良く言えば柔軟性、悪く言えば主体性がないというところかもしれませんが、うちの病院では手術の手技や治療法、検査法が結構激しく変わります。
先月のひとりごとで、来年獣医師を雇わなければ、てなことを書いたころ、ありがたいことに何件かの就職希望の問い合わせがありました。
そのうちの一人がすでにとある病院で働いている先生で、見学に来られた時にちょっと驚いたように「こちらの病院では手術方法など、結構変わることがあるんですか?」と聞かれました。
この手術は前はこうこうこんなやり方で、現在はこういう風に変わってきて…とその時実施していた手術方法の説明をしていて、疑問に思われたようです。
「先生」と名のつく職業の方は自分の信じた手術法や、治療法を大切にし、一途に追及されることが多いようで、あまりそうコロコロと手術法や治療法を変えることはないのかもしれません。
その点私なんか、自分のことを今一つ信用できない臆病ものですので、自分の治療方法や検査方法に若干の不安というか、疑念を持ち続けています(患者さんこれ読んで不安にならないかな)。
ひょっとしてもっと良い検査法があるのでは?とか
もっと良い治療法があるのでは?とか
もっと良い手術法があるのでは?と常に疑っちゃうわけです。
で、東の学会でこちらの手術法が良いと言われればそれに変え、西のセミナーでこの薬のほうが良いと言われればあっさりそれに乗り換え、一年の間に目まぐるしく治療法が変わっていきます。
中には変えてみたけど前の手術法のほうがよくて戻してしまったものや、買って何度かは使ったけど、いま一つで結局そのあと余剰在庫として使用期限切れを待つかわいそうな薬たちもいます。
それでも、そのままレギュラー化する治療法、薬もぼちぼちあるのです。
打率としては2割程度でしょうか。
いろいろ試行錯誤して2割しか残らないのかい!
と言われそうですが、その2割が自分なりの進歩というか、病院なりの進化というか、大事なのでは…と思います。
特に私のような発展途上の獣医師には大事なことなのです(たぶん)。
たかが2割、されど2割、です。
先日富山に戻ってきた弟子4号も、ほんの1年病院を離れているうちに、避妊手術の術式がかなり変わっていて、驚いていました。
まあ未熟な獣医師は、まだまだ改良の余地が多いってことなんでしょうけど、日進月歩の世界ですから、変化するのもそう悪いことではないのかもとも思います。
思えば私の師匠も結構コロコロ手術方法や治療方法を変える人でした。
師匠は私と違って一本芯の通った、自信に満ち溢れた獣医師でしたが、それでもより良い手術、より良い薬、より良い検査法を求めて、結構あっさりと今までの方法を捨て去る人でした。
当時一番驚いたのが大型犬の股関節形成不全の手術方法で、師匠は三点骨切り術という術式では日本でも1,2を争う執刀歴を持ち、師匠の代名詞ともいうべき手術でした。
それがとある整形外科のセミナーを受けてきた翌日、「これからはセメントレス(人工関節手術の一種)や」と全く別の手術方法に心を奪われ、その資格を取るために一月もの間病院を離れ、スイスへ行ってしまいました。
スイスから帰ってきた師匠は数十年間積み重ねてきた三点骨切り術の術式のことなど忘れたかのように
「これからはセメントレスや。もう三点骨切り術はやらん。」とおっしゃいました。
それもまた極端な…と弟子一同は思いましたが(三点骨切り術だって素晴らしい手術ですし)、まあこれが師匠の師匠たるゆえんといいますか、常に高みを目指しているスペシャリストの姿なんだろうなぁと憧れをもたざるを得ませんでした。
自分を今一つ信用できない私などとは根っこの部分は大きく違うのですが、ただ常に今よりも良いものを、少しでも前へ、という精神は見掛け上だけでも見習おうと強く思いました。
修行していた時とは大きく変わった手術法を師匠に見せ、「自分はこんなに成長しました!」とか胸を張ってみたいものですが、
おそらく「わし、そんな手術法、教えたかなぁ」と、渋い顔をされるのが眼に見えるので、けして師匠の前で披露する機会はないでしょう。
それどころか、下手すると師匠の前だけ、師匠から習った手術法に戻したりなんかして…
ちょーチキン!!
いつか師匠に「師匠のやり方を改良しました!」なんて言える日が来るんでしょうか…
うん、来ないですね、100%来ないです。
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