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アレス動物医療センター

ネガティブ思考のすすめ

2017/7/31

 日頃診療しているとよく飼い主さんから耳にする言葉が「でも食欲はあったんです」というものです。

 ウサギの飼い主さんに限らず、犬や猫の飼い主さんでもハリネズミの飼い主さんでもみんな口にします。

 「でも食欲はあったんです」「でも元気はあったんです」「でも食べようとはするんです」…

 …で?
 と思います。

 例えば3週間前からくしゃみをしているウサギがやってきます。
 3週間元気も食欲もあり、ある日突然ぐったり倒れて瀕死の状態でやってくる。
 飼い主さんは言います。
 「今日急にぐったりしたんです。」と

 全然急じゃないです。
 3週間も前から呼吸器症状を発している。
 24時間で6日間年をとるウサギにとって、3週間のくしゃみは人間で言うと18週間(4ヶ月半)継続するくしゃみです。
 獣医師からすると、急でもなんでもないのです。
 とっくに不調は訴えているのです。
 「今度から、もうちょっと早く連れてきてあげてくださいね」とか「3週間は様子見すぎですよ」というと飼い主さんはおっしゃいます。

 「でも食欲はあったんです。」と

 これはこの飼い主さんが特別なのではなくて、大概の飼い主さんは同じようなことをおっしゃいます。
 くしゃみじゃなく、咳でも、血尿でも、下痢でも「でも、食欲はあったんです」と

 あるいは食欲すらなくなったウサギの飼い主さんは次にこう言います。
 「でも元気はあったんです。」と

 飼い主さんは「下痢」や「くしゃみ」というネガティブな因子よりも、「元気がある」とか「食欲がある」というポジティブな因子に頼りたくなってしまうものなのです。
 心の何処かで、怖い病気であるはずがない、明日には治っているに違いない、自分の気にし過ぎかもしれない、だって元気も食欲もあるんだもの、と。

 今私の後ろの入院室でウサギがバリバリ牧草を食べています。
 ほんの4時間前開腹手術をしていたウサギが、当たり前のようにケージの中を走り、牧草を食べています。
 
 あるいはうちの輸血犬ハニワ(超絶可愛くて頭の悪いラブラドール)は4年前避妊手術をした日の夜には庭中を駆け巡り、1分もかからずにドッグフードをたいらげました。
 信じられますか?開腹手術をして子宮と卵巣を全摘出した日の夜にもう全力疾走してるんですよ。

 人間だったら考えられません。
 人間だったら、まだご飯どころじゃないでしょう。
 ベッドでウンウンうなりながら横たわっているんじゃないでしょうか。

 痛くないのか?
 痛くない訳ありません。
 めちゃめちゃ痛いけど、我慢しているだけです。
 犬も猫もウサギもみんな痛みを堪え、平気なふりをして走るし食べるし愛想もふるのです。

 彼らは死の直前まで元気です。
 死の数日前まで食欲もあります。
 だから「食欲がある」「元気がある」という言葉には何の意味もないのです。
 食欲がなくなってから戦うのでは遅いのです。

 私は元来ポジティブな方だと思っています。
 自分の動物病院は潰れないし、自宅は火事で燃えないし、富山には地震も大きい台風も来ないし、嫁さんは一生自分のそばにいるし、105歳まで生きるつもりです。
 もちろんコツコツ貯金はしますし、あらゆる保険にも入ってますし、年に1度は健康診断を受けますし、常に何か起きたときの備えは万全のつもりですが、でも自分には大きい不幸が降りかからないと何の根拠もなく思っています。
 根拠はありません。
 単にそう思ってるだけです。

 ただ職業柄、こと動物の健康に関しては非常にネガティブです。
 信じられないほど我慢強く、病気をひた隠しに隠すウサギや犬、猫の健康に関してはひたすらネガティブに考えるようにしています。
 「ただのストレスで、明日にはケロッとしているかも」というポジティブな可能性と、「重病を隠し持っていて、明日にはさらに悪化するかも」というネガティブな可能性があったら、基本的にはネガティブな可能性を考慮し、治療計画をたて、行動します。
 ネガティブな路線に照準を合わせてベストを尽くしていれば、最悪の事態は避けられる可能性が高くなりますし、もし実際はポジティブ路線(放置していても勝手に治る)でも、それはそれで問題にはならないからです。
 
 明日には治っているかも、という発想は「診断」ではなくて、ただの希望です。
 もちろん明日には治っていてほしいとは思っています。
 ただ、気持ちはそうでも、計画はネガティブに、常に最悪の事態を想定します。
 「いつか治る」とは思っています。
 ただ「様子を見ていても治らないかも」と思っているのです。

 まあ、私はこのような職業なので、一般の飼い主さんまでそこまでネガティブである必要はありません。
 ポジティブな発想があってこそ続く、長期療養ももちろんあります。
 
 ただ、おうちのウサギさんにある日何かの変化があったときに、「歳のせいかも」「季節のせいかも」「換毛のせいかも」「明日には治っているかも」というポジティブな発想と同じウエイトで、「病気かも」というネガティブな発想も持ってほしいのです。 


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