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アレス動物医療センター

ありがとうユミちゃん

 先月末に引っ越し作業に入り、7月1日に移転オープンをしたのですが、このお引っ越しで何よりも早く運ばれて?きたのは、診察台でもレントゲンでも、ましてや冷蔵庫でもなく、ユミちゃん(仮名)でした。

 ユミちゃんて誰?と思われるかもしれませんが、ヨークシャテリアのユミちゃん、つまり患者さんです。

 引越しに際しほぼすべての医療機器を前の病院から運ぶことになり、もちろん入院犬舎も運んでしかも組み立てるわけですから、引っ越しの3日間は絶対に入院を受けないでおこうというのが、事前の取り決めでした(当たり前ですが)。
 一日かけて犬舎を解体し、運んで、丸一日かけて組み立てるわけで、ワンちゃんにせよ猫さんにせよ、もちろんうさぎさんにせよ、置き場というか、入っている場所がないわけですから、どうにか入院患者さんが残らないようにと細心の注意を払っていました。

 が、まあ、こちらがどんなに細心の注意を払おうが、何をしようが病気にはなる時にはなっちゃうわけで、優美ちゃんが瀕死の状態で病院にやってきたのはそんな引っ越しの7日前でした。

 こりゃーどえりゃー患者さんが来たぞなもし、とどこの方言だかよくわからない言葉を院長がつぶやくくらいの、具合の悪さ。

 重度の肝不全に重度の腎不全、何も食べない、何も飲まない、それでいて吐き倒すともうどうしたもんだかというくらいの状態のユミちゃん。
 入院治療をしていてもはく、吐き続ける、毎日ひたすら休むことなく吐く。
 しかもユミちゃん体がちょー小さい。
 24時間ぶっ通しで高カロリー輸液(単なる点滴ではなく、アミノ酸や脂肪乳剤などでカロリーがあるもの)を点滴し続けても、それをすべて無にするかのように吐いて、ぐったりという毎日。
 医療に携わるものでありながら、その嘔吐の多さに、かわいそうで見ていられないほどでした。
 
 治療のかいなく日に日に血液検査の値は悪化し、弱っていくユミちゃん。
 丸1週間一切の食べ物を受け付けず、吐き続ける様を見て、正直「これはさすがに無理だろう」と思ってしまいました。
 
 毎日休みなく面会に来る飼い主さんも、さすがに日増しに弱っていくのを目の当たりにして、つれて帰って一緒の時間を作るべきか、病院で一縷の望みにかけるべきか、悩み続ける毎日。
 
 どうしたらいいんだろう、どうしてあげたらユミちゃんにとって幸せなんだろうと、面会のたびに涙を流されていました。
 
 飼い主さんに何度となく回復の見込みを問われても、
 「ここから持ち直す可能性は極めて低く、ここからもし元気になったとしたら、それはもう奇跡としか言いようがありません」と、医者としてはほぼ敗北宣言に近い言葉を繰り返しました。
 ちなみにこの段階ですでに検査や治療費を併せて、軽く10万は超えていたと思います。
 オンダンセトロンとかいう、あほかというくらい高い薬を湯水のように使い、検査を繰り返し、点滴を続け、治療費の計算をするのも嫌になるような毎日(経営者にあるまじき…)。
 
 それでも飼い主さんはあきらめきれず、その軌跡を信じて治療を続けることを選ばれました。
 「治らなくても、ちょっとでもユミちゃんが楽になるのなら…」
 そう言って飼い主さんは治療を続けることを選ばれたのです。
 
 そこまで言われては、こちらも腹をくくるしかありません。
 とことんまでやっちゃいましょう。
 引っ越し?休診?そんなこと言ってられません。
 ユミちゃんと一緒にお引っ越しです。
 
 ユミちゃんに使う予定の点滴、薬、をすべて自宅の冷蔵庫に突っ込み、ユミちゃん輸送用のキャリーバックと、折り畳みケージを看護師さんに買ってきてもらいました。
 
 新病院は入院室が山ほどあるから、折り畳みケージなんて、以後絶対使わない?
 引っ越しの3日間だけ使用予定のケージ?
 いい、もうそんなことどうでもいい。
 ケージはユミちゃんが元気になったらプレゼントしちゃえ!
 
 そんなこんなで引っ越し初日に誰よりも、そして何よりも早く新病院に足を踏み入れたのはユミちゃんだったのです。
 そのころにはすでに入院10日近くとなり、私たちにもすっかり慣れたユミちゃん。
 1時間ごとに様子を見に行くと、ぐったりしながらも、短い尻尾をパタパタと振ってくれるんです。
 やめろ、無駄なエネルギーの消費だ、動くな。
 と言いながらも、やっぱりかわいいユミちゃん。
 
 時折横切る施工会社の現場監督にすら尻尾を振り始める始末。
 やめて、ほんとに動かないで、あんたこの10日間点滴しかしてないやないか。
 
 完全にフードを食べれなくなってから14日が過ぎ、さすがに無理だろう、もういくらなんでも復活の芽はないんじゃないかと思い始めたころ、ある日ぴたりと吐くのが止まったのです。
 
 血液検査の値は相変わらず悪いままでしたが、ひょっとして、もしかしてと水をちょっとだけあげてみる。
 舐める、吐かない。
 
 いやいや、まだまだ安心はできない、嬉しがらせてほんとはあとでゲェッと吐くんじゃないの、と疑いながら、翌日流動食を3分の1ほど与えてみる。
 飲む、吐かない!?
 
 その翌日は3分の2、さらに次の日は必要最低限度のカロリーをすべて流動食で完食するユミちゃん。
 まじで!吐かない!!
 
 信じちゃうよ、おじさん信じちゃうよ!?
 とかわけのわからないことを言いながら缶詰のフードをあげてみる。
 食べる!!吐かない!!!
 
 アンビリーバボーです。
 奇跡です。
 医者がこんなこと言っちゃいけないんでしょうが、正直無理かもと思っていました(とくに嘔吐2週目に突入したあたりで)。
 
 これはもうユミちゃんか、飼い主さんの怨念または執念のたまものではないでしょうか。
 
 そしてユミちゃんは今退院し、通院治療をしているのです。
 まだ本調子とはいきませんが、自力で食べ、血液検査の値も正常値となり、元気に尻尾を振りながら病院に来てくれているのです。
 
 ありがとうユミちゃん。
 あの小さい体に、いまさらだけど、あきらめないことの大切さを教えられたよ。
 
 本当にありがとうユミちゃん。
 こんなこと言っちゃなんだけど、死んでたらすごくげんの悪い引っ越しになってたよ。
 そしてさらに言うなら、治療費も安心して請求できたよ(いやらしい)。
 ありがとうユミちゃん。



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