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アレス動物医療センター

うさぎの麻酔

2019/5/6

 平成最後のひとりごとくらいちゃんと月末にアップしようと思っていましたが、予想通り令和最初のひとりごととなってしまいました。

 世にたくさんの動物病院がある中で、犬猫には全力投入しているけれども、うさぎの診療にはそこまで力を入れていない(あるいは入れたくない)動物病院さんもまだまだ多いのです。
 それが悪いという話ではなく、私は鳥の診療が不勉強ですから、鳥は別の先生に頑張ってもらっていますし、爬虫類や猿に関しては完全に門外漢で、外科、内科、産婦人科、皮膚科、歯科とあらゆる分野で戦わなければいけない獣医師という職業上、すべての動物、すべての分野をオールマイティに100点満点、とはいかないものです。
 少なくとも私は多少得意な分野があるのと同時に、苦手な分野ももちろんあるわけで、犬猫は得意だけどうさぎはちょっとという先生がいてもそれはしょうがないのです。

 ただ、比較的うさぎを敬遠気味な先生方の理由の一つがうさぎの麻酔のリスクだと思います。
 
 以前に比べて研究も進み、うさぎの麻酔の安全性もかなり高くなってきたとはいえ、犬猫に比べればリスクが高いのは否定できないですし、誰だって自分の麻酔手術で動物を死ぬところ等見たくはないのです。
 ましてや動物が大好きでこの職業に就くわけですから、大好きな動物を自分の手で殺してしまうかもしれないという恐怖はかなりのもので、最近ではそれに訴訟問題も付きまといます。
 当然
「あまりうさぎの麻酔はかけたくないなぁ。でも診療してると麻酔をかけざるをえないシーンもあるしなぁ。出来たらやりたくないなぁ」という思いが無意識にでも脳裏をよぎることはありうると思うのです。

 そうすると世の犬猫動物病院の先生が、もっとうさぎに本腰を入れるようになるためには、安心して行える麻酔方法の確立が重要になるわけで、この技術が進歩すればより多くの獣医さんが本気でうさぎの診療に取り組み、より多くのうさぎさんが助かることにつながるのだと思います。

 とまあ、たいそうな大義名分はともかく、自分自身当たり前ではありますが、少しでも安全に手術をしたいわけで、より安全な麻酔の模索がうさぎの診療をする上でのライフワークとなっています。

 具体的には学会で専門医の先生が実施されている方法を真似してみたり、それと自分がやってきた麻酔を比較してみたり、長所短所を検討してどこか改善のアレンジができないかチャレンジしてみたりということになるのです
 ただ絶対今までやっていた麻酔方法より優れているとは限らないので、一度に大きな変革をしてそれによるスタッフ間での混乱やエラー、緊急時の対処ができないとまずいので、安全そうな部分から少しずつ変化をつけてみて、それを10例ほどやってみたときに改良の必要性や問題点を検討する、という地道な作業になります。
 より良い麻酔の追及は、将来の患者さんたちのためにも必要な作業ですが、失敗は許されない患者さんの命ですので、当然危険な冒険はできません。

 私が思う必要な麻酔技術は大きく分けて2つで、特に2の麻酔の確立が重要だと考えています。
1.特殊な器具やコストが必要だが、99点の(より100点満点に近い)麻酔
2.特殊な器具、薬剤、コストを必要としない80点の麻酔

 80点の麻酔なんて必要なの?みんな100点満点を目指すべきじゃないの?と言われたら確かにそれはそうなのですが、それを言い始めてしまうと、結局うさぎの診療はごく一部の動物病院でなければ無理で、都会はともかく、田舎のうさぎは草でも食わしとけという話になってしまうのです。

 例えば1でいうといわゆる気管チューブを挿管して行う麻酔で、犬や猫の麻酔により近くなります。
 マスクではなく気管チューブが挿管されていれば、万一麻酔中に呼吸が止まることがあっても、機械で呼吸をさせながら手術を続行したり、あるいは蘇生したりできます。
 しかしうさぎの気管チューブの挿管は難しく、熟練の(毎日たくさんのうさぎの診察をしている)先生が可能なブラインド法(要は口の中を見ず、自分の感覚で盲目的に挿管する方法)と、硬性鏡(特殊な内視鏡)を使って口の中を見ながら挿管する方法が、主な手法になります。
 しかしブラインド法は年に4,5件しかうさぎの手術をしない先生に習得しろというのは無理な話ですし、硬性鏡はそれこそ一セットそろえようと思えば数百万もするわけで、年4,5件の麻酔のために数百万の機械を買えと犬猫メインの先生に言うのは酷というものです。
 獣医さんだって自分と家族とスタッフを養っていかなければいけないわけです。

 ですから100点満点の麻酔でなければ許されないというのであれば、結局うさぎの麻酔ができる動物病院はいつまでたっても全国に50軒にも満たず、都会はともかく地方などは3〜4県に1件しか麻酔ができる動物病院がないことになり、3時間以上かけて専門の病院に通うか、あきらめるしかないという話になります。

 99点の麻酔のためなら東京だって大阪だってどこだって行くさ!当然でしょ!?という方はもちろんそれでよいのですが、99点ではなくとも通える範囲に80点でよいから麻酔手術ができる獣医さんは必要という飼い主さんだってたくさんいるはずなのです。
 0か99の2択ではなく、80か99の2択が選べるようにならなければ、日本全体のうさぎの幸せにはつながらないはずです。

 うさぎのために病院を閉めて1年アメリカに修行に行けるわけでもない、数百万の硬性鏡を赤字上等で買えるわけでもない、でも俺だって本当はうさぎを助けたいんだという獣医さんだって多いはずです。
 
 そうすると80点の麻酔を確立するというのもとても大切な作業だと思うのです。
 私の思う80点の麻酔とは

1.簡単(ウサギを日ごろ診察しない先生でも失敗しない、これなら俺でもできる!と思える)
2.特殊な器具、薬剤がいらない(理想は犬猫の診療でも使う器具、薬剤あるいは低コストで用意できる)
3.とても安全(100点ではないけれど)

 の3つの条件を満たしたものです。
 1,2の条件を満たしつつ、より80点に近づける。
 あわよくば85点に近づける。
 そんな麻酔を見つけられたらと思います。

 別に私が発案するのではなく、誰かが発案してくれたものを丸パクリでも全然かまわないのです。
 もしかしたらそれをさらに何か改良できるかもしれません。

 1の麻酔を洗練させつつ、2の麻酔の模索をする。
 多分この仕事を続ける限り、ずっとやり続けることなのだと思います。
 そして私がこの仕事を退職した後も、きっとどこかのうさぎ好きの獣医さんが継続してくれるものだと思います。

 そうすると80点と99点の麻酔ではなく、90点と100点の麻酔の2択という時代が来るのかもしれません。

 ちなみに自分は大学6年間で一度も赤点をとったことがないです(プチ自慢)。 
 ただ100点をとるような優秀な成績でもありませんでした。
 80点どころか赤点すれすれのことが多かった気がしますが、一度も再試受験料を払ったことがありません。
 そんな感じの話です。

 …このたとえにすると途端に話の格が落ちてしまいますね。
 100点は狙えないけどせめて合格はしたいという凡人の戦いです。 

 

 

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