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アレス動物医療センター

体重は何より大事なバロメーター

2020/2/2

 うさぎに限らずですが、私が健康診断で何よりも大事なバロメーターだと思っているのは体重です。
 
 まあうちは体重管理にはうるさいことで有名な病院で、やれ太ってるだの痩せすぎだの、口うるさいことこの上ないのです(自覚はあるのです)。

 いつだったか近所の獣医さんたちとの会合(飲み会)があり、そこに獣医師会の事務局の人(獣医さん)が新聞紙を持って現れました。
 獣医師会からの啓蒙広告を新聞に打ったんだけど、その事務局の人の可愛いワンちゃんを広告写真に使ったのだというのです。
 
 へーそれはさぞかしかわいいワンちゃんなのでしょうと、新聞を先生方が目にした瞬間、
 「これはダメ!これはアレスさん(私のことです)に見せたら怒られるから、見せちゃダメ!!」
 と近隣の獣医さんたちが口々に騒ぐのです。

 まあ確かに少し(結構?)ぽっちゃりはしてましたが、さすがに楽しい酒の席で一回り以上年の離れた先輩獣医さんに説教するほど非常識ではない(つもり)なので
「いやいやそんな大げさな…」
 と応えていたのですが、
 『え?うちの病院って、近所の先生方の中でそんな噂が立ってるの!?
そこまで肥満に厳しい病院ってイメージになってるの!?』と思いました。

 まあ厳しいんでしょうね。
 でも、やっぱり体重管理は大事だと思うのです。

 糖尿病、関節疾患、胆嚢疾患、腎結石、心不全と太ることで起きる(あるいは悪化する)病気は山ほどあります。
 あるいはおやつをあげたいがために本来与えるべきドッグフードやペレットを極端に減らして、おやつを与え、体重的には問題ないけど、実は結構な栄養失調になっている子もいます。
 不思議なことにただ痩せさせろというと、おやつではなくフードを減らし始めてしまう飼い主さんも多いのです。

 そこで、この子のベスト体重は1.20sですからペレットを9g1日2回にしましょうなんて、ちまちましたことを言ってれば、まあ口うるさい病院だなぁと言われてもしょうがないのかもしれません。

 ただ一番大事なのは体重の減少です。
 日頃太らせるな太らせるなと口うるさいくせに、いざ体重が減っていると、もっと口うるさくなるのです。
 どっちやねんと思われるかもしれませんが、それはそれでまずいのです。

 例えば体重2.20sのうさぎさんが2ヵ月ぶりに爪切りにやってきた。
 元気も食欲もある。
 ペレットの種類も量も変えてない。
 なのになぜか体重が2.00sになっていた。
 
 え!?となるわけです。
 
 これがダイエットの成果であればそれで良いのです。
 あるいはペレットの量を聞いてみたら、グラム数が間違っていた(あげる量が少なすぎた)、というのであれば量を修正してもらえばよいのです。

 ただ特にダイエット中でもない。
 ペレットの量が間違っていたわけでもない。
 牧草が途切れる時間があったわけでもない(牧草不足)。
 なのに200gも体重が減った。
 えらいこっちゃえらいこっちゃ…
 となるのです。

 たった200gと思われるかもしれません。
 でもこの子にとっては体重の10%も減ったのです。
 60sの私がたった2か月で6sも痩せたのと同じことなのです。

 ラッキー!!とはなりません。
 なぜ痩せてしまったんだ?と私たちは不安になるわけです。
 いくら言ってもフードを多めに与えて、太らせる飼い主さんはたくさんいます。
 でも、少なめに与える飼い主さんはめったにいないのです。

 可能性としては次の4つです。
1.実は餌の秤が壊れている(フード量が間違っていた)
2.こっそり牧草が食べる量が減っている(牧草の食欲が落ちる病気)
3.いくら食べても痩せていく病気(腫瘍、不正咬合、腎不全、糖尿病、寄生虫…)
4.脱水症状を起こす病気(腎不全、糖尿病、消化器疾患…)

