私がこの鹿を助ければ、百頭死ぬところが九十九頭になる。
それでいいじゃないか。
私が好きな漫画家さん遠藤淑子先生のある作品中のセリフです。
先月、個人的にやってるブログ(といっても獣医師に全く関係ない、漫画のことしか書いてない、かなりオタクなブログですが)で取り上げたネタで、閲覧者に同世代の人が多いのか、えらく反響が大きかったので、ちょっとひとりごとでも使い回しを ^^;
遠藤さんのその漫画を読んだのは当時中学生だったでしょうか、いまだに忘れられないフレーズで、時々思い返すことがあります。
何年か前に、血尿を主訴にうさぎさんがやってきて、飼い主さん曰く「膀胱結石で、ずっと医療食を食べてるんですが、いつまでたっても治らないんです」とのことでした。
うさぎの膀胱結石用の医療食なんてあったっけ?と思って名前を聞いてえらく驚きました。
猫用pHコントロール
つまり猫の膀胱結石用のフードをずっと食べていたそうなんです。
完全草食動物のウサギに猫用のフード。
あまりにアグレッシブな治療に、ちょっと言葉を失いました。
「レントゲンで石でもうつったんですか?」と聞くと
「レントゲンは撮っていません。尿検査で尿に結晶が出ているそうで、これが消えないんです。」とのこと。
うさぎの尿は正常でも結晶が山ほど出るのに・・・と思いながら、レントゲンを撮ると、膀胱結石ではなく子宮癌でした。
笑い話みたいですが(飼い主さんにとっては笑い話になりませんが)、実際あった話です(もう6,7年前だと思いますが)。
このサイトをご覧になってらっしゃる方なら既にご存知かもしれませんが、今の日本はウサギに関しては驚くほど診療レベルが病院によって異なるのです。
別にウサギをあまり診療しない先生方が腕の悪いわけではなく、単にウサギを管轄とされてないだけなんですが、おそらくウサギを犬猫と同等に力を入れている病院さんというのは10軒に1軒とか、下手すると20軒に1軒くらいの割合なのかもしれません。
ただこれはある程度しょうがないことで、獣医師は外科も眼科も内科も腫瘍化も耳鼻科も歯科もこなさなければいけないわけで、私みたいにウサギに向かっていく獣医もいれば、眼科に向かっていく獣医師も、外科に向かっていく獣医師もいるのは当然です。
というか、そうでないと外科や眼科の進歩がないわけで、それではウサギだけ助かって、他の動物が今度は見捨てられることになります。
そもそも私だって爬虫類やおさるさんの診察は全くできないわけで、それと一緒です。
ただそうはいっても、うちはウサギが得意です。なんてことがタウンページにでも書ければよいのですが、それは獣医師法違反になっちゃいます。
患者さんからすると、どこがウサギに力を入れてる病院なのか分からず、場合によってはあまりウサギが得意でない病院にあたってしまうかもしれないわけです。
以前とあるウサギに力を入れている先生がおっしゃってました。
「今の日本の状況だと、助かるはずのウサギも助からない。俺たちだけがどれだけ頑張っていても、限界がある。」と。
だからもっとうさぎの診療を一般に定着させよう。というのがその先生のお考えで、これは全く同感で、素晴らしい志だと思います。
ただ、この話をお聞きしているときにふと頭をよぎったのが、冒頭のセリフです。
「王室スキャンダル騒動」というギャグ?コメディー?マンガなのですが、話のくだりとしては
とあるヨーロッパのお姫様がヒロインのおはなし。
娯楽としての狩りで追われている鹿をお姫様が山中で助け、その狩人と交わした会話
姫「食うのか?」
狩人「は? いいえ別にその鹿は食べませんけど。」
姫「じゃあ見のがしてやれ。 腹もへってないのに狩りをする事はなかろう。」
狩人「やさしいお嬢さんだ。 でも世の中では何百頭という鹿が狩られているんですよ。どうします?」
姫「私がこの鹿を助ければ、百頭死ぬところが九十九頭になる。それでいいじゃないか。」
うーん。
深い(気がする)。
当たり前ですが、狩りをするなとか鹿を食うなとかそういう話じゃないですよ。
ストーリーには実はあまり関わらないセリフなんですが、なんとも記憶に残るシーンです。
「動物のお医者さん」を読んで獣医師を志したわけじゃないですが、このセリフにはかなり大きな影響を受けた気がします。
環境問題、エコ、マナーの問題なんかもそうなのかもしれませんが、自分一人が一生懸命ゴミの分別していても、それをやらない大多数の人がいたら一緒じゃないか、なんて思ったときなんかにも有効なセリフ。
何でもそうなんじゃないかなと思います。
毎日病気になる何百匹のうさぎさんを私一人で助けられるはずはもちろんないんです。
そりゃまあよくわかってるんですけどね。
私がこのウサギを助ければ、百頭死ぬところが九十九頭になる。
それでいいじゃないか。
ってなことですよ。
あと蛇足ですが、個人的なブログのほうを見ると、私に対する見方が(おそらく悪い方へ)変わってしまうので、探さないでください。
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