うちの病院には「大阪のおっちゃん」と呼ばれている、愛すべき医療機器メーカーの営業マンがいます。
うちのように小さい動物病院でも、いろいろな人に支えられてやっていけているわけで、当たり前ですが私一人の力では何も出来ません。
ほかの獣医師、看護師ももちろんですが、会計士さんや薬品メーカーなど、さまざまな人に支えられて成り立っているわけです。
その中の一人うちの医療機器部門を支えてくれているのが「大阪のおっちゃん」です。
「大阪のおっちゃん」とは大阪の医療機器メーカー「松永メディカル」の課長さん(今出世したのかな?)で、私が大阪にいたころからの付き合いですから、もうなんだかんだと15年ほどのお付き合いになるかもしれません。
一言で言うと、変な人です。
こてこての関西弁で、とにかくしゃべるのが好き。
一緒にご飯を食べに行っても、あまり食べ物、お酒も手につかず、とにかくしゃべってる。
おそらくほっとくと朝を通り越して夕方までしゃべっている、というくらい口車の回る人です。
たくさんの動物病院を担当してきたので、経験も豊富で、たくさんのことを教わりました。
あ、なんかこんな書き方すると、故人みたいですね(元気に今も働いてらっしゃいます)。
初めてお目にかかったのが、富山での開業を控え、大阪で開業準備を始めたときでしたが、あのときのことを今も鮮明に覚えています。
1年後に開業ということで、松永メディカルさんの応接室?でお会いし、最初に言われたのが
「せんせ、まだ開業まで1年もあるんですから、動くのが早すぎますわ」
…普通、自分から飛び込んできた客を逃げられまいと取り込もうとしそうなものですが、あっさりそんなことを言ってましたね。
『そんなこと言って、私が別の医療機器メーカーに行ったらどうするんだろう?』とか思いながら、お茶をすすっていると
私が購入したいと見積もり依頼を出した医療機器リストにざっと目を通しながら、おっちゃんは言いましたね
「せんせ、開業しょっぱなから血球計算機と生化学検査機両方は、贅沢ですわ。
どっちか一台諦めてください。
病院が軌道に乗って、余裕できてからもう一台かいましょ。」
驚きましたね。
まさか医療機器メーカーが医療機器を買うなというとは思ってもみなかったですから。
確かにどちらも1台150万くらいしますから、両方買えば300万という大出費で、買わなくてすめばそれはもちろん助かるのですが、医療機器屋さんからすると150万の儲けを捨てるような行為なわけで、そんなこと言う営業マンがいるとは思ってもいませんでした。
変な人だなーと思う反面、この人とならきっといい仕事が出来るという絶対的な信頼感を植えつけられました。
まあそれが、信頼を得るための手練手管だといわれればそうなのかもしれませんが、じゃあ大型家電量販店行って、「テレビとエアコン買いたいんだけど」って行ったら、普通「お金もったいないから一台にしなさい」なんて店員さんは言わないですよ。
開業して1,2年たち、少し軌道に乗ったころだったでしょうか、何かの医療機器のことを聞いたときも、相変わらず変わった返事が返ってきました。
「せんせ、医療機器もなんだけど、あの車いつまで乗ってんの?」
当時まったくお金のなかった私は、諸経費含めても30万にもならない中古のハコバンに乗っていたのですが、いきなり車の話が出てきたわけです。
「?いや、まだしばらく乗れるかなーと思ってるんですけど」と答えると
「大阪の大きいビルの経営者で、けちで有名な人がいるんだけど、その人も車だけはベ○ツみたいな頑丈なのに乗ってるんだって。
どれだけコストは削れても、健康だけはお金に返られないから、先生もあんな事故ったらペシャッとつぶれるような車にいつまでも乗ってたらあきませんよ。」と
医療機器じゃなくて、扱ってもない車薦めてきた!?って驚いたのを覚えています。
何年か前に知り合いの先生が公務員を辞めて開業され、病院見学に行ったときに、最新式のレントゲンにエコー、赤外線レーザー、あらゆる整形外科に対応できそうな手術器具に、殺菌消毒用のオートクレーブという機械が2台とすごい豪華なラインナップ。
まあ、その先生がお金持ちだったのかもしれませんが、どこの大病院!?というこのラインナップ、きっと大阪のおっちゃんだったら、止めただろうなぁという感想は否めませんでした。
今でも大阪からフラッといきなり病院に現れて、「近くまで来たんで」とか言って大阪の手土産もって来るんですが、あまり会社にじっとしていないので、会社に電話していたためしがないですね。
1,2時間世間話してまたふらっとどこかに行っちゃうんですが、あれですね、大阪のふうてんの寅さんみたいですね。
ちなみに「近くってどこから?」と聞くと「福井」とか2時間くらいかかるとこの地名が出てくるので、その元気さがうらやましくも思えます。
富山にももちろん医療機器メーカーはあるわけで、いろんなメーカーの人が来るのですが、うちには不動の四番「大阪のおっちゃん」がいるので、大概の医療機器メーカーの方はこの牙城を崩すことが出来ません。
先日大手のエコー会社の営業さんが飛び込みでやってきて、新しいエコーの説明をしてくれたのですが、
「まあ、もし買うとしたら松永メディカルさんを通して・・・」というと
「医療機器はすべてそちらを通されてるのですか?」と目を丸くされたので
「まあ、そこの担当さんが好きなんで、その人が買えというものは何でも買うし、買うなといえば買わないし。
お金ないときから世話になってるから、同じ医療機器買うにしても、その人の成績なりになるようにしたいんでね」と
営業の人は「そこまで言ってもらえると、営業冥利に尽きますね」と苦笑いしながら帰っていきました。
うちの病院では、院長がうんと言っても、大阪のおっちゃんがうんと言わなければ新しい医療機器は変えないというのが、ルールなんですよ。
必要ないものは必要ないといえるって、当たり前のようで、なかなか客商売では難しいんじゃないでしょうか。
本当によく、見習わなければと思うことがあります。
あのスタンス、ずっと変わらないでいてほしいなぁと思うわけです。
先日件の血球計算機が壊れて、修理を依頼したらメーカーが代替え機として最新式のやつを持ってきてくれました。
白血球や赤血球の数だけでなく、百分比という白血球の種類わけまで自動にやってくれるすごいやつなのですが、スタッフが「変えよう、変えよう」って、新しい血球計算機にメロメロになってしまって(メーカーの思うがまま)、一応リップサービスがてら、営業の人に
「前の機械下取りにするといくらくらいになります?」と聞いてみたら
営業の人はホクホク顔で
「じゃあ、大まかな見積もりだして、修理費と両方松永メディカルさんに報告させていただきます」
と帰っていきました。
数日後大阪のおっちゃんから電話がかかってきて
「せんせ、あの百分比はまだ精度がもうちょいですわ。
あと2,3年もしたら、もっと精度あがっていいやつ出ると思うんで、ここは修理のほうがええんとちゃいます?」と
相変わらず、稼ぐ気あるのかないのかと思いながら
「じゃあ、修理でお願いします」と答え
思わずニヤッと顔が緩むのでした。
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