今回のひとりごとはあまりハッピーな気分になれるものではないので、重いお話がつらいという方はご遠慮ください。
ついでにいうとうさぎの話ですらありません。うちの輸血犬ハニワさん(ラブラドールレトリバー)のお話です。
また今回の話はあまりに長くなってしまったので、2回に分けて書くことにします(もしかしたら3回?)。
今回のひとりごとでブルーになってしまった方は来月のひとりごとを読まないようにしてください。
先日長らく輸血犬として頑張ってくれていたハニワさんが息を引き取りました。
たくさんのワンちゃんの命を助けてくれた彼女は、妻と僕が見守る中静かに息を引き取りました。
大げさでなく心にぽっかりと大きな穴が開いたような、どうにもならない寂しさを日々感じています。
ペットルームの無駄な余白を見るたびに耐えようもない喪失感を感じます。
3/20の朝ハニワさんは突然立てなくなりました。
前日まで楽しそうな顔をして庭を散歩し、飲み込む勢いでドッグフードを食べていたのに、です。
歩くどころか立つことも難しく、歯茎の色は真っ白になっていました。
どこかで大量出血していると思いました。
けれど数カ月前の血液検査には一切異常がありませんでした。
おそらく脾臓か胃腸のどこか(血液検査でわからない臓器)の腫瘍が破裂したのだと思いました。
脾臓の腫瘍であれば良性の可能性もあるし、腹腔内にたまった血液が1〜2日で体に戻る。
手術での回復もありうると思いました。
病院に行き血液検査をすると血がいつもの3/4失われていました。
人間など1/3の血が急激に失われると失血死をすることがあるというのに、ハニワさんは3/4の血を失ってもまだ意識を保っていました。
レントゲンで腹腔内に腫瘍らしきものも、血液らしきものもうつりません。
これは脾臓ではなく、胃か腸の腫瘍だと思いました。
案の定倒れて3日後に真っ黒の血便が出始めました。
下痢ではなく普通の硬さですが、タールのように真っ黒な便が3日間続きました。
最悪だと思いました。
もしそうなら手術で助けることは困難です。
腹腔内に出た血液は時間がたてば体に戻れますが、胃や腸内に出た血液は便で出ていくだけです。
貧血は治りません。
また胃や腸の腫瘍は症状が出るころにはかなり進行しています。
手術を乗り越えても転移する可能性はべらぼうに高く、1年未満、何なら術後2か月以内というのが予想されます。
倒れた日、妻に「おそらく小腸の癌で今晩乗り越えられるかわからない。乗り越えられたとしても一カ月は難しいと思う」と伝えました。
妻はどうしても信じられないという顔をしていました。
だって、昨日まで元気に歩き回っていたのに。
吐いても下痢もしてないのに。
ごはんだって足りない足りない言っていたのに。と
戦うべきかと考えました。
大量出血で低蛋白にもなっており、点滴をすると腹水や胸水がたまってしまう状況です。
点滴なしで戦うとしたら栄養チューブをつけることになります。
細いチューブを鼻から食道に入れ皮膚に縫い付けなければいけません。
麻酔どころか鎮静剤での死んでしまいそうな状況です。
鎮痛剤だけでこの作業をしなければいけません。
痛くないはずがないです。
何より栄養チューブごときで失った3/4の血を取り戻すことが可能なのか。
そもそもこれが本当に悪性の癌だったら、このまま意識がもうろうとしたまま逝かせてやるべきではないのか。
一度呼び戻し、同じ苦痛を与えることになるのではないのか。
これは僕のエゴではないのか。
ほかの胃腸出血の原因を必死に考えます。
血液検査上細菌性の腸炎は考えにくい。
アレルギーが出ないあほみたいに高い餌を食べているのでアレルギー性の腸炎も考えにくい。
ペットルームと草木一本もない庭しか行動範囲のないハニワさんが大量出血を起こすような毒物や異物を飲み込むシチュエーションは考えにくい。
CTを撮れる状態でもなかったので確定ではないが、どう考えても腫瘍の可能性が高い。
唯一の期待が良性の腫瘍であるという可能性です。
そしてその可能性は極めて低いと思いました。
ただその可能性が0%でない以上、僕には治療が諦められませんでした。
「ハニワはきっと治療を望んでいる」「きっとまだまだ生きたいと思っている」そういう思いではありません。
彼女が実際どう考えているかなんてわかりません。
ただ僕の諦めがつかなかっただけです。
おおむね僕のエゴです。
造血剤や炎症を抑える薬、止血剤に抗生剤、思いつく限りの治療をしました。
倒れた3日後には、もうドッグフードを食べ始め、ふらふらとしながらも庭で自力で排尿も排便もするようになりました。
5日後にはすごい勢いでドッグフードを完食するようになり、妻は「本当に腫瘍なの?」と首をかしげるようになりました。
それでも僕は小腸の腫瘍だと思いました。
ハニワの歯茎にはうっすらとピンク色が戻り始めていました。
それでもチューブはまだ抜けないと思いました。
28年培ってきた獣医師の経験が、どうしても楽観的になることを許してくれませんでした。
おそらく終わりは近い。
獣医師としての自分の診断が間違っていることをひたすら祈り続けました。
4月に入るとトイレの時以外はひたすら寝ている状態になりました。
食欲は旺盛のまま、ただ寝るだけの生活。
抱きかかえて庭に出すとふらふらしながら尿と便をし、すぐにへたり込む。
今まで平気でペットルームで尿も便もしていたのに、なぜか今更外でしか排尿排便をしなくなってしまいました。
どうも我慢しているようなので、3〜4時間ごとに外に出し、尿をさせます。
毎日昼の手術を終えると急いで自宅に帰り、排尿させてから病院に戻る生活が続きました。
その作業を辛いと思ったことはなかったです。
腰やひざは痛くなりましたが、苦でもありませんでした。
ただ日に日に立っていられる時間が短くなっていくハニワさんを見るのがつらくてしょうがありませんでした。
今まで幸せを与えてくれたハニワさんに、少しでもしてあげられることがあるのはちょっとした救いでした。
泣き虫の妻はハニワさんの前でだけは涙を流さないよう必死に看病していました。
終わりは確実に近づいてきている。
やはりこれは小腸腫瘍だという思いが強くなってきました。
手術をするや否や妻と話し合う日が来ました。
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