なんだかんだとこの仕事も24~5年ほどやってきて、それなりに経験値も上がってきているはずなのですが、それでも時に予想のはるか上を患者さんや飼い主さんが超えてくることはあるのです。
最初にお断りしておくと、うさぎのサイトなのに、今回は猫さんのお話です。
でも、動物種に関わらずに通ずる話だと思うので、できれば辛抱して読んでいただけると嬉しいです。
7月の初旬に4歳の猫ケーちゃん(仮名)が始めて来院されました。
10日前から食欲も元気もなく、水も飲まない。
ほかの動物病院で膀胱炎といわれて治療をしているが、改善もなく日に日に弱っていくとのことで来院されました。
検査をしたところお腹の中にガス(空気)と液体がたまっている(胃や腸の中ではなく、腹腔内に)。
4歳という年齢を考えると癌は考えにくい(ないとは言えませんが)。
血液検査上大きな異常値はない(肝臓や腎臓などの数値で現れない臓器が怪しい)。
血液検査で異常値が出ないお腹の中の臓器となると胃か腸か脾臓か膀胱あたりか。
ただお腹の中にガスがたまるとなると…
おそらく何らかの異物誤飲で胃か腸に穴が開いている可能性が高い。
犬は石だったりプラスチックだったりといろいろなものを飲み込むが、猫の場合胃腸に穴が開くような異物となると、おそらくひも状の異物誤飲。
しかもレントゲンで腹膜炎が分かるほどとなると、すでに穴が開いてから5日以上はおそらく経っている(何なら食欲がなくなった10日前にすでに開いていたのかもしれない)。
万一ひも状の異物の場合、胃や腸を何か所も切らなければ摘出できないケースも多く、費用は相当な金額になり、たとえ胃腸に穴が開いていなかったとしても手術の成功率は大体70%。
ましてや穴が開いて5日以上たっているとすると、お腹の中には膿だけでなく、う〇こも漏れ出ているはずで…
とまあ、これ通常はどう考えても無理目な話なのです。
相当ひいき目に見ても手術で助かる可能性は10%もないくらい。
実際手術をしてみないとわからないけど、請求するのもドン引きするような金額にたぶんなる。
こんなことをいうのもなんですが、ドン引きするような金額でも助かる可能性が高いなり、あるいは助かる可能性が低いにしても金額がそこまででもなければこちらもぐいぐいいけますが、『成功率10%もないくらいで、すごい金額で』となると、さすがにこちらも「ぜひに!!」とは言いづらい。
さすがに飼い主さんの同意は得られないだろうと思いながらもインフォームドコンセントをしたところ。
「できるだけのことはしてあげたい」と
この時の僕の気持としては『やったー!飼い主さんが同意してくれた!!』ではなく
正直
『あれ?僕の説明、うまく伝わってないんじゃ?飼い主さんは、事の重大さを理解してないんじゃ…』でした。
それでも飼い主さんが頑張ってくれるのであればと即手術。
やはり開腹手術をすると、ひも状の異物。
すでに腸に穴が開いていました。
手術をしながらこれはさすがに厳しいだろうと、それでも一応手術を終え、夜を越えられるだろうかと心配しましたが、朝を迎え、何とか次の日も乗り越え、その次の日も乗り越え…
なぜか(なぜかっていうのもどうかと思いますが)入院から12日後に退院していきました。
それでもさすがにまだ自力ではご飯が食べられず、栄養カテーテルからの流動食を自宅で続けてもらっての退院ですので、まだまだ油断はできない。
ところが退院して3日後あたりから自力でキャットフードを食べ始め、栄養カテーテルが抜け、抜糸が終わり…
まさかの生還(獣医師がまさかって言っちゃあいけないんでしょうが)。
まじで?
いや本当にマジで!?
すごいですよ。
腸に穴が開いて、お腹の中にう〇こが漏れ出て、1週間もたってて…
常識的に考えてふつう無理でしょう。
ただこれは獣医師の常識。
まあ、もっと腕の良い先生なんかは「いやいや俺だったら、絶対助けられるって」て思われるかもしれないですが、少なくとも僕的にはどう考えても奇跡を超えた結果だったのです。
ケイちゃんすごい!!
あきらめなかった飼い主さんすごい!!
すごくないです!?
え!?興奮してるの僕だけ!!?
「あきらめたらそこで試合終了ですよ」と安〇先生はおっしゃいますが、このシチュエーションであきらめない飼い主さんの心の強さと、愛情の深さは、リアルの世界ではそうそうないですよ。
こういう瞬間があるから、この仕事はやめられない!と思うのです。
遠くにお住まいの方なので、元気になったら主治医の先生のもとに戻られるでしょうが、ケイちゃんの治療に関われたことが、本当に大きな財産になったと思うのです。
ケイちゃんとケイちゃんのご家族に感謝です!
〒933-0813
富山県高岡市下伏間江371
TEL 0766-25-2586
FAX 0766-25-2584