動物病院業界の中でまことしやかにささやかれる格言?として「2軒目は名医」という言葉があります。
これが人間のお医者さんたちの中でも言われている言葉なのかはわかりませんが、おそらく「一軒目の病院で治らなかったものが、二軒目の病院ではあっさり治った=一軒目がヤブで二軒目にようやく良い病院に巡り会える」という意味ではないかと思います。
「ないかと思います」というのは、よく聞く言葉なので、ネット上で正しい意味を念のため調べようと思ったら、検索しても出てこないので、私が勝手にそう解釈していた意味を載せてみました(違ってたらごめんなさい)。
雰囲気で言うと、「家は3回建てないと理想の家にならない」という言葉と似たようなニュアンスではないでしょうか。
・・・違うか
うちの病院はウサギの診療やCT撮影の依頼もあり、よく他の動物病院さんに依頼を受けて、検査や治療、手術を行うことが多いのです。
で、その結果うまく治療ができると、飼い主さんは
「前の動物病院では全然原因がわからないのに、この動物病院に来たら、あっさりわかった」とか
「前の動物病院で何ヶ月も治療して治らなかったのに、こんなにすぐに治るならはじめからここに来ていればよかった」
というようなことを言われます。
おお、すげー、うちめっちゃ名医じゃん!!って言うお話では多分ないのです。
おそらくうちがその一軒目で、うちで治せなくて、他の動物病院であっさり治った、というパターンも存在すると思うのです。
二軒目(あるいはセカンドオピニオン)の強みは、すでに一軒目で実施された検査や治療が「異常値がなかった」「効果がなかった」という知識を知った上で、戦えることです。
物言わぬ動物たちから痛みや痒みや気分を聴取できない以上、状況と、手持ちの検査結果と、飼い主さんから聞いた(時々思い込みも絡んだ)意見を合わせて、可能性のあり得る病名をズラッとリストアップし、その中でより可能性の高い病気から順に治療をしていきます。
ですからこの時点では治療はスタートしていても、確定診断ではなく(病名が確定していることは稀で)、その第一候補の病気に対する治療を行い、それに反応するかどうかを見て、改善すればその第一候補の病気の可能性が高い、改善がなければ第二候補の病気の治療をチャレンジしてみるという流れになります。
これは治療であって、検査でもあるのです。
例えば下痢のウサギがやってくる。
4歳メス、避妊はしていない、ペレットの与える量が多すぎる、エアコンは夜切っているというシチュエーションだとします。
4歳メスだと子宮癌になっている可能性は十分ありうるけれど、症状が出るにはちょっと早すぎる。
肝臓癌や腎不全になるにはちょっと若すぎる(でもないとはいえない)。
寄生虫の症状としては少し遅すぎる(でもないとはいえない)。
ペレットを与える量が多すぎるということは繊維質不足の食生活だから毛球症はあり得るし、3歳だと不正咬合もありうる。
でも口の中を覗いた限りでは特に歯の異常が見えない。
まだ湿度が高い時期なので、夜にエアコンを切るには早すぎる。
で、可能性を考えると
1.環境トラブル(温度負け、湿度負け)
2.食事トラブル(繊維質不足)
3.不正咬合
4.子宮疾患
5.寄生虫
6.中毒、異物誤飲
7.その他・・・
というような順位を考えます。
で当然1,2から治療を開始します。
点滴をし、お薬を処方し温度、湿度管理をしてもらい、ペレットの量をg単位で指示し、3日間ほど治療をチャレンジしてみる。
治らなければ次はレントゲン、血液検査をしてみて更に絞り込み、以上がなければ麻酔科での口腔内検査を行う(あるいはCT検査)
それでもだめなら・・・
で、これを初っ端からフルコースでやってしまうと、すごいお金の請求をすることになり、あるいはリスクのある検査もすることになるわけで、獣医師はウサギの状態(緊急性や検査に耐えうる性格、状態か)と、場合によっては飼い主さんの懐具合も考慮して、今日はここまで調べよう、とか決めるわけです。
で、可能性のある病気3辺りまで検査、治療して治らなかったときに、二軒目の動物病院に転院すると、その動物病院は1から3の検査、治療に反応がなかったことを知っていますから、4の可能性から戦い始めればよいのです。
当然1から3の検査、治療費はかからず、運良く4番手の可能がドンピシャで、手術をしたら一発で治ろうものなら、飼い主さんからすると「まあなんて腕の良い先生なのかしらん」となるわけです。
あるいは他の動物病院の紹介や、患者さんの紹介で遠方から何時間も車を飛ばしてやってくる飼い主さんは、はじめから手間と時間とお金をかける覚悟がある方が多いわけで、CTや内視鏡、あるいは大掛かりな手術でも同意してくれる方ということになります。
飼い主さんが動物のためにとことん戦える人とわかっていれば、結構初っ端から全力投球で戦えるわけで、「ここまでならやらせてくれるかな?」とか「今日はこのへんまでの検査で辞めておこうか」とか「コストカットのために、どの検査を省こう」とか言う動物のためというよりは飼い主さんの(主に懐事情の)ための気遣いをある程度取っ払えるというのも二軒目の強みです。
このように二軒目の動物病院は結構優遇されている部分があるので、一軒目の動物病院が治しきれなかった病気を治せることが多いのですが、実際は一軒目の動物病院の下準備があってこその二軒目で、二軒の動物病院の共同作業でもあるのです。
このことはおそらくどこの動物病院の先生もご存知のことだと思います。
それでもうちの病院に患者さんを紹介してくださる先生方は、「二軒目の栄誉」をうちの病院に譲ることをわかった上で、患者さんのために紹介状を書いてくださっているのだと思います。
毎日何件もの患者さんを、たくさんの動物病院さんが紹介してくださいます。
本当にありがたいお話であり、本当に懐の深い先生方だと思います。
お中元やお歳暮だけでは足りない思いを今回ひとりごとに書かせていただきました。
いつもつまらないもので申し訳ありません。
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