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アレス動物医療センター

調度良いやつはいないんかい!

2023/4/6

 治療に対して過剰にポジティブに受け止められる方と、基本的にネガティブに受け止められる方がいます。
 どちらがいいというとポジティブに受けてめてもらえたほうが良いのですが、本当は調度良いのが理想です。
 でも「調度良い」って難しいんですよね

 くしゃみが止まらないといううさぎさんがやってきました。
 スナッフルの可能性を考えて、抗生剤を1週間分処方しました。
 1週間後に再診で来られた時に、先生のお薬すごくよく聞いて、次の日には全くくしゃみをしなくなりました!と喜んでらっしゃいます。
 抗生剤は細菌をやっつける薬ですから、確かに最近が原因の鼻炎には効くとは思いますが、細菌が数を減らして症状が改善するのには少なくとも3〜4日はかかると思います。
 「さすがにそんなに早く薬が効くものではないですから、たぶん異物とか何か別の原因のくしゃみだったんでしょうね」と説明しても
 「いやでも、確かに薬を飲んだ次の日には治ったから…」と、聞いてくれません。
 内心『それはきっと飲んでも飲まなくても治ってたんだろうな』と思っても、不思議とそういう飼い主さんはよくなったことはすべて、僕のおかげ、治療のおかげ、とポジティブに受け止めてくれるのです。

 ありがたいことですが、そうなるとまた何年か経ったときにくしゃみをし始めると、飼い主さんはその【奇跡の抗生剤】を求めてやってこられるでしょう。
 もしかしたら翌日には治っているかもしれないけど、飼い主さんはくしゃみを治すにはその薬が必要と信じて疑わないのです。

 別の患者さんで1週間前から食欲が落ちてきたといううさぎさんがやってきました。
 日に日に食欲が落ちてきて、元気もなくなってきた、動きたがらない。
 そこで食欲増進剤や腸の動きを活発にする飲み薬をお出しします。
 そうすると次の日「薬を飲んだら余計食欲が落ちた」とやってきました。
 確かに薬が合わないという可能性ももちろんありますが、そもそも1週間前から食欲が落ちてきてるんだから、単にそれが悪化したのでは?という気がしますが、少なくとも飼い主さんの中では【食欲が落ちたのは薬のせい】と認定されてしまっています。
 では、薬の種類を変えて、点滴に全部薬を混ぜて、飲み薬をやめてみましょうと提案すると、翌日には「点滴をしたら余計食欲が落ちた」と再来院。
 「薬もダメ、点滴もダメでは治療が立ち行かない。
 薬が合わない可能性ももちろんありますが、単純に症状が悪化してきただけという可能性もあるので、やっぱり薬を再開しましょう」と、なだめすかして、十数分格闘し、どうにか投薬を受け入れてもらって帰宅。
 そんな感じの治療が2週間ほど続き、その都度「薬が…」「点滴が…」と若干クレームに近い質問を繰り返してようやく食欲が戻ってきたときに飼い主さんがおっしゃったセリフが
「暖かくなってきたおかげで食欲が戻ってきた!」
 …いや、ないとは言わんけど
 ないとは言わんけど、【治療が効いた】という選択肢は、うっすらとも浮かばんのだろうかとちょっと涙目になるタイプの、治療に対して常にネガティブに受け止める飼い主さんもいます。
 
 調子が悪くなったら治療のせいで、よくなったら天候(あるいは自分の)おかげと全て片付けられてしまうと、なかなかその飼い主さんとの共同作業にはモチベーションを維持するのが大変です(まあそれでもモチベーションを上げるのがプロなんでしょうが)。

 ポジティブすぎても危なっかしい、ネガティブすぎるとこちらの心が折れかねない。
 調度良いやつはいないんかい!
 と東京〇3のコントのようなセリフを叫んでしまいそうになります。

 まあ、こればかりは性格なのでしょうから、しょうがないのでしょうが
「いやこのタイミングで治ったのなら、たぶん薬は関係なくて、自然に治ったんだと思いますよ」と伝えれば、「はあ、なるほど」と納得していただき
「薬や点滴のせいで調子が悪くなる可能性ももちろんありますが、そもそもすでに状態が日に日に悪化してきていたので、進行したという可能性もあると思いますよ」と伝えれば、「はあ、なるほど」と納得していただける素朴さというか、素直さがあるととてもコミュニケーションがスムーズにいくと思うのです。

 その素直さ自体、その人の性格の匙加減なんですけどね


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