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アレス動物医療センター

So What?

2023/5/5

 今まで何匹もうさぎを飼ってきたけど、誰一人牧草を食べてくれなかった。
 でもみんな10歳くらいまで生きてたんですけど、なぜでしょう?
 診療中にたまに飼い主さんから言われるセリフです。
 その言葉に対する感想は
「で?」です。

 昨年3歳で不正咬合になってしまったうさぎさんがやってきました。
 聞けばペレットとおやつを大量にもらい、牧草をほとんど食べずに3年間生きてきたとのこと。
 そんな食生活でとうとう不正咬合になってい待ったというかわいそうな子です。

 麻酔をかけて歯の処置をして、いったん食欲が戻ったものの、1月後にはまた食べなくなり、また麻酔をかけて処置をしました。
 そんな治療が半年くらい続いたあたりで、治療につかれてきてしまったのか飼い主さんが漏らした言葉がさっきのセリフです。
 今まで飼ってきた子は牧草を食べなくても何ともなかったのに、なんでこの子に限って…という意味なのでしょう。

 同様のパターンで犬だと
「今まで飼ってきた犬はみんな人間の食べ物どれだけ食べても大丈夫だったのに、なんでこの子は…」とか
 猫だと
「今まで飼ってきた猫はみんな魚で育てても何ともなかったのに、なんでこの子は…」とか
 ハムスターだと
「今まで飼ってきたハムスターはみんなヒマワリの種だけでも問題なかったのに、なんでこの子は…」とか
 どの動物の飼い主さんも似たようなことを言うことはあるのです。

 それを言われて、どんな返事をしていいのかよくわかりません。
「で?」としか思いません。

 そもそもその10歳まで生きたといううさぎさんが本当に不正咬合になってなかったのか、僕は知らないですし。
 10歳でお亡くなりになったというのが、さも長寿のように言われてもピンとこないです。
「So what?」それがどうした?です。
 ちなみに、わかつきめぐみ先生の「So What?」は名作です。

「うちのおじいちゃん、生涯たばこを浴びるように吸ってたけど、90歳まで元気に生きたんですよ」という話を聞かされても
「なるほどなるほど、じゃああなたもたばこガンガンいっちゃいなさい」なんて言うお医者さんがいるでしょうか。
 山ほどタバコを吸っても長生きできる人はもちろんいるでしょうが、それはあくまで少数派、例外です。
 統計をとれば、たばこを吸わない人のほうが長生きなのは当然でしょう。

「今まで飼ってきた子たち牧草全然食べなくても長生きだったの、なぜなんでしょう?」などと疑問形のふりをして、負け惜しみを言ってきているのか、愚痴をこぼしているのか、論戦を吹っかけてきているのか知りませんが、「で?」としか思わないですし、それに付き合うほど暇じゃありません。

 江戸時代の平均寿命が40歳くらいで、今は80歳以上になっているわけです。
 当然江戸時代にも70歳とか80歳まで生きた人もいたでしょうが、それでもほとんどの人はもっと早くにお亡くなりになっていたのでしょう。
 それは医学だけでなく、栄養学、予防、環境とあらゆるものの研究が進んだ結果でしょうが、過去の常識を新しい学問が塗り替え続けてきた結果が今の平均寿命です。
 
「以前飼っていたうさぎは」とか「昔は犬のエサは」とか「猫も昔は猫まんまを」とか、過去の知識を持ち出して何の意味があるのでしょう。

 もちろん10年後、20年後に「うさぎには牧草なんかいらない」という学説が主流となっていないとも限りません。
 その時僕はきっと、胸を張って「牧草なんていらない」と今と真逆のことを口にするでしょう。
 「あんた10年前と言ってること違うやないか」と言われるかもしれませんが、全く気になりません。
 それもまた進歩です。

 その年その年、大多数の専門家がベストと推奨する飼い方を獣医師は啓蒙し続けるだけだと思っています。
「10年前の獣医学では…」なんてセリフを飼い主さんにぶつける人間など、獣医師にはいないはずです。
 命にかかわる仕事である以上、自分の経験や固定観念だけにとらわれて、新しい知識、技術、学説を受け入れられないなんて、そんなダサい人間は獣医師にはいないのです。

 いないはずですが、もしいても大目に見てあげてください。
 だってどこにでも例外はあるものなのですから。


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