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アレス動物医療センター

でわのかみ

2020/3/9

 一昔前よく言われた言葉で「出羽守(でわのかみ)」といわれる人たちがいるそうです。
 「アメリカでは…」とか「海外では…」という風に、「…では」と何かを引き合いに出して説法してくる方のことを揶揄する表現だと思います。
 動物病院にもそういう「でわのかみ」の飼い主さんはときどき来られます。

 先日1歳の猫の避妊手術を希望されて電話をしてくれた飼い主さんがいらっしゃいました。

 外に出る猫さんですか?と聞くと、「毎日出ている」との返答。
 1年以内にワクチンを打っていますか?と聞くと、「打ったことがない」との返答でした。

「一度診察を受けていただき、ワクチンを打っていただく必要があります。
 また手術できる体型、状態かを見せていただきたいです。
 できたら便といつも与えているフードを袋ごと持ってきていただけると助かります。」とお願いしたところ
 「まえ別の猫を手術してもらった病院では、そんなめんどくさいことは言われなかった」との返答。
 
 動物病院ですので、毎日伝染病の患者さんも来院されます。
 ワクチンを打っていない猫さんを手術のために半日お預かりして、入院中に病院で伝染病にかかってしまっては大変ですし、もしその子が何か伝染病を隠し持っていて、他の入院患者さんに万一うつることがあっては当院としては責任の取りようがありません。
 申し訳ありませんが、ワクチンを打って2週間以上開けてからご予約を取る形になります。
 と説明させていただいたところ、では連れていく(けどフードの袋や便はもっていかない)との返答でした。

 来院されワクチンを打つ段になり、現在発情中だとのお話だったので、
「いずれにせよワクチンを打って、最低2週間は手術を待つべきですから、手術は発情が終わってからにしましょう。
 その間は外出させないようにしてあげてください。
 また、手術の後抜糸までの10日間も、エリザベスカラーを付けることになりますので、外出はさせないほうが良いです」

 と説明させていただいたところ、飼い主さんは憮然とした表情になり
「別の病院ではそんなめんどくさいことは言われなかった」とのこと

「当院ではやはりワクチンがきちんと効いてから手術すべきだと思いますし、術後万一のことがあってはいけませんので、やはり抜糸までは外出を控えてもらったほうが良いといわざるを得ないです」
「そんなめんどくさいこと他の病院では言わない」と

 そこで
「申し訳ありませんが、当院の価値観としてそこは曲げられません。
 先の病院の先生のやり方が悪いというわけではありませんが、飼い主様の価値観が当院よりもそちらの動物病院さんの価値観と合うようでしたら、そちらの病院さんで手術をしてもらったほうが良いと思います。」
「じゃあ、申し訳ないけど、そうさせてもらいます」
と帰って行かれました。
 
 このようなケースは結構よくある話で、
「前の病院では薬だけなら時間外でも対応してくれた」とか
「前の病院では、燕麦を与えてよいといわれた」とか
「前の病院では、爪切りはサービスしてくれた」とか
「前の病院では、歯石手術の前に抗生剤を飲ませろなんて言われなかった」とか

 まあ、動物病院あるあるなのです(もしかしたら人間のお医者さんでも、美容室でもなんでもそうかもしれませんが)。

 動物病院の価値観もいろいろですし、患者さんの価値観もいろいろです。

 ある飼い主さんはとある動物病院に対して
「あの病院、検査もせずにいきなり下痢止めを出してきたのよ」とおっしゃいます。

 またある飼い主さんは
「あの病院ただの下痢なのに、いきなり1万円も検査したのよ」とおっしゃいます。

 これはどちらかの動物病院が間違っていて、どちらかの動物病院が正しいのかというと、そういう簡単な話ではありません。

 僕は(うちの動物病院は)どちらかというときちんと検査をして、時間をかけて説明し、再診に来てもらうことが多いほうだと思います。
 これを丁寧だと感じる人もいれば、めんどくさいとか、待ち時間が長いとか、お金が高いとか感じる飼い主さんももちろんいるでしょう。

 一方ほとんど検査などをせずに、下痢をしていたら下痢止め、吐いていたら吐き気止め、ほとんど健康診断をせずにワクチンを打つ代わりに、とても安い費用で診療されている先生もいるでしょう。
 これを適当だと糾弾する飼い主さんもいるかもしれませんが、楽で良い、待ち時間が短い、お金もかからないと好ましく思う飼い主さんもいるはずです。
 安い診療費を設定されている動物病院さんは、生々しいお話ですがその分回転させなければ利益は出ないわけで(あるいは少人数のスタッフで戦わなければいけないわけで)、自然と短時間の診療、必要最低限の説明、検査になってしまうのは仕方がないのです。
 
 後者のやり方は僕のやりたい診療ではないですが、これを否定してしまうのはとても危険な考え方です。
 時間がなかったり、あるいは何らかの事情でお金をあまり動物にかけられなかったりという飼い主さんもたくさんいるわけで、そのような価値観の動物病院さんがなければ、下痢止めすらもらえない患者さんも出てくるわけです。

 もしかしたら短時間診療で高速回転されている動物病院さんも、その先生が本来目指す獣医療ではないかもしれないけれど、あまり動物にお金や時間をかけてあげられない飼い主さんのために、断腸の思いでそうされているのかもしれません。
 
 避妊手術でやれワクチンだ、検査だ、抜糸だといわれてしまうと、あきらめなければいけない飼い主さんだっているはずで、全か無ではなく、その他の選択肢だってあって良いはずです。

 どちらの動物病院が良い、悪いではなく、どちらの動物病院も必要です。
 ただ飼い主さんの価値観を合うかどうかのお話です。

 価値観の合わない動物病院に無理に通って、「ほかの動物病院では…」と「でわのかみ」にはならず、ご自身の価値観が合う動物病院を探されたほうが建設的です。
 
 緊急時にではなく、大切なうさぎさんや、犬、猫が元気なうちに、健康診断や爪切りを兼ねて近隣の動物病院に行き、ご自身に合う動物病院を事前に見つけておくことが大切です。

 うちの動物病院は、説明が長く、説教くさい話も多く、検査も多く、費用もぼちぼち高いほうだと思いますし、待ち時間も自慢できるほど短くもありません。
 
 それでも良い。
 その価値観が合うという飼い主さんはどうぞご来院ください。

 いるのかな?そんな人?
 いたら今後ともよろしくお願いいたします。

 

 

アレス動物医療センター

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