【鯖を読む】という言葉があります。
漢字で書くとちょっとピンとこないですが「さばをよむ」、年齢や数をごまかすという意味合いだと思います。
年齢のさばを読んで合コンに参加、みたいな感じで使うのでしょうか。
最近うさぎでも、年齢のさばを読んで来院する子がいるようです。
以前ニュースで犬や猫の誕生日を偽って取引しているブリーダーさんがいると報じられていました。
動物愛護法が改正されてから、日本もようやく犬猫は生後2か月(厳密には56日)を過ぎないと販売できなくなりました(ちなみに一部特定の犬種は例外だそうです)。
先進国としては海外に比べずいぶんこの法律が成立するのに時間がかかりましたが、法改正がなされた時「よかったよかった、ようやく生後2か月未満の幼弱な犬猫が店頭に並ばなくなる」と胸をなでおろしたものです。
ところがこういう法律改正は悪知恵が働く人がいて、本当はまだ生後2か月(厳密には56日)に達していないのに、すでに生後2か月を過ぎていると言って販売している悪徳業者がいるとのことです。
その行為に何の意味があるのかと思われるでしょうが、ブリーダーさんとしてはできるだけ早く、小さく、かわいらしい時期に売ってしまいたい。
そのほうが売れやすいし、大きくなるまで世話をしていると、手間もコストもかかってしまう。
本当は誕生日は6月15日だけど、ええい6月1日生まれと偽って、売ってしまえ。
どうせ誰にもわからないんだから!なんていう不心得者がいるそうです。
もちろんすべてのブリーダーさんがそんな悪徳業者なわけではなく、一生懸命頑張ってまじめにやってらっしゃるブリーダーさんもたくさんいらっしゃいます。
ただ残念ながら一部のブリーダーさんがそんなことをして悪評が立つと、まじめにやってらっしゃるブリーダーさんも周りからそのような疑いの目で見られてしまいます。
本当にいい迷惑。
買う方は買う方で良いブリーダーさんと悪いブリーダーさんを見分ける手段がなく、場合によっては騙されて買ってしまう人もいるわけです。
何年か前から「この子どう見ても生後2か月でないよね」という、あまりに幼弱な(でも書類的には2か月経っている)犬や猫を診察室で見る機会が増えてきました。
でも怪しいと思ってもそれまでです。
だってそれの証明のしようがないのですから。
帝王切開で生まれたとかいうのであれば、手術をした動物病院に記録が残っているでしょうが、ブリーダーさんの家で自力出産できた場合(めでたいことですが)、誕生日なんてブリーダーさんがいくらでも改ざんできるわけです。
20年位前から「生後2か月未満のうさぎは買わないでください」とサイト上でずっと訴え続けてきました。
最低でも生後6週までは母乳を飲ませてあげなければいけない。
うさぎに法律はないけれど、みんなが買わなければ、いずれはペットショップも生後2か月未満のうさぎは仕入れなくなる。
ペットショップも仕入れなければ、離乳時期も遅くなるはず。
そう思って訴え続けてきました。
生後6週くらい残うさぎを飼ってこられた飼い主さんにも、「今度うさぎを飼う機会があったら、生後2か月まで待ってあげてください」とずっと伝え続けてきました。
そのかいあってか、偶然か「ネットで見たので、生後2か月のうさぎを買ってきました」と言ってくれる飼い主さんも少しずつ増えてきました。
ところが先日どう見ても生後2か月に見えない(でもペットショップに書かれている誕生日的にはとっくに生後2か月過ぎているはずの)小さい小さいうさぎが連れてこられました。
「いやほんとに?これ生後5週とかじゃなくて?」と飼い主さんに聞いても、確かに生後2か月過ぎているとお店で言われたとおっしゃるのです。
寄生虫でも隠し持っているのか、それとも先天的な問題でもあって、未成熟なのかと思いながらその子の健康診断を毎月していたのですが、僕の心配をよそに、すくすく育って元気に成長していきました。
女の子だったので生後7か月になったときに避妊手術をすることになりました。
うちの病院では生後7か月でほぼ成長期終了として、7〜10か月の間に避妊手術をすることを勧めています。
お腹を開いてみたら、なかなか子宮が見つかりません。
いくら探してみ見つからず、とうとう通常よりも大きくお腹を開くことになりました。
かわいそうに、通常の手術の倍くらいの大きさに切開してようやく見つけた子宮は、信じられないくらい細く未成熟な子宮でした。
「え?これ本当に生後7か月のうさぎなの?」、それとも子宮の奇形か何か?と思いながら手術をどうにか無事終えました。
手術の後成長期が終わっているはずのそのうさぎさんはなぜか、さらに2か月(誕生日的には9か月)すくすくと成長を続けました。
太ったのではなく、触り心地としてはベストな形で【成長した】のです。
僕はいまだにあのうさぎさんの誕生日を疑っています。
質の悪いブリーダーが、誕生日を偽って早期離乳をして販売したのではないかと疑っています。
くどいようですが、単なる僕の考えすぎかもしれません。
犬猫のニュースを見て、疑心暗鬼になっているだけかもしれません。
ただその子の手術をきっかけに、今まで生後7か月で避妊手術をするよう勧めていた当院の方式を改めました。
購入時にペットショップで言われた誕生日(ブリーダーさんが申告する誕生日)から、8〜9か月を過ぎてから手術をするように勧めています。
良いブリーダーさんのもとを巣立ったうさぎさんであれば生後8〜9か月での手術になりますし、悪いブリーダーさんが1月くらい年齢を偽っても生後7〜8か月での手術となります。
動物好きに悪い人はいないと信じたいですが、どのブリーダーさんが動物好きで、どのブリーダーさんが動物を商品としてしか見ていないかの判断がつかない以上、いたちごっこではありますが何らかの対抗策を考える必要があるのかもしれません。
動物好きのブリーダーさんと、動物好きのペットショップさんと、動物好きの飼い主さんと、動物たちが皆むくわれる日が来ると良いのですが…
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