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アレス動物医療センター

のびしろ

2023/9/7

 先日出張で静岡に行ってまいりました。
 土日病院を抜けてのお仕事なので、さぞかし残されたスタッフは地獄の週末を迎えたことでしょう(他人事)が、非常に有意義なお仕事でした。
 今年で50歳、若手若手と思っていたのにいつの間にか中堅獣医師に差し掛かり、それでもやっぱり生涯勉強、生涯精進だなぁと思うのです。

 僕らの業界には3学会という学会があります。
 産業動物獣医学会(大動物)、小動物獣医学会、獣医公衆衛生学会(主に公務員の先生方)という3つの異なる分野の獣学会が同時に行われる会で、毎年行われているのですが、今年の中部獣医学会は静岡県で開催されました。
 ちなみに富山県から片道4時間以上かかります。地図で見ると近そうに見えるのに思いのほか遠いです。

 僕はこの中の小動物獣医学会で発表される演題の審査をするというどう考えても身の丈に合っていないお仕事をもうかれこれ5年ほどやっているのですが、おそらく富山大会が終わるまでは足抜けさせてはもらえないのでしょう…
 いや、非常に名誉なことなのですが、周りの審査員の先生方の顔ぶれを見ると、どうにも分不相応。
 ラスボス軍団の中に、一人だけ中ボスが紛れている感が、どうしても否めません。 
 一生懸命研究を重ね、忙しい合間に文章にし、スライドを作って発表されている先生方からするとどうなんでしょう。
 何なら僕より年も、経験も、実績もはるかに上の先生の発表を、審査する立場じゃさすがにないだろうと、思わず自分に突っ込んでしまいます。

 ですから毎年この学会が近づくと、その重責からくるストレスで、肌は荒れ放題(シーズン的なアトピーかもしれませんが)。
 早く終わらないかと、失礼な心待ちになってしまうのですが、いざ参加するとやっぱり勉強になるのです。

 何で僕がやってるかはともかく、それでも審査しなければいけない以上は、その発表がどれほどの価値があるのかがわかってないといけません。
 日頃うさぎと外科の本ばかり読んでいる僕も、この時ばかりは眼科、内科、内分泌科、皮膚科、腫瘍科とあらゆる分野を勉強しなければいけません。
 そして発表で初めて聞いた病気を、さも知っていたかのような顔をしなければいけません(そうでもないか)。
 しかも朝の8時30から16時近くまで続く発表を片時もうたた寝せずに聞き続けなければいけないのです(当たり前)。
 たとえ昼食後のさぞかし昼寝には最適な時間であっても(当たり前)。

 目からうろこの連続です。
 まだまだ自分の知識の浅い部分がこんなにあったのかと、再認識させられます。
 まだまだ患者さんを助ける手段が、他にもあったのかと実感させられます。
 どの発表も素晴らしく、眠気をもよおすものなど一題もありません。

 学会に行くまでは憂鬱な日々を長々と過ごすのですが(とても失礼)、行くと毎回「ああ来てよかった」と思うのです。
 50代になっても知らないことはまだまだあり、恥ずかしいことですが、のびしろが残っているともいえるのでしょう。
 俺らまだのびしろしかない〇、です。

 蛇足もいいところなのですが、当日会場で席に着くと、隣に見覚えのないおじさん(失礼)が座りました。
 椅子の後ろには役職と名前が貼られているのでしょうが、あからさまに見ると『え?俺のこと知らないの?』と思われるでしょうし(まあ知らないのですが)、「はじめまして」と声をかけて【初めまして出ない人】だった場合も想定されるので、どうしようかなといい年してもじもじしていました。
 会が始まり、その方の紹介のタイミングで名前を聞き漏らすまいと耳をそばだてていたら、学会のオブザーバーとしてこられていた大学の偉い先生でした。
 というか、僕が大学生の頃 授業を習っていた先生でした(当時まだ准教授だったはずですが)。
 それどころか僕が非常勤講師として勤めている大学の学部長でした。
 【恩師】で【上司】の先生を捕まえて、【知らないおじさん】とか思っていた自分に恐怖を覚えました。

 やっぱりひきこもっていると、どうにもコミュ力だったり記憶だったりが劣化していきますね。
 休憩時間に慌ててご挨拶させていただきましたが、我ながらそこまで無礼だと清々しいくらいです。

 1学生だった自分と、授業を受け持っていただいていた先生が、25年の時を経て席を並べるのですから、何とも狭い業界だなと改めて思いました。


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