動物にとって食欲が落ちるということが、どれほど切羽詰まっていることか、僕たち獣医師だけでなく、飼い主さんたちも良くよく理解しておく必要があります。
日頃診療時に飼い主さんへのインフォームドコンセントで、自分の診療体験だったり、自分の持病だったり、輸血犬のハニワだったり、輸血猫のしげるだったりの実体験をお話しすることがよくあります。
難しい専門用語ばかりの話よりは、そのような世間話チックなものを交えた実体験のほうが理解しやすいのではないかと思っているからです。
そのせいで診療時間が長くなるといわれればまあそうなのですが、それでも診療上大切な作業だと思っています。
その中で動物が食欲を落としたらいかに切羽詰まった状態か、いかに土俵際かという説明としてする話が、「ハニワの食欲不振エピソード」です。
人間もそうかもしれませんが、ベスト体重をキープするというのは腹八分目で生きていくということです。
ハニワはドッグフードを103gを1日3回、しげるは22gを1日2回食べています。
これを超えると二人とも体重が増えてしまうので、これがおそらく二人のベストカロリー、腹八分目の量なのでしょう。
腹八分目ですので、二人とも餌を食べるのは一瞬です。
ハニワは30秒もかかりませんし、しげるも1分かかりません。
まさに瞬殺です。
二人ともまだ6歳程度ですが、今のところ食べ残したシーンを見たことは一度もありません。
しげるは病院に来た時には足の骨が折れてプランプランの状態でしたが、普通にバクバク食べていました。
ハニワも避妊手術をした日の夜はいつも通り瞬殺でフードを食べ終え、庭をあほみたいな顔して元気に走り回っていました。
去年あごのしこりを取る手術をした日も、30秒とかからず食べきっていました。
ただいままでに1度だけ食べるのに5分かかった日があったのです。
5年前くらいだったでしょうか、いつもだったら30秒で食べ終わって、足りませんけど?という顔をしているはずが、少し食べてはこちらを振り向いて僕の顔色をうかがい、また少し食べては振り向いて、それでもえっちらおっちら5分かけてきれいに食べきりました。
今日はどうしたんだろう?えらい時間がかかったな?と思いながらリードを付けて外に連れ出すと道路に出た瞬間に噴き出すような激しい下痢をしたのです(汚い話でごめんなさい)。
本当にスプレーのように噴き出すような下痢で、この仕事も20年以上やってますがあんな下痢始めて見ました。
おそらくよほどおなかが痛かったのか、家の中を汚さないように必死だったのか、ドッグフードを食べるのに5分もかかったのは下痢のせいだったんだと、その段になってようやく気付いたのです。
なかなか健気じゃないですか?
あほな顔してかわいいやつじゃないですか。
そしてその時思ったのです。
動物って、こんな状況ですらご飯を食べるんだ、と
人間に出来ますかね、噴き出しそうな下痢便我慢して食事をとりきることって(汚いなぁ)。
僕は無理ですね。
食べれないか、噴き出すかです(本当に汚いなぁ)。
毎日たくさんの動物が食欲がないってやってくるんです。
中には2,3日前からとか言ってくる飼い主さんだっているんです。
よくよく聞いたら、1月前から食べるスピードが遅かったとかいうんです。
でも時間かけてですけど、食べきってたんです、とかいうんです。
そこでその都度あの時のハニワの下痢を思い出すんです。
それもう結構やばい状態ですから!
やばい状態1月続いてますから!!
体の小さい生き物ほどぎりぎりまで食べます。
体の小さい生き物ほどぎりぎりまで元気なふりをします。
犬よりうさぎ、うさぎよりモルモット、モルモットよりハムスター…
小さい生き物になればなるほど、食欲不振は土俵際です。
ハムスターなんて、やや土俵割ってからしか病院来ないですから。
騙されないでください。
5分で食べてたペレットが30分かかったら、もう土俵際ですから。
獣医師が考える「食欲あり」とは「いつものフードをいつもの量いつものスピードで食べられる」ということです。
牧草なら食べるとか、ペレットは全部食べてるとか、5粒以外全部食べたとか、2時間かけて食べきってますとか
そういうの食欲ありとは言わないですから。
そんな時は「暑さのせいかも」とか「年のせいかも」とか自宅でポジティブな診断はしてしまわないで、とりあえず主治医の先生に相談してください。
飼い主さんが気付かない(あるいは目をそらしている)ネガティブな可能性をきっと提案してくれるはずです。
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