飼い主さんによく言われる一言で
「最近フードの食いつきが悪いのですが、飽きたんですかね?」というものがあります。
オチを先に言ってしまうと、その返答は次の一言です。
「飽きたわけではありません」
それは食欲不振です。
雑食動物で、しかもこれだけおいしいものにたくさん囲まれて生活している人間は飽きることもあるかもしれません。
大好きなチャーハンも2週連続で夕食に出てきたら、「たまには魚も食べたいなぁ」と妻に直訴するかもしれません。
それは僕が妻にはほかの引き出しがあり、その気になればパスタだって、味噌汁だって出せることを知っているからです。
例えば僕がある日無人島に漂着してしまったとしましょう。
そこにはバナナ以外一切食べ物がありません。
小川の水とバナナだけ。
その生活が5年続いたある日
「もういい!餓死してでもいいからバナナは食べない!!」とはなりません。
・・・それともなるのかな?
ただ何カ月、何年も同じペレットだけを食べていたうさぎさんがある日突然
「いやいや、世の中にはもっとうまいペレットがあるはずだ!!」と、いきなり悟りを開くことはありません。
もしそれがあるとしたら、誰かがペレットよりもおいしいものを教えてしまったときです。
何年も同じペレットで過ごしていて、それ以外のものを忘れていたところで、お父さんか誰かがおいしいうさぎのビスケットを与えてしまえば
「え!?こんなおいしいものが世の中にはあるの!?今まで私が食べてきていたものは何だったの!!」と気づいてしまうかもしれません。
けれどそういう事件がない限りは、急に今まで食べていたペレットを「飽きたから」という理由で食べ残すようになることはないはずです。
やっぱりそれは食欲不振なのです。
たとえ元気で、牧草はモリモリ食べていても、今まで食べていたペレットを食べ残したり、食べるのに時間がかかるようになったら、それはまごうことなき【食欲不振】なのです。
そこで多くの飼い主さんは病院に相談せずに、別のペレットを買ってきます。
そしてそれは一時的にでも物珍しさで食べたかもしれませんが、あるいは糖質が多く(体に悪く)美味しいので最初は食べてくれるかもしれませんが、通常は長く続きません。
そこで飼い主さんは「また飽きたのかな?」と思って別のペレットを買ってきて、与えたらまた食べ始めたので「やっぱり飽きていたんだ」と様子を見ます。
そしてそのペレットすら食べ残し、どんなにおいしいペレットを与えても食べ残すようになったころには手遅れです。
僕たち獣医師は今まで食べていたものをある日急に食べ残すようになった時に「なぜ?」と原因を考えます。
飼い主さんは「どうやって食べさせよう?」と対処法を考えます。
対処法も大切ですが、原因を置き去りにしてしまっては、それは放置も同然です。
「飽きたのかな?」
「年のせいかな?」
「気候のせいかな?」
と都合のいい理由を家族会議で決めてはいけません。
今まで5分で食べていたものは5分で食べきれなければいけないのです。
けして「飽きたかな?」という発想をもってはいけません。
〒933-0813
富山県高岡市下伏間江371
TEL 0766-25-2586
FAX 0766-25-2584