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アレス動物医療センター

大きなお世話

2022/11/10

 先日メールでの質問、というか相談が届きました。
 1年以上寝たきりのうさぎを介護しているのですが、これってかわいそうなことなんでしょうか?
 というメールでした。

 原因はよくわかってないそうですが、7歳の時に寝たきりになり、歩くことはできず、牧草やペレットは口元にもっていけば自分で食べるけれど、自力で食器まではたどり着けない。
 尿や便は寝たまましているので汚れ、それを毎日ケアし、床ずれが起きないようにできるだけ体の向きを入れ替えている。
 薬ももう寝たきりになる前からずっと飲んでいる。
 と、そんな内容でした。

 それをSNSでアップしていたら
「そんなのは飼い主の自己満足だ。
 うさぎさんがかわいそう。
 そんな状態になってまで生きたいと思っているはずがない。」
というようなコメントが送られてきたそうです。

 メールでは書きませんでしたが、正直な感想でいうと
「大きなお世話ですね」
です。

「どちらが正解か?」という風に聞かれると
「わかりません」という答えになるのですが、「私のやっていることは間違っているのでしょうか?」と問われると
「全然間違っていませんよ」という返答になります。

 では「そこまでして生かすのはかわいそうだから」という意見が間違っているかというと、それも別に間違ってはいないとは思います。
 
 例えばうちのハニワさんは9歳のラブラドールです。
 ラブラドールは長生きでも12〜13歳くらいですから、まあぼちぼちのお年です。
 もしハニワさんが10歳になったときに脾臓腫瘍になったとしたら、手術するか、しないかという選択肢が出てきます。
 脾臓腫瘍はざっくりと50%が良性で、50%が悪性。
 良性であれば残りの余生を全うできるが、悪性であれば手術をしても半年以内にお亡くなりになるかもしれません。
 シチュエーションにもよりますが、手術での死亡リスクが10%とします。

 この状況で手術をするかどうか?という選択が出たときに
「50%助かる可能性があるのであれば、手術したい」という考え方があります。
「あるいはもう10歳で残り余生も限られているのに、痛い思いをさせて半年で死ぬかもしれないんだったらやりたくない」という考え方もあります。
 これは単なる価値観の違いで、どちらかが間違っているわけではないと思います。
『少しでも一緒にいたい、少しでも助かる可能性があるなら戦いたい』と思うのも愛情。
『ここまで来て痛い思いをさせたくない』『万一手術で死んだら耐えられない』と思うのも愛情。
 どちらが正解でどちらが間違いではなく、どちらも愛情です。
 その選択は単なる価値観の違いです。

 それを『助かりたいと思っているに違いない』とか『早く楽にしてほしいと思っているに違いない』とか言い始めるとややこしいです。
 そんなもの本人にしかわかりません。
 わかったような気がしているだけ、それがわかると思うのは単なるファンタジーです。
 世の中には動物と喋れるという特殊な人はいますが、そういう特殊技能を持っている方だけが言っていいことですし、言ってもいいとは思いますがそれを他人に押しつけるのは大きなお世話です。

 動物が本当は何を思っているかわからない以上は、飼い主さんの価値観で決めるしかないのだと思います。

 ハニワさんの例を人間で置き換えて考えてみます(ちなみにハニワさんは健康です)
 76歳の女性が脾臓腫瘍になり、手術の成功率が90%、完治の可能性が50%という感じでしょうか。
 うちのかーちゃんが79歳ですから、うちのかーちゃんが脾臓癌になったら(このたとえ怒られそう)と想像します。
 この時に家族として手術を勧めるか否か、という風に考えます。
 かーちゃんの幸せにためにどちらを選択すべきかと考えることになります。

 うさぎさんの場合だと
 58歳の家族が謎の病気で寝たきりになりました。
 スプーンで食事をもっていけば自分で食べられますが、自分で体は洗えないので、家族が洗ってあげなければいけません。
 すでに6年寝たきりの状態が続いていますが、良くも悪くもならず、予後の見通しはつかない。
 介護を継続するかどうか?

 これも価値観です。
 どうするのが本人にとって幸せかを想像するのは各々の価値観です。
 それをSNSで目にしたときに、どのような感想を持つかは自由です。
 ただ押しつけるのは大きなお世話です。
 まあそれがSNSだと言われればそうなのかもしれませんが、さんざん悩んで家族が決めた決断に口を出すのは大きなお世話です。

 もちろん治療すれば治る可能性が高い病気を、まだまだ若いのに治療しないといわれると、職業柄文句の一つも言いたくはなりますが、少なくとも診察どころかあったこともない方にSNSで口を出そうとは思いません。
 
 1年以上もうさぎさんの介護をするというのは、それはもう尋常じゃないくらい苦労があると思います。
 お金も相当かかっているでしょうし、飼い主さんの貴重な時間を相当うさぎさんのために使っているのでしょう。
 何ならうさぎさんのために働いているという感覚すらあるのかもしれません。

 僕が同じシチュエーションの時に、同じ選択をしてあげられるか自信がありません。
 とてもすごいと思います。
 すごい愛情だと思います。

 それにどんな感想を持とうとも、その方の努力に水を差す必要はないと思います。
 まあ、SNSにアップしないという選択肢もありますけどね。


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