本文へスキップ

あなたがウサギに出来ることは 獣医師による うさぎ専門情報サイトです。

MAIL alles@usagi.cn

アレス動物医療センター

求む 獣医師!

 開業間近のころ、友人に「開業をして、その先どうする?」というような、哲学的な(?)質問を投げかけられ、「獣医師を育てたい」と答えたことを覚えています。

 私が修行していた病院は、獣医師の育成に力を入れている病院で、大学を卒業し、右も左もわからないような状態の私を、それこそ手取り足取り指導してくれました。
 師匠については、以前のひとりごとにも書いたことがあるのですが、本当に熱心な人でした。

 「修行先の病院で、いろんな技術を学ぶのは、当たり前じゃないか」と思われるかもしれませんが、とても大変なことなのです。
 
 たとえば手術の技術に関しても、教科書や大学ではなく、師匠から学んだことは数え切れません。

 獣医学書を開き、避妊手術の方法を調べると、ほんの1,2ページ術式が簡潔に書かれているだけです。
 実際やってみると、そんな1,2ページでまとまるほど安直なものではなく、種類による差、年齢による差、体格による差などがあり、また目的部位へのアプローチ方法、臓器の取り扱い、糸の結び方などこまごまとした隠れたテクニックがあるのです。
 これが避妊だけでなく、去勢手術、胃切開、腸管吻合、膀胱切開、皮膚腫瘍、骨折・・・と、さまざまな手術の数だけあるわけです。

 師匠はたくさんの手術の経験から生み出した、より良い手術方法や、そのコツを惜しげもなく教えてくれました。
 何十例も手術して、何年もかけて得た知識や技術は、一緒に手術をすることにより、ほんの数分で伝えられてしまいます。
 
 弟子を育てることは、将来の商売敵を育てること。
 これを嫌って、あえて指導に力を入れない病院もあると、聞いたことがあります。

 師匠はそんな話をくだらないときって捨て、
「師匠が弟子に技術を教えるのは、親が子を育てるのと同じこと。
 別に見返りが必要なわけじゃない。
 その代わり、お前もちゃんと人を育てるんだぞ」
 と、手術をしながら、そんな話をされたことがありました。

 今でも師匠のことを思い出すときは、必ずその言葉を思い出します(ちなみに師匠は生きてます(まだ50歳にも達してないはずです(念のため))。。

 ちょっと変わった師匠でしたが、常に新しいものを取り入れるのに貪欲な人で、常により良い手術や、治療を求めてひたすら勉強をする人でした。
 
 外科技術では関西でも名の知れた先生で、特に大型犬の股関節の手術に関してはTPOという手術法を得意とし、数え切れない症例をこなしている人でした。
 ところがセメントレス股関節全置換という新しい手術方法が報告されると、今まで自分が築き上げてきた手術方法をあっさりと置き去りにし、その新しい手術法の勉強のため、スイスの大学へ行ってしまうという行動力がありました。
 自分の現在の技術をベストと慢心せず、さらに高めるために、あっさり切り捨てることのできる吸収力にあふれていました。

 修行時代の手術数は、1日最低2、3件。
 多いときは4,5件の手術が行なわれる病院でした(もちろん私一人でやるわけでなく、いろんな先生がやるのですが)。
 これに対し今の私の病院は、せいぜい1日1件か多くても2件。
 こんな状態では、いつまでたっても師匠の技術にまでたどり着けるはずがありません。
 というか、おそらく私には一生外科手術において、師匠の高みにまで至ることは、きっとないでしょう。
 ただ、一生追いかけ続けなければいけないということと、常に今の技術に満足しない向学心、そして後続の獣医師を利害にとらわれず育成しなければいけないという精神だけは、同じでありたいと強く思います。

 そこで今年の7月、うちの税理士さんに、「来年獣医さんを一人雇いたいんですけど」と聞いてみたところ、
 「まだ開業して一年もたたないんですから、もうちょっとがんばって、病院の体力をつけてからにしましょう。
 来年獣医師を雇ってしまうと、院長先生の給料より、その銃医さんの給料のほうが多くなっちゃいますから、だめですよ」と諭されました。
 「別に私の給料のほうが少なくてもいいんだけど」というと。
 「会計上、そうもいかんのです」とのこと。
 こんなに毎日馬車馬のように働いているのに、それでもだめなのかと思いながらも、まあ税理士さんが言うことだからと、あっさり引き下がりました。

 獣医師が増えれば、学会や勉強会に行ってもらうことができ、新しい技術や治療方法が病院に入ってくることができます。
 師匠にも開業のときに
 「遅くとも3年以内に勉強会に参加できるような、体制を作らなければ、新しい獣医学においていかれるぞ」と言われていたので、のどから手が出るほど獣医さんという人材が欲しかったのですが、無理して病院がつぶれても困るので、しょうがないとあきらめていました。

 ところが先日税理士さんから電話がかかってきて
「やっぱり、来年から獣医さんも雇ったほうが良いですよ」とあっさり言われてしまい。
 いまさらジローです。

 にわかに各大学に求人票を送ったりと、ばたばたし始めました。

 とはいえ、一般に獣医師の就職活動は夏ごろにあるもので、もうほとんどの人は就職先が決まっている時期でしょう。
 12月に求人を出して、はたして意味があるのかどうかはわかりませんが、買わないくじは当たらない、というくらいに思っています。
 
 もともとあと一年くらいは、一人でがんばるつもりでいたんですから、看護師さんも一人増えることですし、来年一年くらいどうにかなります!
 多分どうにかなると思います。
 ・・・なるんじゃないかな?
 ・・・・・・ま、ちょっと覚悟をしておきましょう(さだまさし風フェードアウト)。


アレス動物医療センター

〒933-0813
富山県高岡市下伏間江371

TEL 0766-25-2586
FAX 0766-25-2584