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アレス動物医療センター

夜間救急悲喜こもごも

 修行時代を含めると、夜間救急診療に携わって、15年になります。
 今年でとうとう40歳。
 ぼちぼち体力的にしんどいぜ。
 とか思いながらも、なかなかやめることができずにダラダラと続けております。

 「夜間救急診療」というと聞こえは良いですが、なかなかしんどいです。
 電話がかかってきてから、来られるのに1時間以上かかることもありますし、一人きりでの診察ですから、1時間くらいかかることも多いです。
 診察が終わっても、気持ちが高ぶっていて、なかなか眠りにつけないことも多いですし、翌日は休日でもなんでもなく、普通に診療に出ます。
 富山県で夜間救急をやっていても、せいぜい年間250件程度。人件費を考えると赤字もいいところです。
 警備を外し忘れて救急診療を始め、セコムと警察官が「確保―!!」という勢いで飛び込んできたことも2度ほどあります(非常に迷惑、外見るとパトカーが3台止まっていた)。
 礼儀正しい人ばかりとは限らず、口汚く罵られたこともありますし、胸ぐらをつかみかかられたこともあります。
 「ぶっころすぞ!!」と言われたこともあります。
 
 世の中には8割の普通の患者さんと、1割のめっちゃイイ患者さんと、1割のちょっとネジが外れた患者さんがいるようです。
 ですから確率論で言うと、1割の確率で、つらい思いをするわけです。

 嫌な思いをするたびに、もうやめてしまおうかと思ってしまいます。
 つまり10回に1回はやめようかと思ってしまうわけです。

 それでもなんだかんだと15年。
 やめられずにいるのは、やっぱりやりがいもあるのです。

 先日おとなりの石川県から急患がやって来ました。
 生後3ヶ月のチワワが50cm位の太いヒモを飲み込んだという患者さんでした。
 体重1kg未満とのこと、飼い主さんの声は電話越しに分かるほど、切迫した雰囲気でした。

 どう考えても便で出るサイズとは思えない。
 万一腸に入って、腸閉塞を起こせば大手術になります。
 異物誤飲の中で最も怖いのがひも状の異物であり、場合によっては、何箇所も腸を切開しないと取り出せない、厄介な手術になりかねないのです。
 しかも年齢は3ヶ月でたった1kg.
 内視鏡すら入るか怪しい大きさです。

 「催吐剤で吐けないかどうかチャレンジしてみましょう。すぐ連れてきてあげてください。」
 そう言いながらも、内心『そんな長いヒモ、さすがに吐けないんじゃないか』『これは手術になると命がけだ』と思いました。

 1時間近くかけて飼い主さんが到着します。
 もちろんこちらには着たことのない方ですから、カーナビだよりで深夜に来るのは大変だったと思います。
 若いご夫婦のようで、青ざめた表情で、大切そうに小さいチワワを胸に抱いていました。

 見た目は元気。
 何しに来たかわからず、本人はしっぽフリフリご機嫌です。
 
 すぐに催吐処置を行い、飼い主さんに
「15分たって出なければ、おそらく吐かせるのは無理です。
 その場合、内視鏡での摘出をチャレンジし、それでもダメなら手術になると思います。」
とお伝えしました。
 飼い主さんの表情がこわばりを増します。
 生後3ヶ月の犬の全身麻酔や手術の危険性は、さすがに一般の方でもわかります。

 ワンちゃんを入院室に入れ、待つこと15分。
 本当に祈るような思いの15分。
 見事に全部吐いてくれました。
 幅1cm長さ20cmの太いきしめんのようなヒモを、吐き出してくれたのです。

 こんなものどうやって飲んだんだろうと思う長さです。
 それこそきしめんのようにズルズル飲んだのでしょうか。

 「吐いてくれました!!」とヒモを飼い主さんに見せた瞬間、女性の飼い主さんのほうが堰を切ったように泣き出しました。
 それまでずっと不安をこらえて我慢していたのでしょう。
 安心で緊張の糸が切れてしまったのだと思います。
 
 入院室からワンちゃんを飼い主さんの前に連れて行くと、泣きながら大切そうに抱きかかえました。
 ワンちゃんの方は、多分よくわかってないのか、キョトンとしたままお母さんに抱っこされています。

 「よく頑張ってくれましたね。すごい子ですね」とお伝えすると
 ほんとに、ほんとにと何度も頭を撫ぜてらっしゃいました。

 精算を終え、帰られるときに
「石川から来た甲斐がありました。本当にありがとうございました。」
と何度も何度も頭を下げられ、何度も何度もお礼を言って帰って行きました。

 あー、こういうことがあるからやめられないんだよなぁ。
 と改めて思うのです。
 10回に1回くらいつらい思いをするのですが、10回に1回くらいすごくやりがいを感じるのです。
 獣医師やっててよかった〜って思えるんです。

 まあ、どこまで体力が持つかわかりませんし、いつかは自分の体のために夜間救急から手を引かなければいけない日も来るのかもしれませんが、それまではのらりくらりとやっていきたいですね。
 で、県内に若手で夜もやってくれる病院ができたら、そろっとフェイドアウトしたいですね。
 寄る年波には勝てません。

 あ、でも夜間救急で来るときは、いきなり来ずに、電話してから来てくださいね。
 救急手術していて、対応できない時もありますから、いきなりピンポンはダメです。



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