SFTSという病気をご存知でしょうか。
「重症熱性血小板減少症候群」という病気で、数年前から話題に登り始めた病気です。
昨年この病気に関するショッキングなニュースが飛び込んできました。
SFTSという病気は野外のマダニが保有(感染)していることがあるウイルスで、このSFTSを保有するダニに人が噛まれると人も感染します。
日本での人の感染に関しては致死率20%というかなり危険な伝染病です。
直接ダニに噛まれなくとも、SFTS保有ダニが寄生した猫や犬の唾液、鼻汁、便などからもウイルスは見つかっています。
ざっくりとした表現をすると猫や犬もマダニに噛まれると感染するということです。
さらにこのSFTSに感染した猫や犬と人が密に接触すると、人にも感染します。
つまり外にお散歩してきた猫さんにマダニがついていると、このマダニがSFTSを保有していた場合、マダニから猫、猫から人にうつってしまうことがあるわけです。
地域にもよるかもしれませんが、富山県ではマダニが体についた犬を見かけることはさほど珍しいことではありません。
ですから動物と接触が多い私達獣医師にとってはぼちぼち怖いニュースなのですが、それでも今まではちょっと楽観視していました。
それはSFTS感染猫と「密に」接触しなければうつらないと思っていたからです。
口移しで食べ物のやり取りをしたり、チューをしたり、布団で一緒に寝て顔をベロベロ舐められるでもない限りはうつらないと思っていたわけです。
ところが昨年とんでもないニュースが飛び込んできました。
それは、宮崎県のとある動物病院で、SFTS疑いのある猫を診察した獣医さんと、看護師さんが、手袋とマスクをして診察していたにもかかわらず、別に噛まれたわけでもないのに、感染してしまったというニュースです。
幸い命に別状はなかったそうですが、致死率20%という怖い病気に病院スタッフが感染したというニュースに全国の獣医師は恐れおののいたはずです。
マジか!?と思いました。
特にマスクと手袋をしていたにもかかわらず感染したっていうくだりは、とんでもない話です。
うちの病院でも外に出ている猫の診察は極力マスク、手袋をして診察するようにスタッフに申し付けてありますが、マスクと手袋していて感染するとなると、どないしたらいいねん!という話になるわけです。
フルフェイスのヘルメットでもして診察しろってことかいな?と
都会の方ではかなり外飼の猫は減ってきているでしょうが、富山県ではまだバリバリ外飼の猫さんは多いわけで、そういう飼い主さんに限ってマダニの予防とかワクチンなんてしてねぇぜ!!とか言うワイルドな人も多いのです。
日本全国の野生シカに寄生していたマダニの検査をしたところ、なんとSFTS抗体陽性率が44%!
つまり過去の感染を含めSFTSに感染したことのあるマダニが44%もいるということです。
シカだけでなく、タヌキ、イノシシ、アライグマ、ハクビシン、イタチ、 ニホンザルでも抗体陽性の報告があがっているそうです。
富山県では幸いまだ被害者の方は出ていないのですが、シカもタヌキもいますし、ハクビシンなんて山ほどいます。
いずれ富山県でも発症が認められる日が来るのかもしれません。
手袋、マスクして診察しても感染するって、どうやってスタッフや自分の身を守ればよいのでしょう。
朝から晩までフェイスマスクつけて診察しろってことでしょうか。
怖いですね。
本当に怖いです。
僕らも怖いですが、もちろん一番危ないのは飼い主さんです。
不安を煽るつもりはありませんが、もし犬を河川敷や草むら、山に散歩に連れ出す飼い主さんは、マダニの予防をしっかりしてください。
外に出入り自由の猫飼いをしている飼い主さんは、それをやめろとまでは言いませんが、せめてマダニの予防はしてください。
マダニの予防費用がもったいないなら、外に出さないでください。
ご自身だけでなく、ご家族、そして動物病院スタッフ、トリマーさんたくさんの方の危険に繋がる話なのです。
くどいようですが、医療が発達した日本での致死率20%の感染症が、すぐそこにあるのです。
狂犬病の予防もそうですが、ペットの予防で助けられるはずの人の命もあるのです。
あるいはやるべきことをやらずに、誰かの命を脅かすことになりかねないのです。
ペットの健康を維持することも含め、飼い主さんには大きな責任があるのだと思います。
僕も大きいアホなラブラドールと、心優しい猫と、凶暴な猫の責任をおって共同生活をしています。
あのアホで可愛い子たちの安全を守り、あの子達が誰かを害することが無いよう、思いつく限りの責任は果たさなければいけないと思っています。
ちなみにウサギでもSFTS抗体陽性報告が上がっています。
ウサギから人への感染事例は多分ないと思うのですが(少なくとも私が知る限りはないのですが)、うさぎさんに取り付いていたマダニに人が噛まれて、ということはないとは言えません。
うさんぽをする場合は、マダニに感染しない場所をきちんと選んであげる必要があると思います。
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