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アレス動物医療センター

うさぎで最も多い手術

2018/5/3

 うさぎで最も多い手術は?とと問われれば、うさぎの診療に直面している獣医さんはみな口をそろえて言うでしょう。
 「避妊手術です」と。

 ちなみに一番多い麻酔下での処置は臼歯の不正咬合処置だと思います。
 無麻酔で臼歯の処置ができる先生もいらっしゃるでしょうが、私は安全に実施できる自信と技術が不足しているので、麻酔をかけさせてもらっています。

 不正咬合の話は今回は置いておいて、避妊手術はとにかくうさぎは多いです。
 というか全身麻酔をかけて行う手術の半分以上は避妊手術かもしれません。
 
 厳密には卵巣子宮全摘出術ということになるのでしょうが、要は卵巣も子宮も全部取っちゃう手術です。
 これは避妊目的でというよりは、子宮癌の治療行為として行うことのほうが、現時点では多いかもしれません。
 ちなみに避妊目的の場合、1歳未満であれば、卵巣摘出術だけでも良いかもしれません(1歳未満であれば卵巣摘出術だけでも子宮疾患、乳腺疾患の予防になるといわれています)。

 うさぎはとにかく子宮癌が多いです。
 文献によっては3歳以上で子宮腫瘍に60%のうさぎがなるとか、種類によっては4歳で80%のうさぎが子宮腺癌になるとか、なかなか怖いことが書かれています。

 その数字が実際とどの程度合致しているかは今後の研究によるでしょうが、確かに子宮癌は多いです。

 犬や猫では子宮癌などめったにお目にかかるものではないですが、うさぎはとにかく多いのです。
 子宮癌の怖いところは、なかなか症状が出ないことにあります。

 典型的な症状は尿に血が混じるというものですが、これも必ずしもすべての子宮癌で出るわけでもないですし、出血しても、翌日には血が止まったりすることも多いので、飼い主さんは様子を見てしまうことも多いです。
 むしろ膀胱炎などの血尿はいったん出ると、なかなか止まらないので、治療もせずに出血が止まるほうが怪しいと考えるべきかもしれません。

 また子宮癌はなかなか食欲も元気も落ちません。
 見た目めっちゃ元気な子がほとんどです。
 子宮癌のせいで食欲が落ちるとしたらそれは、肺などに転移してしまったか、子宮癌が大きくなりすぎて他の臓器を圧迫しているか、あるいは出血を繰り返してど貧血になっているかというところです。
 つまり子宮癌のせいで食欲が落ちてしまったときは、もう手遅れか、あるいは手術のリスクがべらぼーに高くなってしまっているという、土俵際もいいところなのです。
 子宮が大きすぎるとか、ど貧血で、というのはもしかしたらまだ、うっちゃれるかもしれませんが、肺転移の場合は、もうすでに土俵を割ってしまっている状態です。

 そういう意味では、もっと1歳未満でのうさぎの避妊手術が当たり前のように広がるべきなのかもしれません。
 もちろん子供を作りたいという場合は、避妊手術はできませんが、もし子供を作らないと決めているのであれば、1歳未満に避妊手術をしてあげるのも一つの選択肢です。

 ただここで問題になるのはうさぎの手術(避妊手術に限らず)のリスクの高さです。
 出血多量でのしということはまずないと思いますが、全身麻酔でのしのリスクというのはどうしても0にはできません。

 様々な麻酔法の開発により、20年前に比べるとずいぶん安全に手術ができるようになったとはいえ、それでも犬や猫の全身麻酔に比べるとまだまだリスクは高いのです。
 そのリスクは確かに子宮癌を発症するリスクに比べれば格段に低いかもしれませんが、とはいえ健康で、元気も食欲もある1歳未満のうさぎさんが、将来の子宮癌や乳癌を予防するために手術を受け、元気に来院したにもかかわらずご遺体で帰宅するということに飼い主さんの心情として耐えられるはずがありません。

 私を含め、うさぎの診療に重きを置いて働いている獣医師たちにとって、「安全なうさぎの麻酔」は永遠のテーマではないかと思うのです。

 5%のリスクを1%へ、1%のリスクを0.1%へ、0.1%のリスクと0.01%へ
 そしていつか0%とは言えなくても(どんなに突き詰めても0にはならないと思いますが)、
「全身麻酔ですから100%安全とは言えませんが、それこそ飛行機事故にあうくらいの可能性ですので…」
 なんて説明できる日が来るまで、研究し続けていかなければいけないと思うのです。

 私がこの仕事を辞めるまでに、すべてのうさぎの診療に対応している動物病院さんで「うさぎの避妊手術のリスクは0.01%です」と答えられるようになっていると、とても素晴らしいと思います。

 あれ、この文章、飛行機事業関連の方からするとまずい表現ですかね。
 「宝くじに当たるくらい?」
 …それだとちょっとポジティブな表現になっちゃうか?

 まあ、限りなく0に近づけるといいね、というお話です。

 

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