2週前にうちの病院の輸血犬ハニワの手術をしました。
顎に1.5cmほどの腫瘤ができて、その切除手術をしたのです。
何度かひとりごとに出てきたことがありますが、ハニワさんはラブラドールレトリバーの女の子で当院の輸血犬です。
けして賢い犬ではないですが、人間が大好きで、ケージから出ると老若男女を問わず全力で愛情表現をしてきますが(やや迷惑)、全く吠えない犬です。
エアコンの修理で業者さんがケージの前で2時間作業をしていても、ただ嬉しそうな顔で眺めているだけの、一見賢そうで、知能はさほど高くない、愛すべき輸血犬です。
嫁さん曰く、ハニワには「怒り」と「反省」という感情がないのだろうとのことです。
たしかに怒っているところと、叱られて反省しているところを見たことはありません。
11月のはじめ頃でしょうか、ハニワの下顎が少し膨れているように見えました。
「あれ?ハニワの顎ってこんな形だったっけ?」
まさか6歳なのに腫瘍?
いやでもラブラドールだからないこともないかも(レトリバー種は腫瘍が多いので)。
いやいや気のせいかも、もともとこんな顎だった気もするし・・・
とかうっすら悩んでいたら、嫁から
「ハニちゃんって、顎こんな形だったっけ?」と言われました。
ああ、これは勘違いではない。
二人の人間が同時にそのような違和感を感じたということは、偶然であるはずがないと腹をくくり、10日後に手術の予定が空いている日を見つけて、手術を行いました。
外観はうっすら顎が膨らんだかも、という程度だったのですが、実際切ってみると思いの外腫瘤の根は深く、顎の骨ギリギリまでありました。
相当大きく切開しましたが、もしこれが悪性腫瘍だったら、恐れく切除しきれてないのでは、というような嫌な腫瘍でした。
この仕事も20年以上やっているので、同じような手術は何百件もやっているはずなのですが、まあ怖い。
手術10日前から毎日憂鬱で、手術当日もとにかくブルー(嫁さんはもっとブルー)。
麻酔をかけるときも、手術をしている最中も、今にして思うとあまり冷静ではなかったのかもしれません。
とにかく怖かったのです。
よくお医者さんのドラマで、本来は自分の親族の執刀はしないのがルール(本当ですかね?)だけど、主人公のスーパードクターが華麗なメスさばきで手術を!なんてシーンが有り
いやいや家族だからって、やることは一緒でしょ?
何をそんな大げさな、とか思っていたのですが。
これがいざ自分にその状況がやってくると、思いの外怖いのです。
怖いし辛い。
治療行為とはいえメスを入れ、肉をえぐり、と精神的にとにかく辛い。
嫁さんに、そんなに辛いなら他の先生にやってもらったら?と言われたのですが、それはそれで辛い。
そもそも自分のペット(輸血犬ですけど)を自分の思いつくすべての知識、技術を総動員して、長く、健康な寿命を全うさせたい、というかなり個人的な理由でこの仕事を目指したのですから、ここで他の獣医さんに手渡してしまったら、一体何のために獣医になったのかわからなくなってしまいます。
やや泣きそうな気分になりながらもどうにか手術を終え、ぐったりのケージに横たわっている姿を見るとまた泣きたくなってしまいました。
いつもあほみたいに笑ってばかりいるハニワが、ケージの中で横たわり、ピクッぴくっと痙攣のように震えているのを見ると、なんとも胸を締め付けられる思いです。
当たり前ですが、私に手術を託してくださっている飼い主さんたちは、皆同じ気持ちなんでしょうね。
頭ではわかっているようで、わかっていなかったのかもしれません。
飼い主さんがどれほど手術を受ける前からブルーになり、どれほど怖い思いをして手術の時間を過ごし、どれほど怖い思いで病理検査の結果を待っているのか。
わかっているつもりでも、わかってなかったのかもしれません。
反省です。
まあ、いつでも明るいハニワさんは翌日も翌々日も普通にフードを完食し、今日も抜糸もすんでないのに元気に走り回っています。
病理検査の結果も幸い悪性の腫瘍ではなく、ほっと胸をなでおろしました。
今後もっと大きな病気ができて、もっと大掛かりな手術が必要になったときに、本当に冷静に対応できるのだろうかとちょっと心配になります。
その時本来の実力の8割位しか発揮できなくても完治させられるような、腕になってないとまずいですね。
手術後とは思えない笑顔のハニワさん。糸が角度的に見えませんが下顎の縫い跡がまだ痛々しい ;x;
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