本文へスキップ

あなたがウサギに出来ることは 獣医師による うさぎ専門情報サイトです。

MAIL alles@usagi.cn

アレス動物医療センター

うさぎと暖房

2017/3/1

 うさぎの診療の勉強にぼちぼち力を入れるようになって、そろそろ20年近く経つのかなと思うのですが、まだまだ未熟というか、わからないことが多いです。
 毎年何かしらの発見なり、驚きなりが、日常の診療であるので、とても面白い、というと患者さんには申し訳ないのですが、勉強のしがいのある分野だと思います。

 うさぎは暑さと湿度にとことん弱いので、富山県でも6月頭辺りから食欲不振のうさぎが山ほどきます。
 特に3歳以上のうさぎはクーラー無しで過ごすのは厳しく、9月末くらいまで大挙して押し寄せてきます。
 10月あたりになると涼しくなるのか、とたんに食欲不振の診察が極端に減り、「ああ、今年の食欲不振のピークも越えたか」と胸をなでおろすのですが、今年は11月以降になってまた4件ほど食欲不振のうさぎが来るようになりました。

 4人ともきちんと牧草中心の食生活をし、特に換毛が続くわけでもなく、歯並びもきれいで、そんなに年でもない。
 女の子のうさぎさんもいましたが、きちんと避妊手術もしているので子宮癌の可能性もない。

 これは一体何の食欲不振なんだろうと思いながら、点滴や投薬、強制給餌の治療を行っていたのですが、1付きくらいたってもなかなか食欲が戻ってこない。
 
 これはどうしたものかと悩んでいたときに、一人の飼い主さんがこうおっしゃいました。
 「いま暖房を24度で24時間つけているんですが、寒すぎますかね?」

 ・・・え?

「暖房つけてるんですか?」
「はい」
「いつから?」
「10月末くらいから?」

 もしかして、と思いました。

「もしかしたら暑すぎるのかもしれません。試しに家に帰ったらエアコンの温度設定を20度にして、明日の朝から暖房を切ってみてください」と説明してみました。
 
 飼い主さんは明らかに不安そうな顔で、その後「寒そう」とかなんとかかんとかのやり取りはあったのですが、とりあえず必死に説得してそのようにするようお願いしました。

 で、翌日あっさり食べて戻ってきたのです。
 ただ、よくよく聞いたら、心配でエアコンは18度設定でつけているとのことでしたが、まあとりあえず食べたからいっかーというところで、その子は暖房を切ったらあっさり治療が終わりました。
 ひょっとしてと思い他の3人の飼い主さんたちにも暖房をつけていないか聞いてみると、全員暖房をつけている、とのこと。
 こちらも暖房をやめてもらったり、設定温度を下げてもらったりしたところ、あっさり食欲が戻りました。

 みんながみんなというわけではないのでしょうが、私は基本的にはうさぎに暖房は必要ないと思っています。
 生後間もないうさぎとか、めちゃめちゃ弱っていて自力で体温調節も出来ないくらい瀕死のうさぎは別ですが、うさぎにとって暑さと湿度は敵であり、あるいは昼夜の寒暖差も大きなストレスです。

 今までは梅雨や夏のクーラーをひたすら飼い主さんに啓蒙していたのですが、そうか冬は温めすぎないように啓蒙しなければいけないのかと、初めて(今更)気づいたのでした。
 逆になんで今まで気づかなかったのだろうとも思います。

 やはり私の中でうさぎは暑さに弱いから、冬は大丈夫という思い込みがあったのかもしれません。
 
 私がよく飼い主さんに説明するのは、「うさぎは基本的に暑さや湿度にはとことん弱いので、梅雨夏はエアコンが必須ですが、寒さには比較的よく耐えるので(そもそも寒い国の生き物ですから)冬の暖房は必要ありません。」というインフォームドコンセントです。

 犬は寒さには強いけれども暑さには弱いので、うさぎ同様クーラーはあったほうが良いけど、暖房は基本いらない。
 猫は暑さには強いけれでも寒さには弱いので、暖房はあったほうがいいけど、クーラーは基本いらない。
 日本で飼われているうさぎはいわゆるヨーロッパアナウサギがもとですので、北海道よりももっともっと寒いところが原産の生き物ですから、寒さには強いけれども暑さにはとことん弱い。
 高温多湿の日本の夏なんて、地獄なんじゃないでしょうか。

 冬の寒さが心配ならば、せいぜいケージの周りをダンボールか何かで囲って、風の流れを止めてあげれば十分で、これに毛布までかぶせるともう暑すぎだと思います。
 リビングで一緒に生活しているんですという場合は、せめて20度以下の設定温度にしてもらうというところですが、それでも換毛が止まらなくて、冬でも毛球症になることがあるので、あまりよろしくはないと思います。
 
 一番まずいのは昼間は暖房でガンガンに温めて、夜はめちゃめちゃ寒くなるというシチュエーションで、そのような寒暖差は凄まじいストレスを与えます。
 寒いならいっそずっと寒い、暖房をつけるというのであれば弱い暖房を24時間ノンストップでつけるというところでしょうか。

 冬もうさぎは温めすぎてはいけません。
 大丈夫です。
 少なくとも飼い主さんが凍死しない寒さでうさぎは凍死しません。
 
 冬の食欲不振は、うさぎのことをほんとうに大事にしている、一生懸命な飼い主さんで多いのかもしれません。
 大切にして、大事にして、温めすぎて調子が崩れているうさぎも世の中に入るのかもしれません。

 夏にズボラな飼い主さんがエアコンを付けずに食欲不振にするのとは、ちょっと意味合いが違うかもしれませんね。
 
 人間のお子さんと一緒です。
 手を抜きすぎてもいけない。
 手をかけすぎてもいけない。

 調度良いというのが、意外と一番難しいのかもしれません。
 


アレス動物医療センター

〒933-0813
富山県高岡市下伏間江371

TEL 0766-25-2586
FAX 0766-25-2584