本文へスキップ

あなたがウサギに出来ることは 獣医師による うさぎ専門情報サイトです。

MAIL alles@usagi.cn

アレス動物医療センター

自然派

2023/10/5

 「自然に…」というのはなかなか難しいものです。
 そもそも高温多湿の日本にヨーロッパアナウサギを連れてきている時点で、もう自然ではないのですから。
 
 先日7歳くらいのうさぎさんが健康診断に来られました。
 元気食欲はあるけれど、会うたびにどんどん痩せていく。
 子宮癌の可能性があるが、検査治療をするかという問答が飼い主さんとありました。
「うさぎもきちんと飼育すれば14〜15歳も目指せる生き物ですから、手術かせめて薬か、何か治療はしませんか?」とお聞きしたところ
 連れてこられていたのはお母さんなのですが「主人が『うさぎも自然界にいれば本来はそんなに長く生きるものでもないのだから、自然に任せたい』と言っているのです」との返答でした。

 たまにこの「本来であれば」とか「自然界なら」とかいう言葉を聞くのですが、獣医師という立場だからかもしれませんが「ん?」と思ってしまうのです。
 野生のうさぎは子宮癌になっても、治療が受けられないのだから5〜6歳で死ぬはず。
 だから家で飼っているうさぎもそれに倣うべきだ、不自然なことはすべきではない、という趣旨なのだと思います。

 そんなこと言われても本来ヨーロッパの寒冷地いるはずのうさぎ(ヨーロッパアナウサギ)を高温多湿の日本に連れてきておいて、クーラーのない屋外で飼ってれば熱中症で死んじゃう子がたくさん出てしまうわけで、「自然に」とか言われても…と言いたくはなってしまいます。

 まあ価値観は人それぞれなので、そんなもんですかねぇとも思うのですが
「じゃあ人間の生物学的寿命は40〜50歳らしいですから、あなたや奥さんやお子さんが51歳で癌になっても、当然治療はしないってことですよね?
手術で治る可能性が90%あっても手術しないし、痛みでもがき苦しんでても痛み止めは使わないってことですよね?
だって自然界のうさぎは痛み止めなんて使いませんもんね?」
 なんて、チクチク詰めたいところですが、まあ価値観はやっぱり人それぞれです。
 それに病院に来ている人はどちらかというと治療に前向きなご家族ですから、その人を責めても症がありません。

 大体この「自然に…」とかいう表現をするのは、病院に近寄りもしない「お父さん」が言っていることが多いです。
 病院に来て、直接獣医師と対面する「お母さん」にバツの悪いことを言わせて、自身は遠く離れた安全地帯から指示だけを出しているのです。
「じゃあ人間の…」というトークをぶつけてやりたい相手は、病院にそもそも近づかないのです。

 価値観は人それぞれなので、これは僕の(もしかしたら獣医師的な考えが染みついてしまった)偏った価値観かもしれませんが、その治療をするのが自然か、自然でないかという議論はたぶん意味がありません。
 ワクチンだって、抗がん剤だって、痛み止めだって、帝王切開だって、言ってしまえばなんだって不自然です。
 でも僕はワクチンも打ちますし、癌になったら手術も抗がん剤も使いますし、万一妻が(妊娠してないけど)帝王切開しなければ母子ともに危険と言われたら手術を選択します。
 不自然なのかもしれませんが、それは「大切な家族を失うかもしれない」「大切な家族が痛み苦しんでいる」という恐怖やその現実と比較して考えるしかないのだと思います。

 大切な家族を今この瞬間、あるいは1年後に失うこと。
 それと比較してもそれでも「自然に」というのであれば、それはもう見上げた根性。
 もうぐうの音も出ません。

 ただ、人間の家族は不自然な行為でも治療するけど、うさぎはしないというのであれば、それは本当に「不自然だから」という理由なのでしょうか。
 それとも「人間」と「動物」は違うということなのでしょうか。
 僕にはよくわかりませんが、それは僕が【獣医師】という価値観にどっぷり染まっているせいなのかもしれません。


アレス動物医療センター

〒933-0813
富山県高岡市下伏間江371

TEL 0766-25-2586
FAX 0766-25-2584