、確率で言うとかなり期待ができるかも!?


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