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アレス動物医療センター

テレビのチカラ

2018/7/1

 診療をしていると,テレビやネットの影響力の強さを実感することが多々あります。
 特にテレビの影響力は強く,正しいことを啓蒙するためには非常に有効ですが,一度誤った(あるいは誤解を招く)情報が流れると,さも「正しいこと」のように全国に独り歩きしてしまいます。

 私は毎朝とあるテレビ番組の犬のコーナーを見ています。
 5分ほどのコーナーですが,毎日全国の可愛い犬の映像が流れ,奥さんと「かわいいね〜」と目を細めています。
 これを見ないと一日が始まりません。

 全力の笑顔で笑っているワンちゃん。
 楽しそうに坂道を頭から滑り落ちていくワンちゃん。
 関節がちょっと心配になるくらい,ジャンプをしながら散歩をするワンちゃん。
 様々なかわいいワンちゃんの映像で,心を癒やしてくれます。

 ただ,時々みていて辛くなるシーンもあります。

 「〇〇ちゃんには大好物があって…」というナレーションが入ると,『あ はじまった@@;』と思います。
 このナレーションと共に,何かに気づいたようにワンちゃんが台所に向かって全力疾走!
 台所で何かをトントンと切るお母さん。
 お母さんの足元でテンションマックスのワンちゃん
 「もう! ちょっとだけよ」と言って,床に落ちる何かしらの野菜(だったり,果物だったり,豆腐だったり)。
 大喜びでそれを食べるワンちゃん。
 
 まぁ、かわいいわねぇ。
 とは獣医師はなりません。

 少しくらい与えても問題のないものももちろんありますが,量が多いと中毒になりうるものや,安全性がまだはっきりしていないものを,喜んで食べているワンちゃんの映像が堂々と全国ネットで流されてしまうとドキドキしてしまいます。
 あれって毎日放送しているけど,ちゃんとどこかの獣医さんの監修って入ってるんでしょうか?
 
 その放送を見て,あぁ犬って果物食べてもいいんだ!とか
 犬って野菜食べてもいいんだ!とか
 犬っておせんべい食べてもいいんだ!とか
 本気で思っちゃう飼い主さんっていないんでしょうか。

 ある時のナレーションは「◎◎ちゃんには行きつけのお店があって…」というもので,
 飼い主さんに連れられたワンちゃんが,いそいそと焼き鳥屋さんにやってきます。
 焼き鳥屋さんはワンちゃん用に用意した串焼きを一本差し出し,ワンちゃんは美味しそうに方ばっていました。

 いやいや,あかんあかんと思うわけです。

 おそらくその焼鳥は中毒などが起きないように,タレや味付けをしてない焼き鳥風ただの焼いた鳥肉なのだとは思います(ある意味本当の焼き鳥)。
 それは飼い主さんも,焼き鳥屋さんももちろん承知の上で,タレがついた焼鳥なんか小型犬に与えているはずはないと思います。

 でも,それをぼんやり見ている高齢の飼い主さんとか,小さいお子さんとかはどうでしょう。
 へー,焼き鳥って犬は食べても大丈夫なんだ,とか
 本気で思っちゃって,実践しちゃう人はいないんでしょうか。

 口うるさいことを言うようですが,画面の何処かに目立つように「この焼鳥は味付けは一切されていません」などの表記がほしいです(このあとスタッフが美味しくいただきました,的な)。

 ネギ中毒はネギ自身はもちろん,調理過程でネギが絡んだもの(例えばタレに玉ねぎやネギの成分が入っていたり)は,煮ても焼いても,中毒を起こすことがあるわけで,焼き豚(煮豚?)を作るときは寸胴の鍋の中に豚肉と一緒にネギや人参がプカプカ浮いているのです。
 ものによってはコップの水でゆすいだくらいでは中毒を防げないものだってあります。

 以前お家で揚げた一口カツを食べて中毒を起こした犬がいました。
 とんかつなんて塩コショウじゃないの?と思っていたのですが,なんでも「美味しいとんかつのコロモ」みたいなものが売られているそうで,肉をそのパン粉みたいなものに絡めて揚げるだけ,という便利食材でした。
 ところがその成分を見ると,小麦粉,塩,こしょうのあとに「ガーリックパウダー」とか書いてあるわけです。

 袋にはもちろん「犬や猫が食べた場合は急いで動物病院にご相談ください」とは書いてありません。
 だってメーカーはそれを犬や猫に与える飼い主さんがいるとは思ってもいないのです。
 メーカーには罪はありません。

 ときに飼い主さんは拡大解釈をします。
 ナシが良いならリンゴも,リンゴが良いならスイカも,スイカも良いならミカンも,ミカンも良いならブドウも…と
 あるいはキャベツが良いならニンジンも,ニンジンが良いならダイコンも,とか
 キュウリが良いならアスパラも,とか
 
 犬がブドウで(ブドウの皮で?)腎不全になると一般的に知られるようになってきたのは,ほんの数年前だと思います。
 少なくとも私が子供の頃はそんな話は聞いたことはありませんでした。

 それまでも多分ブドウを与えていた飼い主さんはいたと思います。
 でも中毒量に達していなかったのか,飼い主さんが異常に気づかなかったのか,わからなかったのです。
 わからない病気は存在しない病気として扱われます。

 今後もどんどん獣医学が進歩して様々な毒物が発見されていくかもしれません。
 え!?そんなもので犬は死んじゃうの!?とか
 そんなちょっとでウサギも死んじゃうの!?とか
 言われる食物が証明されていくのかもしれません。

 テレビだって間違った情報(あるいは誤解を招く情報、将来否定されるかもしれない情報)は流れることはあるのです。

 野生の狼はブドウを食べません。
 野生のライオンはネギなんか食べません。
 野生のうさぎはビスケットなんか食べません。
 というか生息地にありません。

 

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