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アレス動物医療センター

「どうやって」ではなく「なぜ?」

2020/9/3

 ときどきいただく質問で、「うちの子あんまり水を飲まないのですが、どうやって水分を取らせたらよいでしょう?」というものがあります。

 その答えは
「『どうやって』水分を取らせるかではなく『なぜ』水分を取らないかを調べるべきです」
 という飼い主さんからするとちょっと物足りない返答になってしまいます。

 飼い主さんの質問の趣旨は、多分キャベツを多めに与えたらよいのか、飲み水にジュースか何かを混ぜたらよいのか、どうしたら飲んでくれるでしょう?という意味合いの質問だと思うのですが、そもそも「どうやって水分を」という路線に思考が向かっている時点で、やや方向性が間違っています。

 体重1sのうさぎさんがざっくりとですが、1日最低60mlくらい水分を取らないといけないとします。
 で、これがもし20mlとか30mlとかしか飲んでくれないとなると、それは「そういう子」というふわっとした言葉ではかたずけられない問題があるはずなのです。

 例えば給水ボトルが壊れている、環境上の問題かもしれません。
 例えば不正咬合で口が痛くて水が飲めないのかもしれません。
 例えば首の椎間板ヘルニアで飲みたいけれども飲めないのかもしれません。
 例えば毛球症でお腹が痛くて飲めないのかもしれません。
 例えば子宮癌でお水が飲めないのかもしれません。
 例えばおばあちゃんがこっそりキャベツを与えているのかもしれません。
 
 原因はいろいろですが、何か飲めない(あるいは飲まなくても良い)理由がそこにはあるはずなのです。

 その原因を解決しなければ根本的な解決にはならず、キャベツを70g与えたら食べたとか、給水ボトルに野菜ジュースを混ぜたら飲んだとか、その辺の小手先の技だけでその場をしのいでも、いずれはキャベツすら食べれなくなってしまう日が来てしまうのです。

 たとえば私が重度の食欲不振になって、一切何も食べられなくなったとします。
 肉も魚も食べられない、かろうじてキャベツなら多少食べれそう、とします。
 それでも1日2.5Lの水分は取らなければいけないわけで、これをキャベツで補おうと思うと約2.7sのキャベツを食べなければいけないわけです。
 つまり水分補給のためにキャベツ2個半を食べたとします。
 はたしてそもそも食欲が落ちている私が、キャベツ2個半食べた後に晩御飯を食べるだけの余力があるでしょうか?
 多分無理です。
 もうぼちぼちお腹いっぱいです。
 
 あるいは食欲不振のうさぎさんが喜んで水を飲むくらい飲み水にジュース(炭水化物)を加えたとします。
 一時は飲んでくれて嬉しいかもしれませんが、その代償として腸内に炭水化物をコンスタントに供給することになり、腸内細菌のバランスは崩れ、量を誤るとクロストリジウム性腸炎を起こしてしまうかもしれません。

 キャベツや野菜ジュースで水分をというのがとにかくだめで、と言っているわけではなく、その手段が使えるのはごく限られた期間であり、その弊害が出る前に大元の「水を飲まない」原因を突き止めて、これを処理しなければ根本的な解決には至らないのです。

 末期の癌などすでに原因がわかっていて、しかもそれはどうにもできないところまで進んでいるというときはもちろん、野菜やジュースで水分を、という路線は間違いではありません。
 なんだかわからないけど水分を取らないので…というふわっとした理由でやってはいけないというお話です。

 ちなみにこれとよく似たお話で「ペレットは食べないんですが、おやつなら食べるんです」というのも同じです。
 人間でいうと体調が悪くて焼肉定食は食べられないけど、桃の缶詰なら食べられる、というのと同じです。
 桃の缶詰を食べてるから、ま いっか〜
 とはなりません。
 焼肉定食が食べられない食欲不振の問題を早く解決しなければ、いずれももの缶詰すら食べられなくなる日が来るのです

 対処法よりもまずは原因
 よくよく考えると当たり前のことなのですが、うさぎさんのことを心配するあまり陥りやすいことなので、うさぎさんのことが大切で大切でという飼い主さんこそ、気をつけなければいけないのかもしれません。

 

 

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