獣医師はスーパーマンではありません。
「動物病院」と看板を掲げて開業しているんだから、何でもちゃんと診察できるんでしょ?と言われると、決してそうではないのです。
もちろんそれが理想ですが、現実はそうはいかないのです。
何年か前のことですが、僕の母が「両足が痛い、しびれる」と市内の総合病院に行きました。
その病院での診断は「骨粗しょう症」。
母は何日も骨粗しょう症の薬を飲んでいるが、まったくよくならない。むしろ痛みが増している。と言っていました。
僕は人間の医療に従事しているわけではないのでよくわかりませんでしたが、それでも素人考えで『骨粗しょう症って両足にしびれが出るものなの?』と思い、母に「別の病院でセカンドオピニオンの診療受けてみたら?」と言ってみました。
ただ母の世代の人にとって「総合病院の先生」の言葉は絶対で、なかなか他の病院に行くことに納得しません。
「じゃあ、あと1月骨粗しょう症の薬飲んで、それでもだめなら僕が調べた病院に行ってみてよ」と伝えました。
一月後やっぱり症状は好転せず、僕がネットで調べた脊椎疾患の診療が得意な病院に行ってみると、まったく別の病名を告げられ、大学病院で急遽手術を受けることになりました。
母は幸い今も自分の足で歩けていましたが、あの時最初の病院に通い続けていたら…と思うとぞっとします。
これは最初の病院の先生を責めているわけではなく、
【人間のお医者さんですら、得意不得意の分野があって、「整形外科」を名乗っていても、自分のテリトリー外の病気は取りこぼすことがある。】ということだと思います。
人間の医療など一言で「整形外科」と言ってもそれこそ山ほど病気が細分化されていて、各々のスペシャリストがいらっしゃるのだと思います。
母に対し骨粗しょう症のお薬を処方された先生は、きっとほかの分野で秀でた方なのでしょう。
そうなると、同じことが当然獣医師にも言えるわけです。
人間の医療と違い、外科医であり、内科医であり、皮膚科医であり、眼科医であり、産婦人科医であり。
あるいは犬も猫もうさぎもフェレットもハムスターも小鳥も診療対象としているわけですから、当然先生ごとに得意分野不得意分野があるのです。
僕は「外科」「うさぎ診療」が得意なほうですが、「鳥診療」は不得意ですし、「爬虫類」に関してはまったくわかりません。
わからないって、それでもプロか!と怒られそうですが、僕には「一般診療」と「外科」「うさぎ診療」の勉強で日々の時間が手いっぱいで、ここから爬虫類の勉強を始めるためには、何かの勉強時間を捨てなければいけないのです。
現在の法律では「うちは何々科が得意です!」とネットなどで広告を打つと、法に触れてしまいます。
各々の先生が「本当は俺この分野が得意なんだけど」と思いながらも、大手を振って公言はできないのです。
各々の先生に勉強が足りない分野があるのはあるのは、ある程度しょうがないとして、大事なのは
「ごめんなさい。僕この分野不勉強なのでわかりません。」と正直に言えるかどうかだと思います。
変なプライドが邪魔して、本当は他の病院に回したほうが良いのに、わかったような顔をして適当な診察をしたり、他の動物病院であれば手術ができるのに「この子はもう年だから手術はしないほうが良いね」とか言って、自分が手術できないことを明かさない先生もまれにいるのです。
僕は白内障の手術ができません。
でも白内障の手術はしたほうが良いケースが多いです。
ですから白内障の手術すべき患者さんが来たら、迷わず手術ができる病院さんを紹介します。
そこの病院さんに行ってもらって、診察を受けた結果「この子は網膜がもう機能していないので手術をすべきではないです」と言われるのはしょうがないですが、手術もできない僕が「目が見えないだけで、痛いわけでもないですから、手術まではやりすぎじゃない?」なんて言うのは、決して許されないことだと思います。
ずいぶん前のひとりごとでも書きましたが、セカンドオピニオンを受けることはけして悪いことではありません。
どうしても主治医の先生に顔向けできないというのであれば、何なら主治医の先生に内緒で行っても構いません(その場合、今までの検査結果や与えている薬など、できるだけ資料を集めてから行くことになりますが)。
「小さいころから見てもらってる」とか、「夜間や日曜も診てくれる」とか、「すごく優しい先生で」とかそんなものどうでも良いです(よくもないですが)。
どんなにつきあいが古くとも、どんなに利便性の高い病院でも、どんなに人柄が良くても、こと命に関わる問題は「治せてなんぼ」です。
セカンドオピニオンはけして悪い行為ではありません。
僕は自分の家族が大病を患い、主治医の先生が治せなさそうだったら、あっさり別の病院を探します。
そして風邪をひいたら、平気な顔をして主治医の先生の病院へ行きます。
その行為になんの後ろめたさも感じません。
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