本文へスキップ

あなたがウサギに出来ることは 獣医師による うさぎ専門情報サイトです。

MAIL alles@usagi.cn

アレス動物医療センター

ハニワの手術

2018/12/2

 2週前にうちの病院の輸血犬ハニワの手術をしました。
 顎に1.5cmほどの腫瘤ができて、その切除手術をしたのです。
 
 何度かひとりごとに出てきたことがありますが、ハニワさんはラブラドールレトリバーの女の子で当院の輸血犬です。
 けして賢い犬ではないですが、人間が大好きで、ケージから出ると老若男女を問わず全力で愛情表現をしてきますが(やや迷惑)、全く吠えない犬です。
 エアコンの修理で業者さんがケージの前で2時間作業をしていても、ただ嬉しそうな顔で眺めているだけの、一見賢そうで、知能はさほど高くない、愛すべき輸血犬です。
 嫁さん曰く、ハニワには「怒り」と「反省」という感情がないのだろうとのことです。
 たしかに怒っているところと、叱られて反省しているところを見たことはありません。

 11月のはじめ頃でしょうか、ハニワの下顎が少し膨れているように見えました。
 「あれ?ハニワの顎ってこんな形だったっけ?」
 まさか6歳なのに腫瘍?
 いやでもラブラドールだからないこともないかも(レトリバー種は腫瘍が多いので)。
 いやいや気のせいかも、もともとこんな顎だった気もするし・・・

 とかうっすら悩んでいたら、嫁から
 「ハニちゃんって、顎こんな形だったっけ?」と言われました。

 ああ、これは勘違いではない。
 二人の人間が同時にそのような違和感を感じたということは、偶然であるはずがないと腹をくくり、10日後に手術の予定が空いている日を見つけて、手術を行いました。

 外観はうっすら顎が膨らんだかも、という程度だったのですが、実際切ってみると思いの外腫瘤の根は深く、顎の骨ギリギリまでありました。
 相当大きく切開しましたが、もしこれが悪性腫瘍だったら、恐れく切除しきれてないのでは、というような嫌な腫瘍でした。

 この仕事も20年以上やっているので、同じような手術は何百件もやっているはずなのですが、まあ怖い。
 手術10日前から毎日憂鬱で、手術当日もとにかくブルー(嫁さんはもっとブルー)。
 麻酔をかけるときも、手術をしている最中も、今にして思うとあまり冷静ではなかったのかもしれません。
 とにかく怖かったのです。

 よくお医者さんのドラマで、本来は自分の親族の執刀はしないのがルール(本当ですかね?)だけど、主人公のスーパードクターが華麗なメスさばきで手術を!なんてシーンが有り
 いやいや家族だからって、やることは一緒でしょ?
 何をそんな大げさな、とか思っていたのですが。

 これがいざ自分にその状況がやってくると、思いの外怖いのです。
 怖いし辛い。
 治療行為とはいえメスを入れ、肉をえぐり、と精神的にとにかく辛い。
 嫁さんに、そんなに辛いなら他の先生にやってもらったら?と言われたのですが、それはそれで辛い。
 そもそも自分のペット(輸血犬ですけど)を自分の思いつくすべての知識、技術を総動員して、長く、健康な寿命を全うさせたい、というかなり個人的な理由でこの仕事を目指したのですから、ここで他の獣医さんに手渡してしまったら、一体何のために獣医になったのかわからなくなってしまいます。

 やや泣きそうな気分になりながらもどうにか手術を終え、ぐったりのケージに横たわっている姿を見るとまた泣きたくなってしまいました。
 いつもあほみたいに笑ってばかりいるハニワが、ケージの中で横たわり、ピクッぴくっと痙攣のように震えているのを見ると、なんとも胸を締め付けられる思いです。

 当たり前ですが、私に手術を託してくださっている飼い主さんたちは、皆同じ気持ちなんでしょうね。

 頭ではわかっているようで、わかっていなかったのかもしれません。
 飼い主さんがどれほど手術を受ける前からブルーになり、どれほど怖い思いをして手術の時間を過ごし、どれほど怖い思いで病理検査の結果を待っているのか。
 わかっているつもりでも、わかってなかったのかもしれません。
 反省です。
 
 まあ、いつでも明るいハニワさんは翌日も翌々日も普通にフードを完食し、今日も抜糸もすんでないのに元気に走り回っています。
 病理検査の結果も幸い悪性の腫瘍ではなく、ほっと胸をなでおろしました。

 今後もっと大きな病気ができて、もっと大掛かりな手術が必要になったときに、本当に冷静に対応できるのだろうかとちょっと心配になります。
 その時本来の実力の8割位しか発揮できなくても完治させられるような、腕になってないとまずいですね。

手術後とは思えない笑顔のハニワさん。糸が角度的に見えませんが下顎の縫い跡がまだ痛々しい ;x;

 

 

アレス動物医療センター

〒933-0813
富山県高岡市下伏間江371

TEL 0766-25-2586
FAX 0766-25-2584