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アレス動物医療センター

心を仏に

 よく飼い主さんとお話していると、「心を鬼にしてがんばります!」といわれます。

 これは何かというと、「おやつをやめましょう」的な話の時に出てくる言葉です。

 人間もそうですが、太ればいろんな病気は出てくるもので、うさぎさんだと毛球症、不正咬合、熱中症、皮膚炎、関節炎、糖尿病…まあ限りなくあるわけです。

 うちの病院で小さい頃から見せてもらっているうさぎさんたちは、飼い主さんたちの努力のおかげで、ほぼ皆ベスト体重。
 ところが、何かのはずみで、2,3歳を過ぎた状態で初めてお会いするうさぎさんたちは、大概太りすぎです。

 これはウサギにかぎらず、犬も猫もそうなんですが、まあ病院に来る9割の患者さんは肥満気味で、朝から晩まで、「こんなに太らせちゃダメですよ」てな感じのお説教が各診察室で延々繰り広げられるわけです。

 さんざん説教しておいてなんですが、逆にベスト体重のこだったり、痩せ気味の子が来ると不安になっちゃうもので、
「フード何g与えていますか?」と聞いてみて
「これっくらいの食器にこれくらい」なんてアバウトな感じでやってらっしゃる場合、何かの病気に違いない、と慌ただしく検査の話になったりします。

 「15gを1日3回与えてます」と、数字で返ってくる方は、狙ってその体重なんだな、と思うのですが、目分量だったり、手づかみだったり、洗濯スプーンで計ってたり、まかり間違って、なくなったら足している、なんて話があると、痩せていたり、ベスト体重だったりというのは甚だ疑わしい話しなのです。

 飼い主さんの心理としては、適当にフードを与えると、通常少なめか、多めかというと、まあほとんどの飼い主さんは多めに与えるわけで、それなのにベスト体重というと、何か食べても太れない病気が隠れているのではないか、なんて獣医師は考えてしまうのです。

 例えば不正咬合などは、片側の奥歯が正常なら、もう片側が結構尖っていても、どうにかフードは食べるわけで、一見すると食欲があるのに、何故か痩せていく(口内炎を治すのにカロリーを消費してしまって)という事態になったりするのです。

 ベスト体重が良いと説教するくせに、ベスト体重の子が来ると不安になるなんて、どないやねんと思われるかもしれませんが、職業病みたいなものなんでしょうね。

 で、病気も持たず、すくすく太っていく子に対し我々は言うわけです
「おやつやめましょうか」とか
「野菜は人参をやめましょうか」とか
「えん麦をやめましょうか」とか
「果物をやめましょうか」とか
 
 で、そこで飼い主さんの決め台詞が出てくるわけです。
「心を鬼にして、おやつをやめようと思います」と

 飼い主さんも健康第一に考えているから、遠路はるばる動物病院に来てくれるわけで、ほとんどの飼い主さんはちょっと悲しそうな顔をしたあと、この言葉を口にされます。

 ちなみに言うこときかない飼い主さんだと、その場はわかりましたと言っておいて、次の再診時も結局やめてなかった、という感じになります。

 「心を鬼にして・・・」というセリフを聞くと、いつもはて?と思ってしまいます。

 いや、全然鬼じゃないです。
 その子の健康を気遣って、その子の体のために、おやつをやめる。
 ごくごく当たり前。
 医者的には、当然。
 鬼どころか、親のこころか仏のこころ。
 心を仏にして・・・と言ってほしいなぁ。
 と

 まあ、理屈はそうなんですが、実際は辛いでしょうね。

 あげれば大はしゃぎのおやつを与えて、可愛い我が子の喜ぶ顔を見たい、という思いと
 少しでも健康に、少しでも長生きをさせてあげたい、という思いと
 どちらも愛情には代わりはないのですから。
 
 その葛藤のなか溢れでる言葉が、「心を鬼にして・・・」なんでしょうね。
 私が子供の頃飼っていた犬も食パンの袋のカサカサ言う音で、どんな遠くからでも駆けつけていました。
 あれを与えるのを我慢するのは、本当に心苦しかったです。
 
 ま、我慢するのも愛情のうち、ってことでしょうね。



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