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アレス動物医療センター

肝性脳症

 今日は久しぶりに犬のお話なのですが、あまりにうれしかったので書かせていただきます。

 肝性脳症という病気をご存じでしょうか、ってあまりにマニアックな話なのですが、そのような病気があるのです。

 この病院を初めてまだ3日も経たない頃、1匹のダックスフンドが病院に連れてこられました。
 まだ生後2ヶ月くらいの小さい子で、飼い主さんの手の中でぐったりとしていました。
 飼い主さん曰く「なんだか元気がない」というお話で、診るとえらく痩せていて、ちょっと口の周りがよだれで濡れていること以外、大きな異常は見あたりませんでした。
 
 これがウサギだったら、不正咬合が・・・という話になってしまうのですが、その子は血液検査とレントゲン検査で肝性脳症という診断をしました。

 この子の場合、正式には門脈体循環シャントという小難しい名前の病気で、要は腸管から吸収された栄養が、いったん肝臓に入って解毒なり、体に必要な成分なりに変換される前に、全身の血流に入ってしまい、そのせいで神経症状などが出るという、ちょっと珍しい病気です。
 
 修行していた病院でも年に1,2例あるかどうかという病気が、何でこんな開業したての病院でいきなり来たのだろうと、運命のいたずらのようなものを感じましたが、これも何かの縁というものなのでしょう。

 この病気の難しいところは、内科的に(薬で)治療していってもある程度改善は出来るが、いずれは(数ヶ月、あるいは数年以内に)治療不可能な肝不全にいたって、死に至ることが多い。
 そして手術は早ければ早いほど理想的であり、早ければ完治する可能性も高いが、手術によって死に至る可能性も結構高い。
 というところです。

 つまり飼い主さんは、低コストで、場合によっては数ヶ月(あるいは数年)約束される内科療法か、あるいは高コストで場合によっては手術中(あるいは術後)に死んでしまうかもしれないが成功すれば通常の寿命を全うできる外科手術かを、選択しなければいけないわけです。

 これはどちらが正しいとか間違っているという問題ではなく、飼い主さんがどちらを望まれるかという、価値感の問題です。
 切ったはったがかわいそう、今の元気が数年なり維持できるなら、それもこの子の運命、と思うのも考え方ですし。
 本来の寿命を全うできる可能性があるなら、それに賭けてみよう、と思うのも一つの考えです。
 
 獣医師的には手術と言ってくれるとうれしいな、とは思いますが、それをごり押しするわけには行きません。

 手術によるリスクは結構高い。
 手術料金も結構高い。
 しかもその子は長年連れ添ったワンちゃんではなく、まだ家に来て間もないワンちゃんなのです。

 しかし飼い主さんは、手術をすることを選択してくれたのです。

 えらいです(くどいですが、どちらの選択が正しいというわけではないのですが、それでもやっぱりうれしいのです)。
 めちゃめちゃうれしいと思う反面、非常に大きな責任感が両肩に重くのしかかりました。
 飼い主さんの信頼を無にしてはならん、まかり間違っても死なせてはならん、と思うわけです(それでも死ぬときは死ぬのでしょうが)。

 手術までの体力づくりの数週間、犬はだんだん元気になり、しっかりとした体格になり、その反面責任が重くなっていきました。
 こんなに(見た目)元気な子を預かって、死体で返すわけにはいかないと(いや、死にそうなくらい弱っているこの手術も、当然死なせるわけにはいかないのですが)。
 飼い主さんが手術を選択しなければ良かったと、悔やまなくて良いようにと、ただひたすらに思うのです。

 手術を無事終え、状態に波はありながらも、1週間後には元気に走り回る(走ってもらっては困るけど)くらいになり、しっぽを振りながら退院していきました。
 
 帰ってからも、私の心配はつきません(小心者ですから)。
 元気でいるか、町には慣れたか、友達出来たかと、さだまさし的な心配をしながら次の来院日を心待ちにしていました。
 
 それが、来院予定日になっても来ない、夜になっても来ない。
 まさか、ひょっとして、電話しようか、いや何か都合でも悪かったのかも、あんまりしょっちゅう電話すると来院を催促してるみたいだし・・・とくだらないことを考えていたら、あっさり次の日来院されました。

 退院時と同じく元気で、食欲もあるとのことで、ようやくちょっと気が軽くなりました。
 これで安心して夜も眠れます(ぐっすり寝てましたが)。
 
 こんな調子じゃ、いつか胃に穴があくのでは、と思わないでもないですが、飼い主さんが元気なその子を抱きながら、「ありがとうございました」と笑っている姿を見た瞬間、あーこれだから獣医はやめられない、と思うのです。
 
 もう、お金なんかいらない!!とか、その瞬間本気で思うのです。
 お金なんかいらない!!と思わせてくれる患者さんと飼い主さんに出会える喜びがある限りは、このしんどい商売を続けていけるでしょう。

 でもお金はもらいます。
 でないと病院が潰れますから。



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