本文へスキップ

あなたがウサギに出来ることは 獣医師による うさぎ専門情報サイトです。

MAIL alles@usagi.cn

アレス動物医療センター

痛い目にあう前に

2023/7/13

 人は一度痛い目に合うと、学習し、同じ轍を踏まない。
 逆に痛い目に合わなければ、学習できないことも多い。
 たとえ痛い目にあったとしても、それをどうにか乗り越えられれば、同じミスは繰り返さないかもしれませんが、それはあくまで「乗り越えられれば」の話です。

 今のシーズンとにかく食欲不振のウサギが大挙してやってきます。
 4〜5月の犬の予防シーズンが終わって、動物病院としてはちょっと落ち着くはずの6月から9月、病院は食欲不振だったり、軟便だったりのうさぎが列をなしてやってきます。
 一番気の重いシーズンです。

 同じ食欲不振でも「朝から食欲が落ちてて…」とすぐに飛んできてくれる飼い主さん半分と、「5日前から少しずつ食欲が落ちてきて」と間の抜けたことを言いながらやってくる飼い主さんが半分です。
 食欲不振から12時間以内に飛んできてもらえると大体1回点滴をして、飲み薬を処方すれば次の日にはけろっとよくなっている子がほとんどです。
 逆に食欲不振からすでに数日たっているうさぎさんは、だいたい長期戦になります。
 ここでいう食欲不振とは【ペレットをほとんど食べなくなった】という意味でもなければ、【ぺレットを少し残した】という意味でもありません。
 【ペレットはバリバリ食べているけど、牧草を食べる量が少し減ったかも?】というのが僕の思う【うさぎの食欲不振です】
 
 以前6月の初めごろに「夜は涼しいから」とエアコンを切ってしまった飼い主さんがいました。
 初日は牧草を食べる量がちょっと減ったそうですが、ペレットはバリバリ食べて元気に走り回っていたそうです。
 次の日牧草を食べる量が半分に減って、ちょっとやらかい便や不揃いな便は出たけれど、ペレットはバリバリ食べて、元気いっぱいだったそうです。
 翌日はまったく牧草を食べなかったそうですが、ペレットはバリバリ食べていたし、元気そうだから病院には行かずに様子を見ました。
 そしてその次の日等々ペレットを少し残したそうですが、それでも元気そうだったし、用事もあったので病院には行かなかったそうです。
 そしてその次の日等々ペレットもほとんど食べなくなって、ようやく病院にやってきました。

 飼い主さんは「昨日から食欲がない」と言って来院されました。
「お父さん違いますよ。この子は食欲不振になってもう5日も経ってしまっているんです」と僕が説明すると、『なにを大げさな』という表情で苦笑いをしていました。
 そこから24時間フルエアコンにしてもらい、お薬を1日2回飲ませてもらい、さらに毎日点滴に通ってもらいましたが、3日経っても全然改善がありません。
 そこから流動食の強制給餌が始まりました。
 最初は1回1tの流動食を1日5回飲ませてもらいます。
 それでもよくならず次の日は2tを5回、その次の日は3tを5回と飲ませる量が増えていきましたが、それでも食欲は戻りません。
 初めは「うちの子流動食大好きだよ」とか言っていたお父さんでしたが、2週間当たり経って1回15t飲ませるくらいになったころには、すっかりげんなりした顔になっていました。
 何しろうさぎに15tもの流動食を飲ませようと思うと、二人がかりで30分くらいかかるのです。
 これが1日5回。
 遠方から毎日点滴に通い、30分の強制給餌を1日5回、飲み薬を1日2回、これが延々続きました。
 そして3カ月経過した9月末ごろ、ようやく完治して通院が終わりました。

 完治したころには「やった!治った!!」という感動はなく、明らかにお父さんとお母さんは死んだ魚の目のようになってました。
 後半毎日口にしていたのは「うさぎがこんなに大変だとは思わなかった…」という言葉でした。

 ここまでのハードモードも極端ですが、この手の「痛い目」に一度でも合えば、次の年からはすぐ飛んできてくれるようになります。
 それはもう大変な経験だったとは思いますが、中には「痛い目」ではすまなかった子もいます。
 努力の甲斐なく命を落として言ったうさぎさんももちろんいましたし、中には下痢をして来院したその日のうちに死んでいった子もいました。

 毎日薬を飲ませ、点滴に通い、流動食を飲ませ、それが何日も、何週間も、何なら何カ月も続く苦しみはとんでもないものでしょう。
 それを乗り越えるのは本当に大変ですし、一度乗り越えればもう二度と同じ轍は踏まないでしょう。
 でも乗り越えられずに、一回目の峠で天に召されることもあるのです。

 痛い目に合えたと思えるだけ幸せです、とは言いません。
 ただ「痛い目」ではすまないことだってあるのです。
 飼い主さんの「学習の機会」ではすまないことがあるのです。

 わずかでも食欲が落ちたら12時間以内に病院に飛んでいく。
 軟らかい便や小さい便が出ても「盲腸便の食べ残し」とか言わずにすぐに病院に飛んでいく。
 それは痛い目に合わなくても、知識として親御さんは知っておくべきことなのです。


アレス動物医療センター

〒933-0813
富山県高岡市下伏間江371

TEL 0766-25-2586
FAX 0766-25-2584