先日一匹のパグが病院で息を引き取りました。
名前はチャーリー(仮名)。
「きょう犬チャーリー(笑)」というあだ名を病院で持ち,病院スタッフみんなに愛されていた,かわいいパグです。
チャーリーは15年の人生の間でいろいろな病気になり,その都度頑張って克服し,飼い主さんもけして最後まで諦めず,見捨てず,立派な寿命を全うしました。
チャーリーがはじめて病院に来たのは今から15年前。
病院がまだ開業まもない頃で,私一人で病院を切り盛りしていたことです。
まだ子犬の可愛い盛りで,顔は私の握りこぶしほどの大きさでした。
元気で,はつらつとしており,愛嬌たっぷりで,かわいい盛りにやってきました。
一番最初になった病気は肘の骨折でした。
成長期の,しかも関節の骨折で,うまく治らなければ一生後遺症に悩まされる非常に厄介な骨折です。
飼い主さんは当時ショッピングモールのテナントで20坪位の小さい病院をやっていた私を信じて,手術を選択してくれました。
手術は無事終わったのですが,チャーリーの活発すぎる性格は自宅での安静が困難で,2ヶ月もの期間病院でお預かりすることになりました。
飼い主さんは面会に来ると,きっとチャーリーがはしゃいでしまうと会いたい気持ちをぐっとこらえて,辛抱強く退院を待ってくれました。
骨折がきれいに治り,元気に退院していく頃には,一番可愛い年齢を越し,普通のおっさんのような顔のパグになっていました。
飼い主さんはそれでも嬉しさを顔いっぱいに出して,チャーリーを迎えに来てくれました。
チャーリーはいろいろな病気になりながらも,すくすくと育ち,いろいろな病気でいろいろな治療を受けるたびに病院を嫌いになっていきました。
診察室に入ると,リードをグンッと引っ張ってスタッフを噛むそぶりを見せるようになりました。
わんわん威嚇し,噛むそぶりをしにわざわざ駆け寄ってくるのです。
しかしチャーリーを捕まえて奥の処置室に連れて行くと,飼い主さんから引き離された途端に,しゅんと静かなおとなしいパグになってしまい,注射でも,爪切りでも,耳掃除でも何でもさせてくれました。
そして処置を終え,待合室で待っている飼い主さんにお渡しすると,また何事もなかったかのようにワンワン吠えながら,私達に襲いかかってくるふりをしました。
「きょう犬チャーリー(笑)」の誕生です。
来院するたびに激しい威嚇行為をしていましたが,ついぞ誰も噛まれることはありませんでした。
飼い主さんと引き離すと途端におとなしくなるという子はたしかに結構いるのですが,ココまでスイッチのON OFFが激しいのはチャーリーだけでした。
それからもいろいろな病気を乗り越え,手術を乗り越え,13歳を超えたあたりからでしょうか,まったく私達に襲いかかってこなくなりました。
きょう犬チャーリー返上,ただの優しいパグになってしまいました。
こちらとしては治療や検査が楽になったはなったのですが,なんだか少しさみしい思いをしたのを覚えています。
被毛の色も薄くなり,白髪も増え,おとなしくなり,それでも相変わらず病気がちで,それでも相変わらず飼い主さんは愛情を注ぎ,きちんと治療と向き合ってくれていました。
そして今年に入り,とうとう終わりの時を迎えようとしていました。
歩くこともままならず,それでも飼い主さんは一生懸命介護の手を緩めませんでした。
一旦厳しいところまで来たにもかかわらず,飼い主さんの努力のお蔭でまた自力で食べてくれるようになり,結構元気になり,1月ほど過ぎたあたりでしょうか,ある日急にパタンと食べなくなったのです。
あまりに唐突に食欲がなくなり,息を引き取ったのはその3日後でした。
点滴にと病院に来院され,診察室に入ってすぐに心肺停止状態に陥り,蘇生処置にも反応せず,静かに,きょう犬チャーリーとは思えないほどあまりに静かに息を引き取りました。
あれほど大騒ぎをしながら,きょう犬チャーリーは誰ひとり傷つけることなく天に召されていきました。
たくさんの病気を経験した子ですが,あれほど甲斐甲斐しく世話をしてくれる飼い主さんに出会えたという幸運は,あの子にとって何事にも代えがたい財産のようにも思います。
そしてあの愛嬌たっぷりの子に巡り会えた飼い主さんと,私たちもとても大きなプレゼントをもらったような気がします。
先日飼い主さんが葬儀を済ませたと挨拶に来られました。
「火葬の際ボルトが一本焼け残っていました,あの時のですよね?」
とちょっと懐かしげに,そしてやっぱりさみしげに話してらっしゃいました。
飼い主さんにはかないませんが,やはり寂しい気持ちがこみ上げてきました。
「長い間,ありがとうございました」と飼い主様は帰っていかれました。
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