うさぎに限らず、犬や猫の飼い主さんが良く言うセリフに
「食べたそうにはするのだけど…」というものがあります。
うさぎ、犬、猫、どの動物も食欲不振になるとよく見せる行動の一つです。
診察中に患者さんの食欲について質問すると、よく
「食べたそうにフードのところまで行ってクンクン臭いをかいでるんだけど、プイっとどこかに行ってしまう。」
といわれることがあります。
これは多分
「食欲はあるけど、食べれないだけ」という重病でない(もうすぐ食べると思う、だったり)というアピールだったり、あるいは
「食欲はあるんだけど、歯か口の問題で食べられない」=歯か口の中の問題さえ治れば食べるはず、というアピールだったりだと思います。
確かに実際歯や口の問題で(あるいは顎の関節の問題で)食べることができず、それをクリアすればあっさり食べてくれるというシチュエーションもあります。
特にうさぎと言えば不正咬合というくらい、うさぎは歯の病気と密接な関係にある動物ですから、そう思う気持ちはよくわかりますし、実際歯の問題で食べられない子もたくさん来院されます。
ただ厄介なのは、うさぎも犬も猫も歯の問題じゃなくても、食欲がないと大体皆この行動をとるのです。
腎不全で食欲がなかろうが、子宮癌で食欲がなかろうが、毛球症で食欲がなかろうが、みなフードのにおいをクンクンかいで食べずにどこかに行ってしまったり、あるいはいったん口にくわえた牧草をぽろっとこぼして食べずに去って行ったりという行動をとるのです。
言葉の通じない動物の治療をする上で一番危ないのが決めつけです。
「これは不正咬合に違いない」とか、「これは顎の病気に違いない」と決めつけてかかると、大きなしっぺ返しを食らってしまうのです。
食べたそうにしているけれども、食べないというのは「食欲不振」です。
食べられない病気と決めつけて、視野を狭めてしまうと大事な本命の病気を見逃してしまいかねないのです。
不正咬合や口腔内の病気はたくさんある「食べたそうにしているけれども食べない=食欲不振」の一つの可能性でしかないのです。
もちろん飼い主さんだけでなく、私たち獣医師もそのことを肝に銘じておかなければいけないのですが、ついつい飼い主さんの「食べたそうにはするんです!」とか「食欲はあるんです!」という言葉に引っ張られそうになることがあるのです。
この症状が出た時にはもちろん主治医に伝えるべきではあるのですが、あまり「食べたそうにするけど食べない」という部分を猛プッシュすると、主治医の先生の診断をあらぬ方向に誘導しかねないのです。
ちなみにこれによく似たパターンで「口をずっともぐもぐさせている」あるいは「歯ぎしりをしている」というものがあります。
これも大体が「歯の病気に違いない」という飼い主さんの思いがやや乗っかった表現になります。
こちらももちろんウサギの不正咬合で歯ぎしりしているパターンは十分あり得ます。
ただうさぎはお腹が痛くても(あるいはどこか別の場所が痛くても)歯ぎしりをすることが多いのです。
何らかの原因で食欲不振になると、その結果胃にガスが貯まり、これがパンパンにたまるとおなかが痛くて歯ぎしりをし始めるわけです。
つまり食欲が落ち売る病気であれば、何でも最後は歯ぎしりをするのです。
ですから「うさぎの歯ぎしり」=「どこかが痛い」です。
歯だけでなく、いろんな病気の可能性を含んでいるのです。
大事なことは、飼い主さんの心の診断を言葉に込めず、見たものを見た通り伝えるということです。
簡単なことのようですが、意外と難しいことです。
でも、大切なうさぎさんのために出来るとても大事なことです。
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