 2.20sが2.00sになって気づく飼い主さんはめったにいません。
 この段階ではほとんどの子が元気も食欲も旺盛です。
 
 以前半年前に来院した時は8.0sだった柴犬が、急に6.1sまで痩せて来院したことがあります。来院理由は脱毛(皮膚病)でした。
 「なんで2sも痩せたんですか?と聞くと
 飼い主さんは「痩せてますか!?」とびっくりしていました。
「でも、いつものフードをいつもの量食べて、元気に走り回ってるんです」と

 2sも痩せても気づかない飼い主さんもいるくらいなのです。
 いつものフードをいつもの量食べているのに2sも痩せる問題があるはずなのです。
 その子はレントゲンを撮ったら、胃の中に大量の石ころとクリップが入っていました。
 吐くほどではないけれど、弱い胃潰瘍を起こしていて、うまく栄養吸収できなかったのです。

 戦うべきはこの時です。
 この異物が腸に詰まって吐きまくってから戦うのでは遅いのです。
 あるいは急にぐったり来て、衰弱しきってから手術をするのでは遅いのです。

 動物がベスト体重をキープするには腹八分目で生きていかなければいけません。
 めっちゃ飢えているのです。
 それがベスト体重を下回って痩せてくるというのは大事件なのです。
 そんな厳しい量まで勝手にフードを減らす飼い主さんはいません。
 元気だから良いとか食欲があるから良いという話ではないのです。

 犬も猫もうさぎも信じられないくらい我慢強い生き物です。
 
 うさぎは子宮癌で手術をしても、ほとんどの子は次の日にはペレットを食べ始めます。
 何なら手術の2時間後にはもう食べてます。
 骨折をしていようが、脱臼をしていようが、それでも我慢して元気にふるまい、我慢してペレットを食べてくれる生き物なのです。

 糖尿病も腎不全も食欲不振になってから戦っては遅いのです。
 それはもう末期の状態ということです。
 ぎりぎりのところまで我慢して、我慢して我慢して、そして限界が来た時にある日突然食べなくなるのです。
 そして飼い主さんは決まってこう云うのです
「今朝から急に食べなくなった」と

 元気もある、食欲もある、下痢もしてない、でも痩せている。
 そこでもう動き出さなければいけないのです。
 疑問を持たなければいけないのです。

 調べた結果、「ああ、えさの量間違ってた」という落ちであれば、それはそれで良いのです。
「給水ボトルが壊れていた」というのであれば新しいのを飼えば良いのです。
 ただそのどちらでもないのであれば、何かあるはずなのです。

 爪切りだけでも良いので、2-3か月に一回くらいは動物病院へ行くべきです。
 そこでその子の基本の体重を記録しておいてもらうのです。

 病院に連れて行ったことがほとんどない飼い主さんが、ある日突然うさぎがぐったりして動物病院に行く。
 体重が1.60s
 めちゃめちゃ痩せている。
 獣医さんが聞いてきます。
「この子すごく痩せてますけど、いつもは何sくらいなんですか?」
 「…測ったことないんでわかりませんが、もともとこれくらいだったと思います」
 という返答では、いつから痩せてきたのか、どれくらい痩せたのか、慢性の病気なのか急性の病気なのか、まったくのノーヒントからの戦いになります。

 体重に関して口うるさいのは勘弁してください。
 それが嫌なら、口うるさくない獣医さんのところに行ってください。
 それは飼い主さんの価値観なので、良いと思います。
「体重体重、うるさいねん!」と思うのは自由です。

 ただ、この口うるさい獣医師に付き合ってくれる飼い主さんと、その動物たちだけでも、早期発見してあげたいのです。
 すべての動物たちを守りたい、なんて高尚なことは言いません。
 私を信じてくれる飼い主さん、私の手が届く患者さんだけでもベストを尽くしたいのです。 

 

 

アレス動物医療センター

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