日常うさぎの診療をしていると、1日の治療の遅れが命取りになることが、なんと多いのかと思います。
先日犬ですが、1週間前から吐いているという子が来ました。
食欲はあるけど水を飲んでもフードを食べてもみんな吐いてしまう。
げっそりとやせ細り、いまにも餓死してしまいそうな状態です。
検査の結果梅干しの種が腸に詰まっていることが分かり、緊急手術となりました。
小型犬にとって7日間もの期間ろくにフードを食べれてないというのは相当な状態です。
それでもその子は手術の2時間後にはしっかりと自分の足で立ち、翌日にはフードを食べ、3日後に元気に退院していきました。
人間が28日間もの期間吐きまくり(犬の7日分というと、人に換算すると28日分くらいにあたるので)、腸閉塞の手術をして、その日のうちに立ち上がって、歩き回り、すぐに飯を食って退院するなんて、ちょっと考えられないですが、それくらい犬や猫は痛みに対して我慢強いということなのだと思います。
これに対してうさぎは全く異なります。
もちろん痛みに対して我慢強いというのは犬、猫に負けていませんが、1週間もの食欲不振には全く耐えられないのです。
それどころかうさぎにとっては24時間の食欲不振が命取りになることも多々あります。
先日夜間救急でうさぎの患者さんが担ぎ込まれてきました。
ある日の朝急に食欲がなくなり、飼い主さんは今までもそのようなことはあったからと一日様子を見てしまいました。
そして翌日の夜、ぐったりして動かなくなり、救急で運ばれてきたのです(前日の朝から食欲がないのだから、救急かといわれるとどうだろうという気がしますが)。
ぐったりして動かず、歩くどころかへばったように診察台の上で突っ伏してしまっています。
息は荒く、浅い呼吸が続き、歯肉の色は紫色になっていました。
心拍数は極端に落ち、通常の半分くらいの回数に減っていました。
時間外の救急診療でしたので、私一人での検査治療でしたが、レントゲンフィルムの上においても全く動けず、抑えることもなくレントゲンの撮影ができました。
レントゲンの結果重度の胃拡張であることがわかりました。
胃に液体とガスがパンパンにたまり、通常の3倍くらいの大きさまで膨れ上がっています。
胃がここまで大きくなると背骨の下を通っている大事な静脈を押しつぶしてしまい、血流が極端に減ってしまいます。
胃にたまったガスのせいで横隔膜も押し出され、呼吸が困難な状態となり、呑気(呼吸が荒いときに、空気を胃の中に飲み込んでしまう)によりさらに胃拡張が進行しています。
かなり危険な状態なのは明らかで、急いで入院、治療となりました。
自分に思いつく限りの治療を施したつもりですが、明け方には息を引き取ってしまいました。
どうにか助けてあげられなかったものかと、自分のふがいなさで押しつぶれてしまいそうな感覚に陥ります。
この子は子宮疾患も持っているようでしたが(レントゲンで子宮が大きかったので)、肺転移などは認められず、食欲不振になるほどのレベルではなさそうでした。
軽度の不正咬合もありましたが、おそらくこちらも食欲に影響するほどのものではなさそうでした。
換毛をしている風でもなかったので、おそらく毛球症の可能性も低いでしょう。
体重は太りすぎで、一昨日まで食欲があったという飼い主様のお話も、おそらく間違ってはいないのだと思います。
解剖させてもらったわけではないので、これは単なる想像ですが、おそらく出だしの食欲不振は寒暖差のストレスなりによる食欲不振で、それにより消化管運動機能低下症に突入してしまったのではないかと思われます。
そのうさぎさんは大量のペレットを毎日もらっていたので、あまり牧草を食べてくれる子ではありませんでした。
本来はちょっとのペレットを食べ、あとは24時間牧草を食べ続けていなければいけないところ、12時間に一回のペレットがその子にとっての繊維質であり、唯一の胃腸が動く時間だったのでしょう(うさぎは繊維質を摂取した時だけ胃腸が動くので)。
飼い主さんから見れば朝から食欲がないという表現になるのでしょうが、実際は前の日の夜にペレットを食べて以来腸は動いてないことになりますので、食欲がなくなった次の日の朝の時点で36時間の食欲不振(36時間の胃腸運動停止)となります。
36時間胃腸が動かなければ胃内、腸内の内容物や便は発酵しガスがたまってきます。
胃腸にガスが貯まればおなかが痛くなり、もちろん食欲はさらになくなります。
食欲がないので胃腸はますますマヒし、ますますガスが貯まります。
そして胃にガスがパンパンにたまった時点で、重要な血管をせき止めて、いきなりぐったり。
いきなりぐったり来て、いきなり死にそうになるのです。
ここがうさぎの怖いところで、犬猫と大きく違うところです。
飼い主さんからすると、たった1日(厳密には2日)様子を見ただけで「急変した」。
ということになるのでしょう。
うさぎは本当に様子を観てはいけないのです。
前回様子を見ていたら治ったから、今回もと思ってはいけません。
あのうさぎさんがたとえ前日に連れてこられていたとしても、もしかしたら私には助けられなかったのかもしれません。
それでも助かる可能性ははるかに高かったはずです。
もっとすごい獣医師なら、あの状態から助けてあげることができたのかもしれませんが、世の中にはスーパードクターばかりとは限りません。
私のようなどんくさい獣医師だって、巷にはあふれているはずです。
どんくさい獣医師でも助けられるよう、異常があったら一分一秒を争って動物病院に連れて行ってあげてほしいのです。
たった1日の様子見が、生死を分けることがうさぎには多々あるのです。
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