日頃の診察でウサギに限らず犬や猫でもあるのですが、「元気になったので、薬はもう飲ませてません」という方がいらっしゃいます。
これは獣医師としては非常に頭を痛めることなのです。
テレビを見ていると薬に関するたくさんの情報が錯綜しています。
薬の副作用。
抗生剤の乱用により、抗生剤の効きにくい耐性菌の出現。
テレビでおもしろおかしく放送されている内容は、多少演出過剰で、視聴者の恐怖心をあおるものが多いですが、確かに副作用や耐性菌は大きな問題です。
しかし使うべき時に使わないで、副作用以前に病気を治せずに命を落としてしまっては本末転倒です。
たとえば膀胱炎などでうさぎさんが病院に連れてこられるときは、血尿を訴えて飼い主さんがあわてて飛び込んできます。
で、抗生剤で治療を始めるわけですが、うまくいくと薬を飲み始めて数日で尿の色は一見正常な色に戻ります。
ではこの時点で完治しているかというと、そうではなく、見た目きれいな尿のように見えても、尿検査をすると血液や蛋白がでており、実はまだ膀胱内の細菌が減っただけで、治療は続けなければいけないということになるのです。
ここで治療をやめると当然再発するわけですが、それだけではなく次は同じ抗生剤を使っても非常に治りにくくなっていることがあります。
治療前に膀胱内に細菌が100万個いたとして、それが治療数日で1万個に減ったとします。
これは一見無作為に減っているようで、実は治療に使っている抗生剤に弱いやつから順番に死んでいくわけで、残った1万個の細菌は比較的この抗生剤に強い精鋭部隊と言うことになります。
この精鋭部隊の細菌を0になるまできっちり抗生剤を続ければいいのですが、ここで治ったと勘違いして治療をやめると、この精鋭部隊の細菌が増殖して数週間後には100万個に戻り、また血尿がでるのです。
こうなると見た目の症状も、膀胱内で悪さをしている細菌数も同じですが、その実この細菌100万個は精鋭部隊が増殖したものであり、はじめの100万個の細菌に比べて遙かに治療しにくい細菌達になっているのです。
まあ、本来はこんなに単純なメカニズムではないのですが(細かく書きだすときりがないので)、中途半端なところで抗生剤をやめると、簡単に治るはずの病気が、治療困難な病気になっていくというのは事実です。
これは膀胱炎だけでなく、くしゃみなどの上部呼吸器感染症や、外傷の治療でも同じことが言えます。
では一生抗生剤を使っていればいいかというと、それはそれで副作用の問題なども当然でてきます。
そのとき薬を使わないリスクとその薬の副作用のリスクを天秤に掛け、あるいは薬を続けるリスクと完治している可能性を天秤に掛け、悩みに悩み抜いて獣医師はその薬を処方したり、あるいはやめたりする時期を決めるのです。
意味もなく薬を飲むのは当然良くありません。
どのような薬にも副作用の可能性というのは少なからずあります。
しかし薬の悪い面ばかりを気にして、治療を避けていてはどんな簡単な病気も治りません。
一見無造作に獣医師が薬を出し、「もう少し薬は続けましょう」と言っていても、実は一生懸命考えた末の薬の選択であり、投薬期間の選択なのです。
獣医師も本当はだらだらといつまでも薬を出していたいわけではなく、早くやめたい、早く完治宣言を出したいと思いながら、それでも薬を出しているのです(ほとんどの獣医師は)。
ただやはり獣医師も「続けましょう」と言うだけでなく、これこれこういう理由があるので、まだ続けた方が良いと思います、としっかりインフォームドコンセントをすべきなのでしょう。
むすっとして診察室につき、黙ってうさぎさんに触り、ぶっきらぼうに薬を出して「来週も来て」というような獣医師は、たとえ腕が良くても患者さんとの本当の信頼関係は生まれないのかもしれません(ブラックジャックみたいでちょっとあこがれますが)。
もし薬の副作用が怖くなって、飲ませるのをやめたいなと思ったら、まず電話なり病院に連れていくなりして、やめて良いかを聞いてから行動に移しても遅くはないでしょう。
獣医師はやめても良いか、続けるべきかをもう一度熟考し、指示なり説明なりをしてくれるでしょう。
雑誌やテレビで言っている薬の副作用や耐性菌の問題は大きな問題です。
これを無視することはできません。
ただ、それをよくよく勉強した上で薬を処方している獣医師(あるいは医師)の意見は、み○もんたの意見よりも信頼性があるはずです(たぶん)。
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